幕間 「とある休日で」
アイリス・D・マルセイユです。今日は冒険はお休み。装備の修繕などはないので1日暇です。
ですが、実家にいた頃から鍛錬以外に特にやることのなかった私は暇を持て余してしまいます。仕方のないことなのですが、どうにも慣れませんね。
「というわけでリリアーナさん。美味しいスイーツのお店、教えてください!」
「何がというわけ、なのよ。なんで私なの」
「リリアーナさん以外に、女性の知り合いがいないもので...」
本当はもっと交友関係を広げたいのですが、女性の冒険者が少ないのも事実。他に知り合いといえばノーラさんですが何故か避けられがちなのです。なぜなんでしょうか
「私、今日は普通に受付業務なんだけど?」
「専属ギルド員はそのパーティーの予定に合わせるものと聞きましたので」
「いや、そうだけど。今日のアイリスは休みでしょ?1人で行けばいいでしょ?」
「寂しいじゃないですか!」
「......。はぁー、あんたも歳相応ってワケね。りょーかい。ちょっと待ってて、引き継ぎしてくるから」
やりました。モノは言ってみるものですね。
姉様達にもこうしてワガママを聞いてもらった思い出を思い出します。リリアーナさんも、今では私のお姉さんみたいなものですし、いいですよね?
「お待たせ。んじゃ、行くわよ」
「どこに連れて行ってもらえるんですか!?」
「煩い。目をキラキラさせるな、眩しい。私はあんまりスイーツの店知らないんだけどなぁ...。取り敢えず、行って後悔しないでよ?」
「勿論です!私にとっては全てが新鮮で面白いものですから!」
「はいはい。んじゃあ付いて来て。私の行きつけの店に行くから」
そうしてリリアーナさんに着いて行きます。大通りを離れてクローバー通りへ。そこから更に裏路地に入っていきます。普段入ったことのない道は新鮮です。
暫く路地を歩くと、そこに一軒の喫茶店がありました。なんとも古い外観で、そこがこのバベルの街が出来た当初からあると聞いたのは後のことです。
「こんなお店が...」
「良いでしょ?私のお気に入り。寮からちょっと遠いのが玉に瑕だけどね」
入り口を開けるとドアに付けられた鈴が心地よい音を奏でます。中はこじんまりとしていて、2人掛けの机が4つ。あとはカウンター席が4席といった小さなお店です。珈琲の良い香りが鼻を擽ります。これだけで良いお店というのがよく分かりますね。
「マスター?いるー?」
「......なんじゃ。赤毛のか。久しいの。最近は仕事に鏖殺されとったんか?」
「マスターもしぶとく生きてんね。てっきり死んで店畳んでるかと思ってたよ」
「馬鹿言うんじゃないよ。誰が死ぬかい。で、そこのお嬢さんは友達かい?あんたノーラ以外に友達が居たんだねぇ」
「煩い。友達じゃなくて私が専属してるパーティーの冒険者」
「へぇ。なるほどねぇ。ま、いいさ。好きに座りな。今は誰も客はいないからね」
店主はお婆さんでした。リリアーナさんが言うようにかなりお歳を召されているように見えます。外見からして獣人族でしょうが何の獣人かは分かりません。耳は犬族っぽいですが、うーん.......
「ほらアイリス、メニュー」
「ありがとうございます。珈琲に紅茶、わぁ色々種類がありますね。あっ!パンケーキも!いいですね!いいですね!」
「煩い。静かにして」
「ご、ごめんなさい。ついはしゃいじゃって...」
「いいさいいさ。それぐらいなら。パンケーキは少し時間が掛かるがいいかね?」
「はい!あとオリジナルブレンド珈琲を1つ!」
「私も同じ珈琲で」
「あいよ。ちょっと待っておくれ」
店主のお婆さんは奥に入っていきます。そうして、店内に静かな時間が訪れました。とても、良い雰囲気です。まるで森の中にいるような、そんな暖かい空間です。
「ねぇ...アイリス」
「はい、何でしょうかリリアーナさん」
「あんたはさ、冒険者になって良かった?あんたなら、他にも道はあったと思うんだ。あんたならどこかの高級レストランの給仕だって出来た。どこかの酒場の看板娘だって。冒険者なんて危険な仕事を選ぶ必要はなかった。でも、なんで冒険者なんて選んだんだ?」
唐突にリリアーナさんが疑問を投げかけて来ました。「確かにそうですね」私は言います。実を言うと、この街にやってくる道の途中で何度も考えました、と。
「じゃあ、なんで」
「リリアーナさん。勇者は呪い、と言いましたよね。それなんですよ。私は、呪われているんです。勇者に」
勇者。物語の中であれば、並ならぬ勇気を持って、魔を倒す存在。
「私は、
「あんたは......苦しくないの?そんな、憧れを抱いて」
「いいえ、これっぽっちも。............。でも、普通の女の子でありたかったな、とは思います」
そうでなければ、勇者以外の道など考えなかった。
「私を呪ったのは勇者」
------勇者であれ。
神は私にそう言った。
「ですが、私を救ってくれたのも、勇者なんです」
幼き日の思い出。勇者になりたくても、それを許されなかった私に『妥協』を教えてくれたあの日記帳。
「ですから、『今』に何も後悔はありません。むしろ楽しいぐらいです!」
「そっか。なら、良かった......」
リリアーナさんは伏せ目がちになって俯かれました。何か悪い事でも言いましたでしょうか?
そうしているうちにパンケーキの美味しい匂いが私の鼻孔を擽ります。良い匂いです!お腹が減ってきますね!
パンケーキ、リリアーナさんと半分こしましょうか。そうすれば、リリアーナさんの機嫌も良くなるはずです。
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