第69話 アジトへ向う

「はあ⋯⋯ハア⋯⋯!」


空中からヒラヒラと誰かが舞い降りてくる。

異能を使って何とか地に降りるその人間は、種石快だ。


バラバラになった小型飛行機は、まるで花火の如く燃える破片を撒き散らしながら空中分解した。ほぼ全員その爆発に巻き込まれたが、幸い全員異能に優れた兵士だ。

爆風を受けながらも、異能障壁を張って生き延びることに成功した。


「アイツらア⋯⋯⋯!! ブッ殺してやる!!」


目が血走り、最早殺人も厭わないであろう程に激昂する快。

快の後に続いて、空から舞い降りる部下たちもまたボロボロだ。


「奴らは何処に行った!!」


「か、快様!! あそこにパラシュートが!!」


部下の一人が指さした先には、捨てられたパラシュートが三つある。

飛行機を吹き飛ばしたレベル1の三人の物であることは明らかだ。


「今すぐ捉えろ! 殺しても構わない!!」


そう言って、部下たちを離散させようとする快。

だがここでふと口を噤むと、暫くしてからニヤリと笑う。


「いや⋯⋯その必要はないかもしれないな」


すると快は懐から携帯端末を取り出す。

そしてそこに特殊なコードを打ち込んだ。


「会社名義で社用の軍用ジープを呼んだ。これで一度アジトまで帰還するぞ!」


そう部下たちに指示すると、快は再び笑みを浮かべる。


(奴らは、恐らくアジトに監禁されているあの女を助けに来たのだろう。であればむしろ好都合だ、あの女を使って奴らを誘き寄せてやる!!)


あの三人は、快が先日捕えたレベル1クラスの生徒を助けに来たに違いない。

であれば当然彼らはアジトを目指すはず。こちらが探さずとも、あちらからアジトに来るのであれば何の問題もない。


「お前たち。アジトにいる仲間たちに連絡しろ。『ネズミが侵入しようとしている。怪しい奴は無条件に撃ち殺して構わない』とな」


「い、イエッサー!!」


部下たちの声と共に、遠くから自動操縦のジープがやって来るのが見えた。

ジャマになり得る生徒会団員たちは、転送異能力で種石重工の地下室にテレポートさせている。いろいろ面倒なことになる可能性もあるが、名家のバックアップを持たない生徒会団員たちに天下の種石重工が負けるはずないという自信があった。


(レベル1の雑魚共に、地獄を見せてやる!!)


ポケットの奥にある拳銃を強く握りしめる快。

その胸の内には、残虐な破壊衝動が渦巻きつつあった。



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「おーい、もう大丈夫か?」


「大丈夫だと思う。アイツら行ったよ」


遠くに消えていくジープ。

そこには先ほどの快を筆頭とした男たちが乗っているのも知っている。


『透過能力、解除!!』


すると、先程まで男たちがいた場所に三人の少年少女が現れる。


「やべーよ、アイツ俺達をマジで殺すとか言ってたぞ」


「アジトに戻るって言ってたね。アジトがこの辺りにあるってことなのかなあ」


実は新、修太、真理子の三人はずっとここで透過能力を使って立っていたのだ。

そして逃げたわけでもなく、彼らの会話の一部始終を聞き逃すことなく聞いていたのである。

するとここで真理子が口を開く。


「もしかしたら、私達を若山さんを使って誘き寄せようとしてるのかもしれません」


「⋯⋯若山を使う?」


そう言う新に対して、真理子は言葉を続ける。


「きっと、若山さんが監禁されているのがあの人たちのアジトなんだと思います。だから彼らは、アジトにいる若山さんを人質にして私達を呼び寄せようと⋯⋯」


「嘘だろ⋯⋯」と呟く新。

この展開までは新は全く考えていなかったようだ。


「何が何でも私達に復讐しようと思うなら、若山さんを痛めつけたりするかもしれません」


「で、でもアジトに乗り込んで若山さんを助けたりは⋯⋯」


日が沈みつつある空間の中で、三人の間に沈黙が流れる。

確かに彼らには透過能力がある。でも、それだけでアジトから夏美を助け出すだけの可能性があるかと聞かれればそれは限りなくゼロに近かった。


「アイツらって、強いよな?」


「強いとも思います。少なくとも、私達よりは」


エンジンを気化して火を点けるという、とんでもない奇襲作戦を使えた先程とは違って、今回は真正面から戦うことを余儀なくされるかもしれない。

それに、不安事項はもう一つあった。


「正直⋯⋯もうこれ以上は能力使えないかも」


修太の息が荒くなっている。

普段使い慣れていない透過能力を長時間使った弊害か、体力の消耗が激しい。

恐らくアジトに乗り込むにも、これ以上は能力を使えないだろう。


途方に暮れ始めた三人。しかし、ここで後ろから声が聞こえた。


「いや、ここからは僕も手助けするよ」


突如として現れた人の気配。

同時にブウーーン!!という凄い音を上げてキキッと止まる赤い車。


「!?!?!?!?」


「驚かせちゃったね。急いで、家から車を持ってきたんだけど」


突如として聞こえた声と、車に乗った一人の少年。

そこには助手席にも小さな少女を一人連れていた。


「光城家所有の武装高速車さ。これで彼らを追うよ!」


現れたのは光城雅樹だった。

しかもその横には千宮司陽菜もいる。彼女は手にトロフィーを持っていた。


「行きの道で千宮司さんと、仁王子君に出会ってね⋯⋯」


すると陽菜はポツリと呟く。


「烈、置いて行っちゃった⋯⋯絶対怒ってる」


「彼も戦力に呼びたかったけど、どうやら揉めているようだったからね。仕方ない」


陽菜の手にあるトロフィーには、『セントラルゲーム大会優勝』と書いてある。

どうやら彼女はゲーム大会で好成績を収めることに成功したらしい。


「烈、力強すぎて筐体壊した⋯⋯弁償、大変」


どうやら烈はゲーム大会で、筐体を破壊してしまったようだ。

するとここで新が口を開く。


「な、何でアンタが来てるんだよ!? てか、何でここが分かったんだよ!?」


「光城家の追跡レーダで、飛行機の動向は手に取るように分かったよ。それに、僕がここに来た理由なんて分かり切っているだろう?」


すると、運転席にて雅樹のハンドルを持つ手が強く握りしめられた。


「僕は、甘すぎたんだよ。僕がもっと強く言っていればこんなことにはならなかったんだ!! 種石先輩の背後に誰がいるとかもう関係ない、僕は光城家長男の光城雅樹だ! これ以上あの人たちの横暴を許しちゃいけない!!」


いつもの柔和な様子から一変して、怒りを露にしている雅樹。

すると雅樹はスイッチを押して、車のドアを開ける。


「さあ、乗って。彼らのアジトを攻略するには君たちの力も必要だ」


「俺たちの力も⋯⋯?」


気圧されるようにして、車に乗り込む三人。

すると三人が入るや否や、車は猛スピードで走り出す。


「うおっ、危ねえ!!」


「しっかり掴まってろ! 手加減はしないからな!!」


向かう先は山の奥。アジトがあるであろう、彼らのジープが消えていった山道の先だ。だが雅樹は半ば獣道のような様相の道を、超猛スピードで走り抜ける。


「イヤッ!!」


「い、今、体がフワッて浮いた⋯⋯」


途轍もなく荒い、雅樹の運転に悲鳴を上げる真理子と、滝のような冷や汗を流している修太。冷静なのはペロペロキャンディーを舐めている陽菜だけだ。


「というか、オマエ高校一年だろ!? 何で運転できるんだよ!?」


「光城家の力を使えば、運転免許なんて簡単に手に入る! 分かり切ったことなんだから一々聞かないでくれ!!」


ドシン!バタン!と、危なすぎる音を立てて走る車。

助手席に座る陽菜は、運転席でアクセルを全開にしている雅樹を横目に見て言う。


「もしかして、皇帝さん⋯⋯ハンドル持つと、人格変わる?」


「変わってない!! いつも通りだ!!」


ブオン!!という唸りと共に、さらに加速する車。

それを楽しむかのように、雅樹は薄い笑みを浮かべる。


「いいぞ⋯⋯もっと走れ、アトランティス号!!」


「おい、そいつ完全にイッちゃってるだろ!!  キャラがおかしいぞ!!」


ハア⋯と溜息をつく陽菜。ハハハ!と笑う雅樹と、後ろで阿鼻叫喚の絶叫を上げるレベル1の三人を交互に見比べて棒だけになったキャンディを舌先で軽く舐めた。


「アジトに着く前に、皆死んじゃいそう⋯⋯」


山の隙間から見える地平線からは、沈みゆく太陽が見える。

そして山中を、断絶魔のような叫び声と高らかな笑い声が広がっていく。


時刻は午後6時。徐々に暗くなる山道を、車が猛スピードで走り抜けていく。

彼らの向かう先は、夏美の監禁されている種石快のアジトであった。

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