第20話
ガラガラと馬を引いてゆく。
荷車の御者台では、ルシィとラミアが、日傘の下でお喋りの真っ最中。
仲睦まじく、大変よろしいようで。
街中で走らせるのは禁止されてるので、二人は乗っているだけ。
奴隷は居ないが、徒弟や使用人は居る、たぶん俺みたいな立場だろう。
「お嬢様方、着きましたでやんす」
「あら、ありがとう」
「ご苦労さま」
いえいえ、大変光栄でございますよと。
荷物の預かり場。
馬借に頼んだ荷はとっくに着いていて、預け状と身分を証明する物を、ルシィが見せて受け取る。
当たり前だが、俺の身分を証明するものは何も無い。
日本では簡単に出来ることが、異世界ではこんなに大変だなんて。
五つの荷物を荷台に乗せるが、これが重い。
見かねた人足が、ラミアに話しかける。
「お手伝いしましょうか?」
「あら、ありがとう」
金髪の魔導師がにこりと笑うと、あっと言う間に片付いた。
「沢山持ってきたのねえ……」
「はい!ここで一儲けしようと思って!」
ルシィとラミアのお喋りは続く、俺は黙って馬を引く。
「これだけ売れれば、相当なものでしょうに。そんなにお金が要るの?」
「魔法の練習にかかるんですよ、失敗も多くて……」
「そうだったわね、私がもう少し教えてあげれば良かったんだけど」
「うーん。けど姉さまとわたしでは、魔法が違わないですか?」
「そうね、貴女の得意なものは変わってるから。けど、才能はあるのよ?」
「えへへ……がんばりますね!」
「良いお手本になる人が居れば、良いのだけれどね。私も、姉様も、精霊を操るのはさっぱりだったから」
「着きましたでやんすー」
往復で二時間くらいだったか、やっと馬引きが終わった。
「じゃあ、荷物は、裏口から入れておいてね」
「さっきから、変な喋り方をしてません? なんとなく分かります」
魔法翻訳は優秀だな。
お嬢様方の言いつけに従って、口調を直して、一人で荷物を運び込んだ。
荷物には、魔法で封がしてある。
簡単には開かないし、衝撃にも強い、お蔭で鏡なども一枚も割れてない。
開けるのはルシィの仕事、封を解いて、残ったマナも回収する。
「うちのお店に置いても良いけど、この量なら、自由市場で売るしかないわねえ」
「自由市場?」
「何でもって訳ではないけど、店を持たない商人や、村単位で場所を借りて、商品を売ることが出来るの。直ぐに現金が手に入るから、重宝されてるのよ」
それは良い事を聞いた。
「ただし、市場は数箇所あるけど、こういう嗜好品や高級品を買う人が来る場所は、高いわよ。それに審査もあるわね」
果物や酒と一緒に並べても、売れないってことか。
審査となると、またルシィに頼むしかなさそうだが、そのルシィはと言うと。
「自由市場の前に、まずはお昼にしましょう!」
正論だけれど、ラミアに会ってから、子供っぽくなってないか?
あの家に長いこと一人で居て、やっぱり寂しかったんだろうか。
市場の受け付けに行く前に、ラミアが商品を少し買い取ってくれた。
路銀と預かり料で、実はすっからかんだ。
髪留めを五十個で銀貨四百、同数の手鏡を銀貨八百。
フェアンで売った値段と変わらない、もっと安くしますと言ったが押し切られた。
「平気よ、この倍で並べるから。それに、ここの一ヶ月の家賃、この倍以上よ」
それを聞いて、隣で果実汁を飲んでいたルシィが、むせて吹き出した。
来客があると言うので、二人で市場の登録に行くことになった。
ルシィが神妙な顔をしてるので聞くと
「わたしも何時かは、大都市で開業をなんて考えてましたけど、家賃で二リル(金貨四十)なんて無理です……。一年もすれば、今の家が買えちゃいますもん」
どうしたものかと、ルシィの野望を砕かない答えを探す。
「ほら、この行商で大儲けして、あとは……ルシィにも、得意な魔法あるんだろ?」
「わたしの得意って、精霊を見つけたり使ったりなんです。水脈を教えてもらったり、大地の中を見通したり、けど今では、簡単な魔法道具で出来ちゃうんですよね……」
ああ、オオコウモリに襲われた時に、炎を操っていた。
「けど、何か強そうだけどね。ほら、魔物退治とか」
ルシィは更に微妙な顔になる。
「大昔は、そうだったみたいですよ。少人数で、剣士や戦士の武器や防具を強化して、魔法で援護する魔法使い! って言えば、精霊使いだったそうで」
いいじゃないか。
「けど今は、魔物が出れば王国軍が来てくれますし。魔物を狩る人達も居るんですが、大人数で弓矢や投げ槍を使って、仕留めるそうです」
冒険者も集団戦なのかあ。
もし俺に特別な力があれば、二人でパーティーを組んで、ドラゴン退治。
そんな事も出来たかも知れないが、せいぜい行商人ですまない。
そっと、心の中で謝った。
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