第73話 1年生の意地
「ハアッ!!」
異能で強化された正拳突きを、防護壁で受け止める雅樹。
それを後ろ蹴りで返すが、今度はそれを快は身を仰け反らせて躱す。
「サイコキネシス!!」
すると陽菜がアジトの瓦礫を異能力で浮かすと、さながら弾丸の如く快目掛けて放つ。鉄骨も混じった瓦礫の嵐は、快に猛スピードで向かっていく。
「甘いんだよ!!」
だが快は、身を伏せて瓦礫を躱すと横にあった岩石を逆に陽菜目掛けて投げ放った。
しかしそれを、今度は修太が身を投げうって陽菜から守る。
「グアッ!!」
微弱な強化壁だったせいか、岩石の一撃を完全には受け止められない。
修太は吹っ飛ぶと、壁に勢いよく衝突した。
「
雅樹は、指から光り輝く光弾を放つ。
これは相手の目を眩ませる効果もある上に、熱弾で相手にダメージを与える追加効果を持つ異能力だ。高精度で放たれた閃光弾は快に向かって飛んでいく。
だが快は、それをも躱した。
死角から放たれた完璧な一撃だったにもかかわらず、まるで最初から分かっていたかのように易々と余裕をもって動く快。
「ホアアアッ!!」
雅樹の懐に飛び込むと、渾身の蹴りを放つ快。
それを反射的に腹部に防護壁を張って受け止める雅樹は、快から距離をとる。
「どうしました? まさかこれが皇帝の力だと言うのですか?」
ハッハッハッ、と余裕で笑う快。
対して一年生の面々は、早くも肩で息をし始めている。
(おかしい⋯⋯何故攻撃が見切られるんだ?)
脳裏で考えを巡らせる雅樹。
陽菜の攻撃も、雅樹の攻撃もまるで分かっていたかのように躱される。
陽菜と雅樹はそれぞれ、完璧な死角から攻撃を放っていたはずだ。
それは実戦経験のある彼らだから成せる業であり、それを平然と躱される今の現状は雅樹の経験でもそう多くはない。
「サイコキネシス!!」
今度は、サイコキネシスの力で直接快を捕らえに行く陽菜。
しかし快は、それすらも余裕の表情で対応した。
「
すると、快がサイコキネシスに囚われる直前に、突然彼の姿が岩に変わった。
いや、正確には『快と近くの岩が入れ替わった』と言った方が正しいか。
快の身代わりに砕かれる岩石。それをニヤリと笑いながら見つめる快。
「バカの一つ覚えは通用しねえんだよ!!」
岩があったはずの場所に立つ快は、陽菜の隙を見逃さない。
陽菜に振り上げられる強化術式を纏った拳。
「させない!!」
しかし今度は空気弾の連射で雅樹は快を牽制すると、その隙に陽菜と快の間に割り込んで、快から陽菜を守った。
「お荷物がたくさんいるようですね、光城様。いっそ彼らを切り捨てればもっと楽に私と戦えるのではないですか?」
快のそんな言葉には耳を貸さず、再度臨戦態勢を整える雅樹。
だが内心彼は、攻めの手立てを失いつつあった。
(僕の攻撃は、全て種石さんには見切られている。そして死角から放った千宮司さんの攻撃も躱された。つまり、種石さんは僕らの攻撃を全て把握しているのか?)
放たれる攻撃を全て躱した人間を最後に見たのはあの時だ。
忘れもしない、仁王子烈と葉島直人の一戦の時である。
(直人君は人智を超えた動体視力と反射神経で、仁王子君の攻撃を全て躱していた。では種石さんも、直人君と同じように!?)
快は生身の反射神経で、攻撃を躱したのだろうか?
だがその考えは間違っていると、雅樹は直感的に考える。
(あれは直人君が異常なだけだ。でも、種石さんは何らかの方法で僕らの攻撃を把握している。すると考えられるのは何だ?)
今度は快から牽制の空気弾が飛んでくる。
しかしそれを雅樹は、防護壁で受け止めた。
「どうしましたか? 急に攻撃してこなくなりましたね」
それを心が折れ始めたと解釈したのか、快はニヤリと笑う。
「あまり抵抗が過ぎると、いくら光城様といえど荒い対応を取らざるを得ませんね。光城様もそこのレベル1の女のようにはなりたくないでしょう?」
部屋の隅で、寝かされている夏美の体。
その横で真理子が、必死に治癒異能で彼女を治療しようとしていた。
「そいつは既に死んでいる。余計なことをせずに投降しさえすれば、せめて苦しまないくらいには楽に死なせてやるぞ?」
真理子はその言葉にも耳を貸さずに治療をしようとしている。
それを見た快は癪に障ったのか、異能の矛先を真理子に向けた。
「死ね。お前も目障りだ!」
真理子に向けて身を焼き焦がすような熱弾を放つ快。
だがそれを雅樹は、冷却装甲を纏った右手で何とか防ぐ。
「どいつもこいつも余計な抵抗ばかりしやがって、お前らはもう負ける以外に道は残ってねえんだよ!!」
すると快は、懐から拳銃を取り出すと雅樹に向けた。
「この拳銃に入っている弾は、
つまり、異能の防護壁ではその弾を防げない。
すると物陰で、陽菜が瓦礫をサイコキネシスで飛ばそうと身構えようとした。
「お前に撃ち込んでやってもいいぞ? クソチビ」
すると今度は、拳銃を陽菜に向ける快。
それは暗に、この場の支配者は自分だと誇示するようであった。
「俺は勝者だ。そしてお前らは⋯⋯」
この場にいる全員を見て、勝ち誇るように快は言う。
「お前らは勝てないんだよ。分かったら大人しく無様に負けろや! クソ一年共!」
しかし、その時だった。
「何⋯⋯が、勝者⋯⋯よ」
絞り出すように誰かが言った。
途端に驚愕の表情に変わる快。その言葉の主は⋯⋯
「若山さん!! 生きてるわ!!」
叫ぶ真理子。それを聞いて部屋の横で倒れていた修太も急いで起き上がる。
雅樹も陽菜も、そして快もそこにいる全員が驚いていた。
「バカ⋯⋯ね。タダの⋯⋯チートよ」
声の主は死んだかに思われた夏美だった。
うっすらと目を開ける夏美は、何かに視線を向ける。
「簡単⋯⋯よね。全部、見えてるん⋯⋯だから」
夏美の視線を辿る真理子。
するとその先にあったのは⋯⋯⋯
「⋯⋯カメラ?」
アジトの至る所に、隠すようにしてカメラが置かれていた。
それも機体をペイントで黒く塗り、暗闇に溶けるようにして。
「お宅の⋯⋯会社。最近⋯⋯新商品を⋯⋯出したわね」
快に向けてそう言う夏美。
その途端、明らかに見てわかるほど快に動揺の色が映った。
「監視カメラを⋯⋯コンタクトレンズ越しに⋯見られる商品」
反射的に快は己の目を抑える。
だが、夏美には全てが分かっていた。
「全部⋯⋯そのコンタクトレンズで⋯⋯見てたんでしょう?」
真理子は辺りを見回した。
すると彼らが戦っていた部屋の中に、軽く見回しただけでも5つほどのカメラが仕掛けられているのが確認できる。
「死角なんか⋯⋯あるわけない。全部、見えてるんだから」
その時、陽菜が動いた。
夏美の話に意識を持って行かれていた快は、彼女の動きを見逃していた。
「サイコキネシス発動!!」
途端に、ボカン!という音を立てて部屋の隅にあったカメラが壊れた。
その瞬間、目を抑えて「何っ!?」と小さく呟く快。
「つまり種石先輩。貴方が僕たちの攻撃を全て躱していたのは、この部屋に仕掛けられていた監視カメラから、僕らの動きを把握していたからなんですね?」
その場で、一秒もしない程の速度で辺りを見回す雅樹。
そして雅樹は、バッと両手を大きく広げた。
「入り口に一つ、僕らの真上に一つ、部屋の右端と左端にそれぞれ二つ。分かりましたよ種石さん。貴方の『眼』が何処にあるのかをね!」
それは反射的な行動だったに違いない。
「ヤメロオオオオッ!!」
発狂するように叫ぶ快は、雅樹目掛けて反異能弾を放った。
しかし弾が雅樹に当たる直前、突如として瓦礫が猛スピードで飛んできた。
「サイコキネシス!!」
陽菜の近くにあった監視カメラは破壊され、快は陽菜の動向を把握できない。
そして陽菜が飛ばした瓦礫が、反異能弾から雅樹を守った。
「異能を破るといっても、対抗する物体が異能によるものでなければ、その弾はタダの鉄の塊です」
その隙に、雅樹は集中力を極限まで高めて渾身の空気弾を放った。
「空気弾!!」
パリン!!という音が部屋のあちこちから聞こえる。
そして部屋にあった全てのカメラが、雅樹の空気弾で破壊された。
「見っ、見えないッ!! 何も見えない!!」
その瞬間、目を抑えて快が蹲った。
どうやら視界の全てを監視カメラに頼っていたようで、カメラが破壊されてしまった今、快の目には暗黒の闇が映っているのだろう。
「形勢逆転です! 種石先輩!」
右手に魔力のオーラを集中させる雅樹。
バチバチと、破裂音の様な音が聞こえてくる。
「種石さん。僕の渾身の一撃、今の貴方に耐えられますか?」
魔力は強力な電撃へと変成されていく。
そこから放たれるエネルギー波は、見る者を身震いさせるような力を放っていた。
「ま、まま、待て!!」
両目を覆い、降参だとばかりに額を地面につける快。
それを見て、雅樹は手を止める。
「降参だ!! 助けてくれ!!」
「⋯⋯なら、生徒会の皆さんも今すぐに返していただけますね?」
「保証する!! だから助けてくれ!!」
フウ、と息をつく雅樹。
それを聞いてか、彼の右手の電撃が少しづつ微弱になっていく。
「戦う意思がない人間に鞭打つ行為は、光城の理念に反します。先輩の言葉を信じ、これ以上の攻撃は行いません」
そう言って、魔力の放出を止めた雅樹。
そして彼はその場から一歩下がる。
しかし、その瞬間だった。
「な訳ねえだろ!!」
その瞬間、快はその場で跳躍した。
目から乱雑にコンタクトレンズを外し、地に落ちていた拳銃を拾い上げる。
慌てて陽菜がサイコキネシスで拘束しようとしたが、間に合わなかった。
「俺は勝つ!! どんな手段を使ってでも!!」
快は真理子を腕で抱えると、彼女の頭に銃口を突きつける。
修太が一歩踏み込んだが、すぐに快はそちらにも視線を向けた。
「余計なことをしてみろ!! この女の命はないぞ!!」
真理子を抱えて、壁際に寄るとニヤリと笑う。
人質をゲットして、形成再逆転したことに対する喜びだろうか。
「俺がアジトを脱出するまで、お前らはそこで何もせず突っ立ってろ。少しでも下手な動きをすれば、この女の頭は消し飛ぶぜ!」
ハッハッハッ!!と笑う快の様子は、もはや発狂に近い。
彼はもう真面な判断が出来なくなっているようだ。
「この女は承認式が終わるまで預かっておく。当然、中村健吾が学校に来ようものなら⋯⋯分かっているな?」
カチリと銃の音を鳴らす快。
「俺の勝ちだ! 俺の勝ちだアアアアッ!!!」
と、その時だった。
「いえ、私の勝ちです」
声の主は真理子だった。
彼女は、右手を出すと握った手を開いた。
「
真理子の手にあるのは、拳銃の中に入っているはずの反異能弾だった。
「何だと!?」
それを聞いて慌てて弾倉を確認する快。
が、それを見て確認した先には⋯⋯
「⋯⋯⋯嘘ですよ」
反異能弾は、しっかり拳銃に装備されていた。
その瞬間、快は気づく。
真理子に嵌められたのだと。
「ハアッ!!」
後ろ蹴り一閃、真理子は快の股間を蹴り飛ばす。
弾倉の確認のために真理子から拳銃を離したのが、完全に仇になった。
真理子の手から零れる反異能弾。
するとそれらの弾丸は、地に落ちた途端に小さな石に変わる。
真理子は、ただの石を初歩的な光学操作で弾丸に見せていただけだったのだ。
「種石さん。二度目は無いですよ⋯⋯!!」
蹲った快の前に立つのは、先程とは放つオーラが段違いな雅樹。
右手には、明らかに先程よりも強力な電撃を纏っていた。
「もうチャンスはありません。邪悪は消し去らなければならない!!」
電撃のオーラを急激に圧縮して、鋭いナイフの如く尖らせる雅樹。
手を手刀の形にして、彼は目の前の蹲った小さな男に狙いを定める。
「ゆ、ゆ、ゆるして⋯⋯⋯」
だが、雅樹にもう慈悲はない。
快の抵抗の意志の有無は、この先の雅樹の行動に全く影響しないものだった。
「気張ってくださいね、種石さん。じゃないと⋯⋯」
跳躍する雅樹。
極大のオーラを込められた手刀が振り上げられる。
「本当に死にますよ!!」
雅樹の叫びと共に、放たれるはA級+ランクに属する究極奥義。
「
流星を思わせる虹色の輝きと共に、雅樹の手刀の形から放たれる圧縮された電撃エネルギーの矛が快を刺し貫いた。
「アアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
そして貫かれた快は、虹色の輝きと共に流星の如くアジトの外へ飛び去っていった。
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