第24話
王国ってくらいだから、身分のある社会だろうと、想像はしていた。
しかし、目の前では王女とルシィが、仲良く髪留めを選んでいる。
「ああ言うのは、よろしいんですかね?」
不安な訳ではないが、一応聞いておく。
「せっかくの宮廷の外ですから、ベアトリーチェ様も息抜きが出来て、よろしいかと」
「だとしても、貴女も王女殿下に親しくなくて?」
ラミアが言うには、この国の王家は、国民の信頼も尊敬も厚く、その権力も絶大なものらしいが。
わたしはと、カテリーナが語ってくれる。
ベアトリーチェの生母は、貴族のスフォルツァ一門出身で、遠いとはいえ親戚だそうだ。
その縁で早くから宮廷に上がり、王女の側に仕えていたと。
ただ、その王妃は、ベアトリーチェを産んで数年後に亡くなったとも。
「わたしの髪の色は、王妃様と同じで、お母様の髪みたいと懐いてくれてね」
そう言って、ダークブロンドの髪を指に絡めた。
「なるほどねえ。王妃様が亡くなったのは、私も小さい頃に聞いたわ。その後に、新しい王妃を迎えられたことも。何かと大変みたいね」
まあそうだねと、カテリーナは曖昧な返事をした。
質問攻めも悪いかと思ったが、貴族の出身なのに、何故騎士なのかも聞いてみた。
「私の実家に爵位はあるが、それは陛下に頂いたもの。ベアトリーチェ様に直接仕えるには、アグレス公爵家の騎士になるのが、一番手っ取り早くてね」
「側に居る為に、家を捨てて騎士になるなんて、良いわねえ」
ラミアは、そのシチュエーションを気に入ったようだ。
「決めたわ! これにします。あとこれも全部」
何時の間にか、ピンクと白の花柄の髪飾りを、頭に着けた王女が立っていた。
手に持った箱には、プラスチックの腕輪や指輪など、店頭にぶら下がってるような、安いアクセや雑貨が詰まっている。
本当に売って良いのか、あとで呼び出されたりしないか、これ。
「こんなに沢山ですか。買ってもよろしいですか?」
そんなもので良ければ、幾らでも。
それではと、カテリーナが合図すると、メイドが小さな布を持ってきた。
開くと、中からは、見たことの無い大判の金貨。
そのまま受け取ってくれ、釣りは必要ないと言われる。
「1リル金貨!」
「へー、わたし初めて見ました」
1リルって金貨二十枚だったか、いやいやそんなにしませんよ!
まあ良いからの一言で、受け取らされて、王女殿下一行は帰って行った。
去り際に、ルシィもうちに遊びに来てね? と恐ろしい言葉を聞いた気がするが、気のせいだろう。
少し遅めの夕食の席で、案の定、ルシィは王女だと気付いてなかったと判明した。
まあこちらは、三人でこそこそと喋っていたし。
「だって、ベアトリーチェよ、としか言わなかったから……」
二日目の自由市場は、無事に終わった。
この二日で、七割方の物が売れた。
エンリコ隊長達が、何度か見回りに来てくれたお陰だろう。
明日、お礼にお酒でも渡そうかな。
「ちょっとお使いに行ってきてくれる? 私はルシィとお風呂に入るから」
この家には風呂がある。
湯船もあるが、焼き石に水や湯をかけるサウナタイプ。
浴室の前は、ゴーレムが立って居る、外を見てもゴーレムが見張っている。
魔法使いのセキュリティは高い。
使いの先は、先日も行った酒屋だ。
ついでに隊長に渡す酒も買うかと、歩いているとこを、突然掴まれた。
両脇を抱えられて、路地裏に連れ込まれる。
誰だが、直ぐに分かった、ギルベットの使いとか言ってた奴ら。
あちらも素性がバレてるから、無茶はないだろうと、日本の基準で考えてたのが甘かった。
無言で、いきなり顔面を殴られる。
立たされたままで、タコ殴りだ。
これはヤバイ……泣けば許してもらえるだろうか…‥
……あれ? 余り痛くない。
オオコウモリの鉤爪に比べたら、屁みたいだ。
「こいつ、硬え!」
眼の前の大男が音を上げた。
代われとばかりに、次の男が勢いをつけて、みぞおちの辺りを蹴り上げる。
掴まれた両腕が離され、地面に叩きつけられたが、やはり怪我する程ではない。
まだ、あれから七日しか経ってなく、マナが残ってるのか。
痛みがないなら、恐怖もない、俄然やる気が出てくる。
いきなり起き上がって、目の前の男に、頭から突っ込んだ。
このまま押し倒して、お返しだ!
と、思ったが、数歩押し込んだだけで、あっさり止められた。
別に、力まで強くなった訳ではないんだ……。
それでも、まったくダメージの無さそうな俺に、あきらかに怯む。
その隙に、路地裏からは転がり出た。
「てめえ!」
一人が殴りかかってくるが、ここは覚悟を決めて、思い切り頭で受けた。
これは少し痛かったが、相手も手を痛めた、音からして多分折れてる。
周りの人達が気付き始めた、店から出てくる人も居る。
リーダー格らしき奴が近寄り、捨て台詞。
「何処の馬の骨とも知れないよそ者が、調子に乗るなよ!」
そう言うと、折れた右手を抱えた男を抱えて去っていった。
喧嘩とは言え、動悸と興奮が激しい。
そりゃそうだ、これまで争うことなど無かったもの。
「大丈夫かい兄ちゃん?」
「警務隊を呼ぶかい?」
街の人が声をかけてくれるが、平気ですと平気ですと言いながら酒屋へ。
身分不詳なのは、こっちだからなあ。
酒屋からの帰りは急いだ。
もし、ラミア宅が襲われてたらと気付いたのだが、家の裏も浴室も、ちゃんとゴーレムが守っていた。
風呂上がりの二人に、先日と先程あった事を話す。
「ギルベット? 知らないわねえ。まあ当たってみるけど」
お手数をかけます。
「それより、身分証明の方が大事ね。無いとお金も預けられないし、馬も借りれない」
だが、俺の事を証してくれる人は、この世界には居ない。
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