第19話 ルクレツィア・リコットその2
とんでもない事をしてしまった!
探索陣から人を引っ張り出すなんて!
それ以前に、人が魔法陣を通れるなんて聞いたことがない。
そんな事が出来るなら、世の中もっと便利です。
「あのー、大丈夫ですか?」
返事がない。
これはまずい、このまま死なれたら、確実に魔術師免許は取り上げになってしまう。
それどころか、牢屋行き。
全力で近所のお医者様のとこへ駆け出す。
ぜーはー、お願いですから、家に来て下さい!
「この方が怪我して倒れてたので……」
嘘は言ってません、原因も言ってないですけど。
「鼻の頭を、何か堅いもので殴られた、ぶつけたような怪我だねぇ」
当たりです。
「とりあえず、止血と治療もするかい?」
して下さい、私が払いますから!
「よし、簡単な治療だったし、まけておくよ。ただこの人、この顔立ちに、黒い髪に濃い肌。南方か、ひょっとしたら、東から来た人かもねぇ」
思い切り遠くを探索して、珍品を見つけるつもりだったから、そのせいかしら。
仕方がない、今度はジエットさんの所へ行かないと。
ジエットさんは、お師匠様と同門の魔導師で、何かと気にかけてくれる、もう一人の師匠といった方で、この街に身寄りの無いわたしにとって、一番頼りになる方だ。
小言は貰ったが、トラドゥトレと呼ばれる通訳道具もわけて貰えた。
これで起きたら話が出来る、ただ出費はかなり痛い。
魔法の素材やマナの購入のツケや、ギルドの会費が心配だなあ。
魔術師と魔導師が所属するのが、魔法ギルド。
というより、魔法ギルトが認めたのが魔術師と魔導師と言った方が良い。
国を跨いで広がる大きな組織で、魔法を使った商売を独占している。
ただし、それだけでなく、情報の共有や、他のギルドの利用する時の割り引きから、仕事の斡旋に融資まで、幅広く助けてくれるので欠かせない存在だ。
そうは言っても、今の状況がバレるのはマズイけれど。
この人、遠くから来たみたいだけど、何処からだろう。
南と言えば、アストラリス大陸。
東と言えば、大国のパルティア、その向こうはもう伝説の国。
起きたら、お話が聞けるかしら?
んん? あれ……? この人、マナが体に流れてない!
失礼して胸に手を置くと、生きてる! けど、変わった人だなあ。
あ、やっと起きた。
良かった、人殺しにならずにすんだわ。
落ち着いて、変な印象を与えないようにして
「本当にごめんなさい!」
起きたと思ったら、直ぐに帰ってしまった。
タカテラサガヤと言っていた、変な名前。
けど、異国のお話が聞きたかったなあ……わたし、この街から出たのも数えるほどだし。
魔法陣はまだ残ってる、せっかくだから、消えるまで放っておきましょう。
それから三日、突然、魔術室でわたしの作った魔法が使われた。
この家に人が入れば、家にかけた魔法で気付く。
けれど、マナが無い人なら探知出来ない、きっとあの人だ!
トラドゥトレを掴んで駆け出した。
予想は大的中!
さあ異国のお話を聞かせて下さい!
この方が来たのは、異国じゃなくて、まったく別の世界でした……
いやいや、いきなり一緒に商売をしようって言われても。
わたし、貴方のこと、全然知りませんし。
お話を聞く限り、悪い人には見えないですし、お金儲けが出来れば嬉しいですが……そう言えば、来月はツケが溜まっていたような……
うーん、ここはジエットさんに合わせてみましょう。
そっちの世界に遊びに、いや見学に来ないかですって!?
もちろん行きます! 魔術師を志した時から、そんな冒険に憧れてました!
いやいや、軽々しく乗っては駄目。
ここはラミア姉さまを見習って、わざと思わせぶりな態度を。
ほら、強引に誘ってきた、仕方ない行って差し上げますわ。
なんだこれ!?
初めての異世界は、想像を超えていた。
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