第17話  話は続く

「とりあえず勇者隊は基本街の北、所謂貴族の別荘とか建ち並んでる富裕層区から出てこないから街中は安心してもいい」


 3人は各々好きな飲み物を飲みながら今後について話し合っていた。


「2人とも勇者隊と出会ったらヤバそうだしねぇ。色々情報聞いてみてみる。他のギルド員達も面倒事は避けたいだろうし楽に集まる筈」

「リリアーナ。ちょっと口調柔らかくなったか?」

「煩い。私だって好きでツンケンしてた訳じゃないっての。でもここまで深い事情が重なったらならざるを得ないでしょ。アルフレッドは別だけど」

「なんでだよ」

「だってあんた、何事も能天気に考えてそうだし」

「なんだってこの野郎!」

「失礼だな、私はこれでも女よ」

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて」


 いつもの如くアイリスが2人を宥める。犬のようにいきり立っていたアルフレッドもまるで尻尾を下ろすように黙って椅子に座った。


「一先ず10階、と言うことですがそれには何か理由が?」

「10階には階層ボスがいるのよ。そこに挑むには最低でも黒鉄プレートになってなきゃ駄目なんだけど、まぁすぐにでも条件はクリア出来るでしょうし」

「しつもーん。そもそも冒険者プレートの階級の違いについて俺知らねぇんだけど」

「はぁ?なんでよ!?」

「そういえばアルさんは遅れて試験に来ましたよね...」

「呆れた!そんなんで初日っから塔に侵入しようとしてたの?馬鹿じゃないの?」

「う、うるせぇ。俺だって色々事情ってもんがな......」


 本当に呆れた、と溜息をつくリリアーナ。自分が悪い事が分かっているのか、アルフレッドはぐぬぬと唸っている。


「そんなアルフレッドにも仕方なくだけど教えてあげる。まず冒険者プレートにはそれぞれ階級がある。下から順に鉄、黒鉄、鋼鉄、銅、白銀、銀、金の7段階ね。其々の階級毎に受けられる依頼だったり、ギルドのサービスが違ってくる」


 例えば、宿泊費用が負担されたりだとか、ギルドでの飲み食いが割引されたりだとか。冒険者として暮らして行く為に上の階級になればなるほど楽になるのだ。白銀プレートになれば、家さえも与えられる。ただ、こういった恩恵が充実してくるのは銅プレートからだ。銅プレートは冒険者の壁とも言われている為、昇格試験などが存在するがその分、昇格後の待遇は冒険者とは思えないほど良い。


「あんた達は色々すっ飛ばしてるから特別。本来はまだ昇格資格が無いけどあんた達は第5階層突破と同時に黒鉄プレートに昇格出来る。本当なら1ヶ月以上冒険者続けてれば誰でも黒鉄にはなれるけど、第6階層以上は黒鉄プレート以上じゃないと侵入出来ないの。つまり、ギルドはさっさと上に進んで欲しいと思ってる訳」


 一定階層攻略毎に、最大銀プレートまでは昇格出来るそうだ。具体的な階層数は開示出来ないが現在の攻略階層である第70階層までには銀プレートになれるだろうということ。


「もちろん、模範的冒険者らしく居ることが条件。とどのつまり、犯罪とか犯さないでよって話」

「まぁその辺は当たり前だよなぁ」

「特にアルフレッド、あんたに言ってんだからね」

「なんで俺になんだよ」

「分からない?あんたは善悪判断の水晶玉になんて色出たか覚えてないの?無色よ無色。まるで記憶喪失の人間が触ったかのような色の人間を今後信用しろっていうのがおかしい話なの」

「そりゃあ、そうだけどさ。俺は悪い事は悪いって分かるぜ?」

「逆。自分の正義感で突っ走ってしまいそうって言いたいの。あんたが悪い事出来るような人間じゃないのはこの短い期間でよーく分かってる」


 リリアーナはそう断言する。アイリスも同意見だ。

 アルフレッドの唯一の欠点と言えるのが『それ』だ。共に塔に侵入し、共に冒険しているからこそ彼女はアルフレッドの性質を良く理解していた。

 正に純粋無垢を体現したかのような心を持ち、その外側は正義感で包んだような少年。それがアルフレッド。

 アイリス曰く、『勇者より勇者らしい少年』とはまさにその通り。


 だがそれ以外が一切わからない。

 彼の強さ、そして速さ。

 それらを含めた『彼』を『アルフレッド』足らしめる外的要素が一切不明なのだ。


(でも、ここで聞いてもなぁ)


 リリアーナは悩む。過去を聞いてもいい。だがそれは更なる深淵を覗き込みそうな、そういう予感がして仕方がないのだ。


(ま、聞かなくても支障は出ないし。別にいいか)


「兎に角、正義感で突っ走る前に一旦落ち着いて考えること。1人の時は特にそうよ」

「私からもお願いしますねアルさん」

「む、むぅ......善処はする」


 口を尖らせるアルフレッド。まぁ、そういうなら今はいいとリリアーナもとりあえずの納得を見せる。


「取り敢えず話を戻すけど、まだ勇者隊は勇者隊として行動するのはまだ先みたい。だけど今回のように単独で塔に侵入してる勇者に出くわす可能性がある。勇者共の行動を逐一把握するのは無理。第一アイツらはギルドを通さずに登る予定らしいから」

「それはなんともまた...面倒ですね」

「ほんとにね。ギルドもあまり関わり合いたくないみたいよ。私としてはあんた達の専属になったからどーでもいいんだけどね」


 兎に角、第2階層を早々に突破する必要がありそうだ。ギルドの方針として次の階層へのヒントは教えられないが、次は森林地区に行くと良いというアドバイスをリリアーナから貰った2人は今後の行動計画を練る。


「迷いそうだよなぁ。食料とか準備していかねぇと」

「アルさんも遂に準備という概念が分かられましたか!?」

「いや、最初から重要なのは知ってるよ。ただ必要ないと判断しただけで」

「それでも良い進歩です。共に冒険をする意味があるというものですよ。私は今、感激しています!」

「......時々アイリスって性格が分かんなくなるよな」

「それには同感。ハイテンションになるタイミングというか、喜ぶそれが子供産みたてのお母さんみたいな、なんかそんな感じよね」



 喜び目を煌めかせるアイリスとその様子を見て若干引き気味ながらも、作戦会議は夜まで続いた。


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