第72話 アジト襲撃
深夜0時。日付が変わったその時を劈くのは巨大な衝突音だった。
「しゅ、襲撃だ!!」
ここは種市重工が秘密裏に建設したアジトである。
総勢300人の戦闘員と、火器系の武器も大量に所有する秘密基地であり、ここに来るまでにも無数のトラップが仕掛けられているはずなのだが、突如として現れた赤い車はトラップなど何のそのとばかりにアジト目掛けて突っ込んできた。
「車を止めろ!!」
戦闘員の一人が、基地に仕掛けられたトラップを起動するスイッチを押す。
すると床から、いくつもの追尾機能付きミサイルが現れた。
「車ごと破壊しろ!!」
その号令と共に、放たれるミサイル。
高層ビルも一撃で更地に変える破壊力を持つミサイルが、車に狙いを定めた状態で一斉に放たれたが、車の中にいる襲撃者たちのリーダーは慌てない。
「あ、あ、あ、あれは対戦車用GX13ミサイルだよ!!」
そんな中、車の後部座席で発狂するのは新井修太だ。
彼は所謂ミリオタで、武器に関しても少々詳しいのである。
「千宮司さん。処理できるかい?」
「⋯⋯うん。余裕」
運転席に座る彼らのリーダーの光城雅樹は、助手席に座る千宮司陽菜に尋ねる。
すると陽菜は、右手を窓の外に向けた。
『サイコキネシス発動』
その瞬間、空中でミサイルがまるで空間に張り付けられたかのように止まった。
そして陽菜が右手をギュッと握ると、ミサイル群は一斉に爆発する。
「うわーー!!」という叫び声が聞こえてくる。
爆発に巻き込まれた不幸な戦闘員たちのものだろう。
「爆発に乗じて奥に行くよ!!」
唸りを上げるエンジンは、車を瞬間的に超加速させる。
時速200キロの高速で、車は基地目掛けて突っ込んだ。
「バリケードがある!! これも躱していくぞ!!」
だが特攻に対応してか、基地の中盤地点には巨大なバリケードがいくつも並んでいる。しかもそれらの裏には、キャノン砲を装備した兵士たちが立ちふさがっていた。
すると雅樹はアクセルを限界まで踏み込むと急激なカーブ曲線を描きながら、バリケードの間にあるごく僅かな隙間を狙って突っ込む。
「撃て!!」
一斉に放たれるキャノン砲。
しかし凄まじい速度で基地を縦断する上に、人外じみた動きでターンし続ける車は戦闘員が放つキャノン砲を器用に避けていく。
「いいぞアトランティス号!! 最高にイケてるよお前!!」
アドレナリンが噴き出している雅樹は、ハンドルをバンバンと叩く。
なおその後ろでは、向井新と瀬尾真理子が真っ青な顔で手すりを握っていた。
「やべ、出そう」
ウプッ、ゲプッと危険な声を漏らす新。
「お父さん、お母さん、先に旅立つ私を許してください」
頬を流れる涙にも気付かず、放心状態でそんなことを呟く真理子。
知らずの内に雅樹の運転は、味方の精神にも甚大な被害を与えている。
「イケる! これで突破だ!!」
するとバリケードの隙間を見つけた雅樹は、最高スピードの状態で一気に突っ込む。
隙間にも簡易的な柵があったが、200キロを超える速度で突っ込んでくる車を止めるのは不可能だった。
バキバキ!!という破壊音と共に、まるで弾丸と化したかのような勢いで車がバリケードの隙間を通り抜けた。車に跳ね飛ばされた戦闘員たちが宙を舞うのが窓越しからでも見えたが、そんな人々の隙間から遂にアジトの建物が見えてきた。
「千宮司さん!! この車ごとアジトの中枢に繋がる窓の中に放り込んでくれ!!」
「りょうかーい」という小さな声と共に、車がふわりと宙に浮く。
彼女のサイコキネシスで、車が宙に浮いているのである。
「正面に見えるショーウインドウが、そのまま中枢に繋がる箇所だ。あそこに突っ込むぞ!!」
見ると、種石重工のエンブレムを象ったショーウインドウがアジトの真ん中にある。
だがそこに行くには、空を飛びでもしない限り絶対に越える事は無いほどの巨大な壁が行く手を阻むように設置されていた。
「サイコキネシス出力全開!!」
パリッと陽菜の舐めるキャンディーが割れる。
同時に車がさながら飛行機の如く猛スピードで離陸した。
「千宮司さん以外の全員で、車に異能障壁を張るよ!!」
「うぷ⋯⋯了解」
雅樹を中心に、後ろの三人も力を合わせて車に防護障壁を張る。
これで一気に壁を突き破ろうと考えたのだ。
「来るぞ!! 衝撃に備えろ!!」
迫りくるショーウインドウ。
ウッ、と声を漏らす陽菜。彼女も限界まで力を使っていた。
「行けえええッ!!」
その瞬間、世界が反転した。
砕けるガラスの音を聞きながら、まるで流星の如く窓の外を流れ落ちていくガラス片を見ながら、束の間の幻想的な光景を視界に捉える5人。
それからすぐ襲い来る途轍もない衝撃。
異能力で大幅に軽減されているとはいえ、猛スピードで墜落する車の衝撃を受ける中の5人は、歯を食いしばってその衝撃に耐える。
そして火花を撒き散らしながら、廃車同然になった車が遂に停止した。
変形した扉を蹴破ると、雅樹、新の二人はグッタリした陽菜と真理子を外に引っ張り出す。そして窓から転がり出るように修太が車内部から脱出した。
「大丈夫かい!?」
「し、死んだ爺ちゃんが川の向こうに見えた⋯⋯」
雅樹の声にそう言うのは修太だ。
だがここで、突然何者かの拍手する音が聞こえて来た。
「流石は光城様。ご登場も並の凡人には真似できない派手な演出で御座います」
そこには種石快がいた。
しかもその周りを銃をもった兵士たちが固めている。
「種石さん。僕らがここに来た理由は分かっているはずです」
すると雅樹は己の魔力を増大させる。
「若山夏美さん、そして転移異能力で同様に拉致した生徒会団員の方々も全員無事に返していただきます!」
しかし、それを聞いた快はさも残念そうに首を振る。
「それは出来ません。何故ならこれは、名家の品格を保つため、そして山宮学園がこれからも栄光の学び舎であり続けるための必然なのですから」
すると快はパンと手を叩く。
それを合図に周りの兵士たちが一斉に銃をガチャリと鳴らした。
「山宮は名家の支配下であるべきなのです。光城様、貴方様こそむしろ先導してこのようなゴミどもを一掃すべく動きべきではないのですか?」
快の視線は、横にいる新、修太、真理子に向けられている。
指をポキポキと鳴らし、今すぐにも殺してやりたいとばかりに三人を睨みつけるその様子は途轍もない殺気を放っている。
「種石さん。僕は何があろうと貴方を支持することは出来ません。こんなやり方で自分の意見を押し通そうだなんて絶対に間違っている!」
雅樹の手にバチバチと火花が散る。
それは、明確な拒絶の反応だった。
「僕は貴方を止めます。家の意向がどうとか関係なく、一個人として僕は貴方を止めて見せる!」
その言葉を聞いた快はフウと息を吐く。
「では、仕方がありません。命を奪うことはしないまでも、相応の痛い目を見て頂かなければありませんね!!」
それを合図に、兵士たちの銃口が一斉に向けられた。
「お前たち、光城様を拘束するのだ!! 他の連中は殺して構わん!!」
それを合図に、一斉に放たれる銃弾。
だがそれを指をくわえて待つ雅樹ではない。
「空気弾!!」
目にも止まらぬ速さで、雅樹は指先から空気を圧縮した弾を放つ。
それも両手の10本の指を使った高精度の射撃だ。放たれた弾は兵士たちの手の甲をピンポイントで撃ち抜く。
「グアッ!!」
痛みで思わず銃を落としてしまう兵士たち。
しかし銃がなくとも、素手で相手を制圧することも可能なのが彼らの強さだ。
「光城様!! お覚悟!!」
体中に強化術式を纏い、雅樹に飛び掛かる兵士たち。
しかし、今度は陽菜がそれを止めた。
「サイコキネシス発動!」
空中でピタリと止まる兵士たち。
その瞬間、凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。
「クッ、小癪な⋯⋯!!」
すると今度は兵士たちはレベル1の3人に手を向ける。
しかし新と修太の二人係りのタックルが兵士たちを跳ね飛ばした。
「舐めんな!! これでも身体強化くらいは出来るんだよ!!」
壁に叩きつけられる兵士たちは大の字になって転がっていく。
しかし今度は、兵士の一人がナイフを持って新たに突撃した。
「させません!!」
すると部屋の壁にあったロープが突然動くと、兵士の腰に巻き付いた。
そして数秒もしないうちに、体中に巻き付いて拘束する。ロープを操っていたのは真理子だ。そして新はその兵士に飛び掛かるとパンチを浴びせる。
「何時間でも抵抗してやるぜ! お前らが負けを認めるまでな!」
新は眼鏡を投げ捨て、快に向かって叫ぶ。
すると快はフッと、突然不敵な笑みを浮かべた。
「ふむ、であればお前らの心を折るのが一番手っ取り早いということかな?」
すると快は指をパチンと鳴らす。
するとその時だった。
「うわっ!!」
突然天井から何かが落ちてきた。
慌てて近くにいた修太がダイブして躱す。
「どうだ? これに見覚えはあるんじゃないのかね?」
落ちてきたものに、目を向ける一同。
すると絞り出すように、雅樹が言った。
「若山⋯⋯さん?」
それは、いや人だったはずのものだった。
体中から出血しており、無数の銃痕がある。
その体からは精気を感じられず、彼女の顔にも命の気配はない。
「コイツは殺した。俺の言うことを聞かなかったのでな。それに⋯⋯」
その瞬間は、目に止まらなかった。
瞬間移動を思わせるような速度で、新の前に移動する快。
「お前は殺すと決めている。このレベル1の三下が!!」
反射神経での回避は間に合わなかった。
強化術式を纏った快のパンチは、新を一撃でアジトの外に吹き飛ばす。
「全員、潰す」
指をポキポキ鳴らしながら近づく快。
その標的は、真理子と修太だ。
だがその前に二人の影が立ちふさがる。
「⋯⋯止めて見せる」
「負けない。私は負けない!」
雅樹と陽菜だった。
同時に異能を発動する雅樹と陽菜、そして快。
運命の第二ラウンドのゴングが鳴り響いた。
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