第22話


 朝早くから、荷物を運んで、商品を並べる。

 川に面した通りの片側に、次々と露天が出来ていく。


 川面を通る風が気持ち良く、夏の間は、涼を求める人々が集まる良立地だそうだ。


 右側は、革で作った小物を売る商人。

「村々を周って、少しずつ買い集めるんです。各地の特徴が出て面白いんですよ。店を持っても、留守が多いですから」


 左側は、なんと異国から来た人だった。

 民芸品らしい絨毯やタペストリーを置いている。

 こうやって、店舗が無い人が集まるのか。


 他には、工芸品や細工物が多く、香り袋や宝石っぽいもの、中には花を売ってる人も居る。

 生花なんて、売れるのかね。


 特に始まりの合図もなく、買う人が来れば開始だ。

 宣伝もしてないので、出足は鈍い。

 自転車を使えば良かったか……そんな中、一番繁盛してるのが花屋だった。


「朝のお散歩に来て、綺麗な花があれば買っちゃいますよね」

 眠そうにルシィが呟いた。


 売ってるものは珍しいので、足を止める人は大勢居る。

 だが財布の紐は固く、一番安い折り紙やアクセが中心に売れる。

 フェアンで売った時の、倍に設定したのはやり過ぎだったかも知れない、しかし輸送料もかかってるしなあ。


 昼頃には、ラミアが弁当を持ってきてくれたが、見るなり一声。

「あんた達、わかってないわねぇ」

 露天とはいえ、商品台も借りて綺麗に並べ、値段のポップも作ったんだけど。


「ちょっと待ってなさい」

 そう言ってラミアは、左隣からタペストリーを一枚買った。

「汚い木の上に並べたら、蒼紅玉だってガラス玉に見えるわよ。ほら、さっさと商品をどけなさい」

 タペストリーを台に敷いてから、綺麗に並べ直す。


「あっちの花も、一束買ってきなさい」

 ルシィがダッシュで買いに行く。

 これで良いわと、今度は反対側から革の小物入れを買って、花を飾る。

 最後に、持ってきた日傘を魔法で固定し、台の前に日陰を作る。


「こんな日差しの中、炎天下で品物を見るわけないでしょ」

 それから『まあなんて素敵な鏡だこと!』と、サクラまで買って出てくれた。


 効果は抜群だった。

 持ってきてくれた昼食を食べる暇もないほど、お客の足が途切れない。

 左側の商人も、真似をしたら売れ行きが伸びて、ほくほく顔だ。

 

 しばらくすると、どの店の台にも、民族風のタペストリーが敷かれるようになった。

 姉弟子様は、本当に凄い。



 市場の閉めは、日が沈み初めてから一刻半、つまり午後三時程と早い。

 買い物客も消え、片付け作業の最中に、店の前に4~5人の男達が立った。

「すいません、もう終わりなんです」と、言い終わる前に囲まれた。


「お前、ギルベットさんのとこに商品持ってくる約束だろうが?」

 ああん? といきなり凄まれた。

 いきなりなんだ、そんな約束もベルベットも知らねえよ。

「ギルベットさんがよう、わざわざ買い取るって言うのに、勝手なことされちゃあ困るんだよね」

 ひょっとしてあれか、フェアンで名刺らしき銅板をくれた人か!


 言い返す隙もない、と言うか口約束すらしていないのに。

 ルシィがこの場に居ない、馬車を取りに行ってたのは、不幸中の幸いか。

「おめえよ、何処の商人? 他国でも、ギルドか商会に所属してんだろ、証明するもん見せろよ!」

 これはマズイ、早く戻ってきてくれルシィ。


 不穏な空気を察したのか、革製品を売っていた商人が、声をかけてくれた。

「すっこんでろ!」と、チンピラもどきが威嚇するが、勇敢にも商人は引かない。

 今度は、逆サイドから異国の商人まで参戦してきた。

 

 それを合図に、他の商人も集まってくる。

 その顔はみんな、何処となく楽しそうだ、旅をして売り歩く商人って逞しいんだなあ。

 騒ぎの真ん中で小さくなって居ると、一度聞いたことのある呼び子が聞こえた。


「何をしている、騒動か? この王都でそんな事、許さんぞ」

 数人の兵士を引き連れ、こちらにやって来るのは、エンリコ隊長!?

 それを見て、絡んで来た男たちは足早に消え去った。


「おや、また君かね。余程に縁があるようだな」

 ははは、と笑う隊長の髭面が眩しい、惚れてしまいそうだ。

 まずはお礼を、二度も助けられたのだから。

 それから、聞きたかった事を聞く。


「あの、アデリナは、王都まで無事に着きましたか?」

「彼女かね、もちろんだよ。急ぐからと、馬で付いてきたが、峠も無事に超えてから別れたよ」

 それは良かった!


 隊長とその隊は、今は王都の治安維持の任務になったらしい。

 と言っても、治安が悪いわけでなく、北の大魔術師の近くの駐屯地が廃止になったので、とりあえず一番無難な配置になっただけだとか。

「ほとんどは、喧嘩の仲裁や酔っぱらいの相手だよ。明日も、この辺りを見回ってあげよう」

 がはは、と笑いながらエンリコ隊長は去って行った。


 そこへ、ルシィが馬車を引いて戻ってきた。

「馬がいたしちゃって、馬糞の掃除に手間取って! ん、何かあったんですか?」

 せっかくのロマンティックな再会が、台無しだよ。


 商売道具や、袋に一杯の金貨銀貨を馬車に積み込んで、商人達に見送られながら帰る。

 小売の商人を脅して安く商品を巻き上げる、たちの悪いのが居るから、気をつけろよと声をかけられた。

 

 幸いにも、帰り道では、何も起きなかった。

 

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