第20話 モンスター

「どんどん来い!」


アルフレッドは持ち前のガントレッドでウルフドッグを殴り続ける。

噛み付いてきても、ウルフドッグの歯は彼のガンドレッドに傷を付けられない。彼にとって腕とは最大の「盾」なのだ。

噛み付いて来たウルフドッグをそのまま地面に叩き付けて左足でその頭をストンプする。また襲い掛かってきた個体を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、その全てを一挙動で屠っていく。

アルフレッドは背中から聞こえてくる剣戟とアイリスの息遣いを頼もしく思いながら、ただ前だけを見てウルフドッグの攻撃を迎撃する。


暫くすると、最後の一匹が逃げ出したのでアイリスが追撃と言わんばかりにショートソードを投げつけて胴体を貫き、ウルフドッグとの戦闘は終わった。


「結構、ウルフドッグって銅貨落とすんですね」

「ゴブリンとスライムで銅貨1枚だったっけ?それがウルフドッグで1匹につき3枚になるのか。成る程、そりゃあここで稼ごうとする奴が多いわけだ」


ウルフドッグが消滅した後から出てきた銅貨は3枚。ゴブリン3匹分である。そう考えると、中々実入りは良い。3匹ほど狩ればギルド食堂で一番安い食事の一食分には届く計算だ。それが合計15匹なので銅貨45枚。中々の収穫であろう。


「おいお前ら!ここで何してやがる!」

「は?なんだおっさんら?」


唐突に草むらの奥から出てきた怪しい冒険者集団。どれも安い皮装備で腰に吊るした剣も粗末なものだ。年齢もアイリス達に比べて10歳は上だろう。


「ここが俺達『互助会クラン』の狩場だと知ってモンスターを狩ってたのか?」

「知らねーよ。ていうかなんだよそのクラン?ってやつ。聞いたことねぇわ」

「知らないじゃ済まされねぇんだよ。ここは俺達の狩場だ。ここで狩ったモンスターのドロップは全部置いていけ」

「はて、倒したモンスターのドロップした銅貨は倒した者の所有物になると聞いていたのですが?」


アイリスが至極真面目に問うと、男たちは噴出したかのように笑い出した。


「ハハハハ!それがどうしたんだ?お前ら鉄プレートの初心者かよ?いいか、ここは俺達『互助会クラン』の狩場だ。そんなお約束は通用しねぇんだよ。分かったら全部置いてとっとと失せろ」


支離滅裂。意味不明な説明に流石にアイリスとアルフレッドは顔を見合わせる。

ギルドが定めた冒険者ルールに反するどころか通用しないとはどういうことなのか、2人にはさっぱり分からなかった。


「いや、マジで意味が分からん。おっさんら頭大丈夫か?」

「んだとクソガキ、てめぇも痛い目を見なきゃわかんねーか?」

「ちょ、ちょっとアルさん、あまり煽らないで下さい。彼らマッチ以上に気が短いみたいですし」

「俺らを舐めてんのかァ!?俺達は『互助会クラン』だぞ!!?」

「だから知らねーつってんだろうが、もしかして記憶力ないのか?知り合いに治療魔法使えるヤツ知ってるから紹介するぞ?」


純粋に心配しつつ煽るアルフレッド。それを見ながら成り行きを見守るアイリス。2人はこの程度の人間に負けるとは思えなかったので自分の主張を退けようとしなかった。


「もう許さねぇ、おいクソガキ、そこの女置いてったら許してやってもいいぜ?」

「あ?」


不味い、そう思った時にはアルフレッドは既にキレていた。

このままでは、衝突してしまうどころか、下手をすればあの男を殺してしまうかもしれない。


「アルさん、待って!落ち着いて!」

「おい、クソ野郎共、今アイリスを置いてったら許すとか言ったか?」

「そうだクソガキ。今なら女を一晩借りるだけで許してやるぜ」


(あー、この人達、アルさんの強さを測れない残念な人達なのか......)


アイリスは片手で顔を覆いながら彼らの冥福を祈る。

10名前後の人間で囲もうが、彼らではとてもアルフレッドには勝てはしないだろうことはアイリスには容易く想像出来た。

まずアルフレッドが冒険者にしては幼く、背も低いからこそ舐められているのだろう。だがそこが落とし穴。アルフレッドは自分の感情を爆発させながらコントロール出来るような人種なのだ。


「断る」

「は?お前今」

「断る、って言ったんだよ。お前ら耳も遠いのかよ、冒険者辞めたら?」

「てめぇ、生きて帰れると思うなよ......てめぇら!やっちまえ!ここで2人殺してもバレやしねぇ!モンスターに襲われて帰らぬ人、ってなぁ!」

「なんとまぁ、筋書きまで幼稚ですね彼らは。アルさん、やってもいいですけど殺さないように」

「.......チッ。分かった。後でモンスターに殺されるぐらい半殺しにする」

「あ、後それと剣を振り下ろされてから攻撃してください」

「は?なんでそんな面倒くさい事を?」

「いいからやってください。後で説明しますから」


男たちが粗末な剣を引き抜き、アイリス達に襲い掛かってきた。どれも動きはバラバラ。個人個人が「自分が斬りに行く!」としか考えていない動きだ。


「死ねやああああ!」


ただ立っているアルフレッドにその剣が振り下ろされた。

が、次の瞬間にはその刀身は半ばから消失していた。


「な!?」

「遅せぇよクズ」

男の腹にアルフレッドの超高速の拳が叩き込まれる。

男は体勢を崩し、胃の中のモノを逆流させて口から吐き出した。

アルフレッドはそのまま男の足を蹴り飛ばし、右足の骨を叩き折った。

叫び声を上げられぬまま、男は地面に倒れ伏しアルフレッドはその顔面に強烈な蹴りを叩き込んだ。


「1つ」


続けざまにアルフレッドは別の男の顎をアッパーで殴り、腹を蹴って弾き飛ばす。


「2つ」


降り掛かられた剣を半身を避けてかわし、横腹に肘撃ちを打ち込んで体勢が崩れたところを顔に右ストレートを叩き込んだ。


「3つ」

「あれ、相当キレてますねぇ、まぁ私もアルさんの事を言われたらあそこまではいかずとも怒るでしょうが......」


そこにアイリスを狙った男がアイリスに掴み掛かってきた。

アイリスは溜息をつきながらその男の片腕を斬り飛ばした。


「う、腕がぁぁ!!?腕があああああ!!!」

「煩いですよ。男なら腕の一本我慢しなさい」


煩く騒ぎ立てる男の首を鞘で思い切り殴って意識を飛ばす。

残った男たちは、剣を構えながらジリジリと後ずさりしていた。


「さて、次はどいつだ?」

「テ、テメェら......後が怖くねぇのかよ!?あとで俺たちの仲間がお前らに復讐しにいくぞ!!?」

「お前らなんぞ、何も、何も怖くねぇ」

「そうですね。やれるものならどうぞ。その前に貴方達は」


アルフレッドが消える。

男たちは動揺するが、1人、また1人と高速移動するアルフレッドにその意識を刈られていく。


「ここで寝ていてください。起きる前に助けが来ると、いいですね?」


アイリスは、冷酷な微笑を浮かべながら気を失った男に笑いかけた。

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