第18話 森林地区への入り口
「食料」
「クソ不味い携行食糧2日分よし」
「ライフポーション」
「2本良し」
「スタミナポーション」
「2本良し」
「アンチドーテ......は、私が持つ2本っと」
「そういえば装備を色々と更新するとか言ってなかったか?」
「流石に昨日の今日では出来ませんよ。幾ら金額が掛かるかも分かりませんし、とりあえずは今のままです」
「胸甲ぐらいあったほうがいいと思うけどな。アイリス胸小っちゃいんだし男物でも......いってぇ!頭を叩くなよ!」
「女の子に胸の話は禁忌ですよ!私だって、その...気にはしてるんですから」
「いや、その。ごめん............」
第2階層、森林地区。鬱蒼と生い茂る木々が、薄く光を灯している天井にまで背を伸ばしている第2階層の名物地区。
そこには様々な動植物が生態系を築いており、その生態系の頂点にモンスターが居るような環境だ。生い茂る草木によって地区の中の見通しは極端に悪い。そのせいもあってか、森林地区での死亡率は全地区の中で1位を誇っていた。
「ここまでの情報を見れば、本当にこの地区に第3階層への入り口があるって感じがしますね」
「てか、ほかの冒険者に聞けばよかったんじゃねぇのか?そうすんのが一番早いと思うけど」
「なんでも、鉄プレートに階層の入り口を教えるのは厳禁なんですって。無謀にも挑んで行方不明になる冒険者が多数居たようです」
「なるほどなぁ。昔から馬鹿はいたんだなぁ」
「アルフレッドもその馬鹿の1人になりかけてましたけどね?」
「うっせー。あんなん予想しろっていうのがおかしいだろ」
2人は森林地区入り口脇で装備のチェックをしていた。ここまで念入りにチェックしているのは珍しいのか、通り掛かりの冒険者たち皆が2人をジロジロと見ていく。
森林地区への道は、比較的人通りが多い。
採取目的の冒険者が多いのだ。その理由は様々だが、一番は考えられるリスクに返ってくるリターンが割合的に多い事だろう。初心者向けの特にめぼしいものがない平原地区や、トラップが多数あり、探知と解除に優れた者が居ないと稼げない鉱山地区に比べるとそのリスクとリターンの割合はソロでも十分にあるのだ。
もちろん、より上の階層の方が稼げる。だがその分リスクとなる危険度は増してくる。更に言えば、第10階層に存在する階層ボス。それらの存在を考えると、やはり第2階層での採取が割に合っているのだそうだ。
とはいっても、今の2人にそのような話は関係がなかった。
現在の『勇者隊と出会う前に早く第2階層を突破する』という目標と、『どうせ第11階層以上で稼げるし』という上を見据えた目標があるからだ。
移動の水晶玉を手に入れてしまってから、2人はほぼ一生塔の攻略に費やさねばならなくなった。最低でも現在の最高到達階層である第70階層への到達。そしてさらにその上への侵入。
一般的な冒険者であれば、才能がなくて第30階層止まり、才能があっても第50階層。ほんの一握りの優秀な人間が第70階層に到達出来るという事実。
2人はリリアーナと話し合い、今はとにかく『登れるところまで登る事』に決めたのだった。
なお、第2階層を一気に攻略する理由としては、第3階層からしばらくは動く迷宮となっているようで、余程運が悪い事がない限り勇者隊と出会う事もない。第3階層にさえ到達してしまえば移動の水晶玉がその階層を記憶して、次からそこまで一瞬で飛んでくれるようになるからだった。
「そう考えると、普通の冒険者は面倒くさいよなぁ。俺たちは偶然で手に入れた水晶玉があるからいいけど、普通は一気に登らなきゃいけないんだぜ?」
「銅プレートへの昇格試験の際に色々と考慮されてるようですよ?詳しくは知りませんがどうやら銀プレートしか移動の水晶玉は持てない、というのは絶対のルールではないようですし」
所謂、暗黙の了解というものだった。
上を目指したい、強くなりたい、と強く思う者こそ水晶玉を渡すべきである、というギルドの方針であった。
「よし、準備出来たし行くか。後、マジで胸甲は考えとけよ?あるなしではもしもの場合には全然違うんだからな?」
本当なら腹部も装備で固めるべきなんだけどなぁ、と言いながら森林地区の内部へと進んでいくアルフレッド。アイリスも後に続いた。
(鎖帷子並の防御力はあるバトルドレスですが、やはり必要でしょうか...?)
アイリスが扱うバトルドレスは、腐っても剣の名家で生まれた彼女らしく、相当な値段がする一張羅である。動きを阻害せず、何より鎖帷子を仕込んだドレスよりも軽い。そして乙女としての矜持も保てる一品だ。並の皮鎧よりも防御力は高い。
そんなバトルドレスの上から小さく、そして平坦に近い胸を撫でる。胸部を守る防具。それであれば鉄の胴鎧ぐらいは買うべきか?そうは考えても、まず真っ先に来る問題があった。
(お金が、なんですよねぇ......)
真っ先にぶち当たる壁といえばお金の問題だ。
アイリスが現在寝泊まりしている宿の代金、日々の食事代、消耗品代、装備の修繕費。その他色々。現在までの冒険で得た金額ではとてもではないが賄える額ではない。むしろ赤字である。実家から持ってきた自分の貯金と渡された資金がまだあるからいいものの、日々目減りしていくのではいつまで持つか分かったものではない。
今後、第10階層へ到達出来るまでの時間が予測出来ない以上、金策はまともに出来ない。それまでに資金が無くなることはないであろうと思われるがそれでも頭を悩ませる事には間違いない。
「そういえば、アルさんは普段お金とかどうしてるんですか?」
「金か?昔、裏ファイトつってまぁ殺しでもなんでもアリのルール無用の殴り合いで稼いだのがあるからなぁ。だからあと一週間ぐらいの飲み食いならなんとかなるぜ」
「中々凄惨なことをされてたんですね...」
「それが師匠にバレて『暫く頭を冷やして来い』って言われてさ。適当な駅馬車乗ったらこのバベルの街に居たんだよな」
「本当に考えなしなんですねアルさんは」
「うるせー。もう反省してんだよ。ま、その内顔見せにぐらいは帰る予定だし。アイリスも来るか?」
「その時は同行させて頂きますね。ですが今は目の前の事をなんとかしないと」
「だな。さっさとこの階層を終わらせちまおうぜ!」
そうして2人は森林地区の中に入っていった。
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