第12話 救出


 二人が駆けつけた先には2人の冒険者が居た。その周りを囲んでいるのはポイズンスネークの大群だ。更にはスライム、ゴブリン、ジャイアントバットまで居る始末。


「選り取り見取りだな!どれからやればいい?ゴブリンか!?」

「ポイズンスネークが厄介です。毒を持っていますから噛まれないで下さい!」

「分かった!蹴散らしてやる!」

「私はあの2人の援護に向かいます!弓持ちのゴブリンは見えませんから優先順位は最後で構いません!」

「蛇野郎の次に蝙蝠だな!道を開ける!」


 アルフレッドは大きく息を吸い込み、掛け声と共に右手を正拳突きの要領で突き出す。

 空気を殴る音と共に衝撃波が現れ、直線上に居たモンスターを吹き飛ばした。


「吹き飛ばしただけで奴ら死んでねぇからな!」

「十分です。行きます!」


 空いた道をアイリスは駆け抜ける。

 飛んで来たジャイアントバットはショートソードで斬り伏せ、行き掛けの駄賃とばかりに何匹かのポイズンスネークも斬り飛ばす。


「大丈夫ですか!」

「あ、貴方達は!?」

「通りすがりの冒険者です。その方は?」


 2人の冒険者の元に辿り着いたアイリスは1人の冒険者を見た。皮鎧を来た戦士の風貌の男性冒険者の彼は、腕を抑えて肩で息をしている。よく見れば顔は青白かった。


「蛇に噛まれて、どっ、どくが...!」

「アンチドーテです!飲ませて下さい!」


 神官であろう少女冒険者にアンチドーテを投げ渡す。

 あたふたしながらも受け取った少女は、慌てながら栓を開けて男性冒険者に飲ませた。


「飲み終わらせたら、壁側に座らせて安静にさせて下さい。解毒されるまで時間がかかりますし動けば逆効果になります」

「あっ...は、はい!」

「それが終われば貴女も前に。その錫杖を振ってモンスターを寄せ付けないだけでいいですから!」


 飛び掛かってくるポイズンスネークをバックラーで殴り飛ばしスライムを斬る。

 いかんせん数が多く、なにより数種類のモンスターが襲い掛かって来ているのが非常に手強い。こういう時、アイリスは自分の弱さを感じる。自分が『勇者のままであったのなら』、『もしかしたら』と、何度も考える。それがもはや叶う事もないと彼女は知っているにも関わらず、もう届かない願いと知りながらも。

 だからアルフレッドに場の殆どを任せるしかないのだ。

 自分はひたすらに後ろにいる2人を守りきる。それだけしか出来ないとは言え、やれる事はある。それを全力でやるだけだ。


 その時、遠方に居たゴブリンがアイリスに向けて石飛礫を投げて来た。

 暗がりから来たそれにアイリスはそれに反応出来ず、まともに食らってしまった。


「ガァッ!?」


 頭の側面に鈍い衝撃。偶々、偶然、『勇者の目』の使用間隔の隙間を突いて飛んで来た石飛礫がアイリスに致命の一撃クリティカルの如くのダメージを与える。

 視界が揺らぎ、足から力が抜け、倒れそうになる。だがここで倒れる程、柔なアイリスではない。


「舐めるなぁ!」


 自分に襲い掛かった石飛礫を地面から拾い上げ、自分に投げつけたであろうゴブリンに投げ返す。正確無比に投げられた石飛礫はゴブリンを捉え、頭蓋を容赦なく砕いた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「問題ありません!それより周りを!」


 そう言って強がるがアイリスの視界は歪み、足元のふらつきは止まらない。唯一の救いは剣を握る手は緩まず、しっかりと力が入る事だろう。先程の石飛礫だって、まともに当てられるとは正直思ってもみなかった会心の一撃クリティカルヒットであった。

 ピンチは更に深刻になり、そこから良くなる転向も見えない。アルフレッドはまだ外縁部からモンスター達を薙ぎ払っている最中だ。援護はまだ望めない。


 ではどうするか、と考える頭もぼうっとして纏まらない。そんな考えは焦りを呼び、更に思考は混乱していく。


「親愛なる我が至高神よ。この身に宿る力を治癒の力に変え、この者を癒したまえ。治癒ヒール!」


 唐突に声が聞こえてくる。神官の少女冒険者の呪文詠唱だ。詠唱が終わるとどうか、錫杖から淡い光が現れたかと思えば光は温かく柔らかな風となり、アイリスを優しく包んだ。彼女を包んだ風は傷口を優しく撫で、一切の痛みを消し去った。


「これは......!」


 少女が唱えたのは治癒の魔法。

 魔法とは一般的に至高神から与えられた奇跡の産物である現象スキルを与えられなかった者でも扱えるようにと人の手で編み出した『技術』である。

 魔法とは本来、現象スキルとは比べ物にならない程効率や効果は落ちるもの。だが少女の魔法は魔法と呼べない代物であり、もはや現象と言っても過言ではなかった。


「傷どころか、揺れていた視界も治って...それに身体が軽い......」

「よ、良かったぁ...成功しました!」


 思わず安堵する少女とあまりの体の軽さに異常さを覚えるアイリス。だがそれ以上考える事をモンスターは良しとしない。


「アル!まだですか!?」

「もうちょいだ!蛇が何気に小さくて殴りにくい!」


 モンスターの垣根の向こうに縦横無尽に暴れるアルフレッドの姿が見える。前回のスライムほど数は少なくとも、時間は掛かる。まだアイリスが頑張るしかない。


「ですが、この体調なら!」


 その場で跳躍したアイリスは上空に居たジャイアントバット2匹を『勇者の目』を光らせながら斬り落とす。落ち抜けにスライム1匹を一刀両断。続けざまに5匹のポイズンスネークの首を斬り落とす。


「これは......なんとも、気持ちいいですね」


 今までにない高揚感。治癒の効果だけではなく、身体的な強化が治癒の魔法から得られたのは確かであるが、下手をすると癖になってしまいそうだ。まるで麻薬だ。


「自分が強くなったと錯覚しそうですねこれは。いやはや、なんと、いう!」


 飛び掛かって来たポイズンスネークを斬り捨て、近寄っていた他のポイズンスネークも一刀で全てを斬り落とす。

 いつのまにか、モンスターの数も減って来ている。あと少しもあればアルフレッドが殲滅するだろう。


「しかし、やはりアルも尋常ではないですね。私なら活路を開き次第撤退を迷わず選択するのですが...」


 アルフレッドを見れば、息をあまり切らさずに殲滅を続けている。しかも攻撃を受けたようには見えない。アイリスは後から聞いた事であるが、今回はアイリスの援護が無かったので攻撃を受けないように立ち回っていたらしい。その影響で殲滅が遅れたのだとか。それにしても殲滅速度はあり得ないほど早い。


「あとは間引きする程度ですかね?最後まで、気を抜かず」


 攻撃してくるジャイアントバットをひらりと避け、その羽根を両手で持って引き千切る。


「疲れない程度にやりましょうか」


 そう言うとアイリスはショートソードを握り締め、残り少なくなったモンスターと交戦を始めた。

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