第23話

 家へ帰り着くと、ラミアが渋い顔をして手紙を読んで居た。

 まさか、さっきの奴らがと思ったが、違った。


「丁度良かった、二人共、荷物は奥へやって着替えてちょうだい」

 着替えろと言われても、そんなに服は持ってないが、なるべく綺麗な格好でと言われた。

 ルシィはラミアのお下がりを着せられて、お姫様みたいですねと喜んでいる。


「何かあったんですか?」

「先程、使いが来てね。もうすぐお客様が来るから」

 先触れとは古風だが、電話がないこちらでは普通なのかな?

 ラミアは店に閉店の看板も出した、貸し切りだ。


 しばらくすると、屋根なしでも、幌でもなく、箱型の馬車が店の前に止まった。

 馬車の前に2人、後ろに2人付いてて、客車の階段を出す。

 これは、本気のセレブ馬車だ。


 中から出てきたのは、まず女性の使用人、メイドかな。

 次に、細い剣を吊って 一瞬男に見えたがこれも女性か。

 最後に目深にフードを被り、顔は見えないが、女の子。


 昨日、髪飾りをまとめて買った貴族の娘かな、追加注文なら嬉しいな。


 入り口をくぐると、お付きの一人が扉の外で、もう一人とメイドが中で扉の左右に立つ。

 剣を吊った女性が、一歩前に出て口を開いた。

「急な訪問で、申し訳ない。昨日買い求めた装身具を、主も所望したのだが、全て使用人に配った後で……」

 女騎士は、ちらりと主の方を見るが、彼女は気づかないふりをして、店内を見渡してる。

「そこで、自分で選ぶとわがままを言い出して、迷惑をかけることになったのだが、よろしく頼む」

 『わがまま』を強調して言ったが、ご令嬢は知らんぷりだ。


 お運び頂きありがとうございますと、挨拶を返すラミアの後ろで一礼して、商品を取りに裏へ引っ込む。

 こんな状況は想像もしてなかったので、どう振る舞って良いのか分からない。

 この髪留めも、手づかみで持って行って良いのか?

 とりあえず、そこらにあった箱に綺麗に並べて、全種類持っていくことにした。


 戻ると、大胆にもルシィが貴族の娘に、話しかけていた。

「こんばんわ。わたしは、ルクレツィア・リコットと言います。貴女のお名前は?」

 怖いもの知らずって怖い!


 ただ、お付きの人で一番偉そうな女騎士は、それを気にする様子が全くない。

 それに安心したのか、ラミアが女騎士を引っ張ってきた。

「こちら、妹弟子のルクレツィアの友人、サガさん。髪留めは、この方が持ってきたの。こちらは、騎士のカテリーナ・スフォルツァ。女性の貴族は珍しくないけど、騎士級は珍しいわよ」


「お初にお目にかかります、ラミアの友人のカテリーナです」

 ああ、はい、よろしくお願いします……

「友人だったかしら?」と、ラミアが茶々を入れる。

 仲は良さそうで、この二人が並ぶと、宝塚の一幕の様な風景になる。


 気が付くとメイドが隣に来て、両手を差し出していた。

 箱を渡すと、そのまま捧げ、女の子二人のとこへ持っていく。

 箱一杯の髪留めや小物を見て、二人は一気に盛り上がる。


「ね、ね、付けてみる?」

「良いのかしら?」

「平気よ、だってわたしも運んだのよ」

「なら……これをお願いするわ。わあ、とってもかわいい!」


 そんな会話をしながら、少女はフードを外した。

 気品のある顔立ちがあらわになる、流石は貴族だなと思ったが、横でラミアが目を見開いていた。

 そのまま卒倒しそうになるラミアを、まるで演劇の様にカテリーナが支える。


 我に返ったラミアが、小声でカテリーナに噛み付いた。

「どういう事!? 貴族の令嬢の護衛をしてるって言ったじゃない!」

「嘘は、言ってないぞ。アグレス公の肩書を持ってる、まあ公女でなくて公爵だけど」

 アグレスは良く覚えている。

 高原地帯の中心都市で、代々王女が任命される領地だとか……ん?


 固まったラミアと俺を置いて、カテリーナが主に声をかける。

「ベアトリーチェ様、こちらの二人を紹介したいのですが」

 うんともはいとも言わず、ベアトリーチェ王女は黙って向き直る。

 ラミアとサガです、とカテリーナが紹介する。

 何も言わずに、軽く膝を折って礼をするラミアを見て、一礼するが何か違う気がする、ここは膝を着いた方が良いのか?


 着くべきか着かざるべきか、迷っていると、王女は直接声を掛けてくれた。

「そう固くならずに。押しかけたのはこちらですから。良い品ですね、気に入りました」

 ありがとうございます、と言って良いものか。


「ベアトリーチェ……様?」

 姉弟子の緊張がルシィにも感染ったようだ、少し不安そうな顔になった。

「あら、ビーチェで良いのよ?」

 それはやめて、とラミアが目で訴える。


「じゃあ、ビーチェ様!」

 ラミアが絶望した顔になったが、カテリーナが笑って引き取った。

「仲良くなったみたいで、良かったじゃないか」

 そういうものですか。


 そっと引き上げて、三人で離れた席に着いた。

 お茶を飲みながら、女子二人が色んなアクセや小物を試すのを見つめる。

 年齢的には高校生だが、方や王女で、もう一方はその顔も知らない田舎娘。


「寿命が縮んだわ」と怒るラミアに、笑うカテリーナ。

 こっちは宮仕えと女性実業家かな。


 そして俺は異世界人、変な組み合わせだなあ。

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