第6話 大長門有希伝説

 ノアが箱舟を作って乗せた生き物の中に恐竜がちゃんと入っていたとしたら、現代にまで生き続けた恐竜に玉乗りを仕込みたいと思うのも当然の話ではあるが、先日近所の科学館でやっていた「大恐竜展」なるものを見たハルヒが大興奮のあまり、翌日から世界は恐竜が当たり前に街を闊歩する世界になってしまったわけである。


 先ほど古泉はティラノサウルスに齧られ、朝比奈さんはブロントザウルスに踏み潰されてしまったのであるが、そんな時長門はというと、相も変わらず文芸部の部室で本を読んでいたわけである。


 外に出るのも危ないので購買で買ったうどんを部室の机で啜っていると、ハルヒがやってきて「恐竜がいて不思議だわ!」と言った。そうかい。


 ティラノサウルスに齧られた古泉は頭から血を吹き出しながらも命からがら部室にやってきて「これはちょっとした事件ですよ…」と言ったのだった。


 「きっと絶滅した恐竜が今繁栄してる人類に復讐するために蘇ったのよ!それかゴジラみたいに核廃棄物の影響かもしれないわ!」などと自説を宣うハルヒに、古泉は頭から血を吹き出しながらも頷いてみせた。

 俺はというと、やはり冷たいうどんにはレモンがついてないとな、と思いながらも、味気ないうどんを啜っていた訳である。


 長門は最近は電子書籍派になったようで、iPadを使って本を読むようになったのであるが、恐竜図鑑では恐竜の動いている姿までは想像できなかったらしく、Amazon Prime Videoを起動して「ジュラシックパーク」の視聴を始めたのだった。


 ブロントサウルスに踏み潰された朝比奈さんは紙みたいにぺらぺらになって部室のドアの隙間から入ってきたのであるが、古泉やハルヒの方向からは一本の線としか認識できない角度であったため、ハルヒたちは気づくことはなかったようである。


 紙のようにぺらぺらになった朝比奈さんが「キョンくん、お茶です」と言っていつものようにお茶を煎れてくれたので、うどんが気管に詰まって窒息寸前だった俺は一命を取り留めることになるのだが、これは、後で聞いた話になる。


 しかし、その時俺たちは朝比奈さんが煎れてくれたお茶の水面に起きた、刻一刻と大きくなっていく波紋に気づくことはなかった。


 そう、気づくことはなかったのだ。  


「大長門有希伝説」完

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