第14話 勇者
「アル!!」
最悪を予想したアイリス。
しかしその予想は覆される。
男が持つ槍の矛先は、アルフレッドのガントレットによって逸らされていた。
「てめぇ、急に殺しに来るとかどういう了見だコラ」
「ただのクソガキかと思えば俺の槍の呪いをズラすたぁやるじゃねぇか。それだけは褒めてやるぜ!」
男はアルフレッドを蹴り飛ばして距離を取り槍を構える。対するアルフレッドも蹴り飛ばされたダメージをものともせずに拳を構え、男に突進しようとする。
「ダメですアル!手を出さないで!」
「なんでだアイリス!お前を殺そうとしたんだぞ!」
「ダメなモノはダメなんです!兎に角手を出さないでください!」
アルフレッドの側に駆け寄り、アイリスはアルフレッドの手を掴んで彼の行動を止める。
「『槍の勇者』。お久しぶりです。唐突な御挨拶は相変わらずなのですね」
「相変わらず可愛くねぇなぁ『出来損ない』?お前がそんなんだから俺が貰ってやろうとしたのによぉ?」
「お戯れを。いくら王国が『貴方の全行動を許している』とはいえ、私は貴方に貰われるつもりはありません」
「おいアイリス!」
「アルフレッド!今は黙っていて!」
怒りを抑えられないアルフレッドに対してアイリスが怒鳴りつける。今まで聞いたことのない怒声に、アルフレッドは食い下がった。
「クソの躾も出来てねぇみてぇだな?」
「それ以上アルフレッドを煽るのは辞めて頂けますか?彼は私の大事な仲間です」
「仲間ァ?ハハハハハ!こいつぁお笑いもんだ!そんなクソガキ連れて塔をピクニックってか?そんなもん今時クソ貴族もやらねぇぜ」
「てめぇ!」
「アル、抑えて!」
「ガキが吼えくさりやがる。で?『出来損ない』サマはそんなクソガキと何やってんだよ。もしかしてそこらの草むらでしっぽり絞り取ってたのか?」
「それ以上の愚弄はお辞め頂けますか?」
「お辞め頂かなかったらどうすんだぁ?俺に剣を向けるか?勇者に剣を向ける事の罪の重さ、忘れたワケじゃあねぇよな?」
睨む。男の戯言になれば奴の思い通りにいってしまうのは既に身を以て知っている。自分1人なら容易くこの場は切り抜けられただろうが今はそうはいかない。今にも怒りを噴火させそうなアルフレッドが後ろにいるのだ。
「お前の姉。なんだっけ?アルテイシアだったか?アイツの具合は中々良かったぜぇ?腐っても名家の女だ。『シモ』の教育も...」
「黙れ。それ以上アルテミシア姉様を愚弄するな」
「おーこえーこえー。何も悪く言っちゃいねぇだろ?『貢物は美味しく頂きました』つってるだけじゃねぇか」
「貴様ッ!」
「おい!!なんだか分かんねー話してんじゃねぇ!!」
アルフレッドが怒鳴り、アイリスの前に立つ。
その顔には怒気が滲み出している。
「お前らの家の話はどうでもいいんだよ。国から全部やることなす事許されてるだって?んなもん関係ねぇ!ぶち殺すぞこの野郎」
「あ?なんだクソガキ。『槍の勇者』たる俺とヤり合おうってのか?」
「来いよ、クソ野郎。その槍叩き追ってやる」
「ア、アル!?」
「お前が黙ってろアイリス。俺は孤児だ。こいつ殺しても俺がトンズラするだけで済む」
アルフレッドはガントレットを握り締め、拳を構える。
だが、男は槍を構えない。
「チッ...興醒めだ。今回は見逃してやる。.........。お前の顔、覚えたぞクソガキ」
「俺はもう忘れた」
男は呪文を唱えると、少しの風を残してその場から消え去った。恐らく移動の水晶玉であろう。
「......、ア、アル......」
「......。はぁーーー。疲れた。帰るぞアイリス」
構えを解いたアルフレッドは大きな溜息を吐いて前に進み始めた。
「アル!?」
「今、メチャクチャ機嫌が悪いから後にしろ。飯はギルドに帰ってからだ。そん時には機嫌、だいぶ治ってると思うからさ。そん時にお前の話も聞く。謝るのも、怒るのもメシ食ってリリアーナ呼び出してからだ」
後ろを振り向かず。アルフレッドは頭を掻いてイラつきを隠しながら応える。
今の自分の状態を伝えるのも、彼なりの優しさだろう。今はそれに感謝せざるを得なかった。
(私は、何をやっているのでしょうか...)
天を仰ぐ。暗い天井が覆うこの塔の中で、太陽も青空も、雲もアイリスを慰めてくれない。まるで今の心情を表すようだ。
荷物を背負い直して、アルフレッドに追い付く。三歩後ろを歩きながら、アイリスは彼の背中を見る。
(彼を守る。そう、私はそう誓って彼についているというのに、この体たらく)
あの男の性格を知っていたから。
あの男の悪行を知っていたから。
あの男の思考を知っていたから。
あの男の環境を知っていたから。
それだけでは、到底済まされないだろう。
だが現実問題アイリスは動けなかった。あの槍の呪いの影響もある。だがそれだけだ。そんなもの、『どうとでも出来た』のだから。
(そうなってしまうのが、私は......)
とても-------。恐ろしかったのだ。
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