第36話 インタビュー
ここは山宮学園の別荘。広大な敷地面積を誇り、実地訓練が行われている場所だ。
普段はマスコミなどの侵入は徹底して断っており、テレビ局の取材班もそれを分かっているために、この場所には近づかないようにする暗黙の了解がある。
だがしかし、今日はいつにも増して賑やかなことになっていた。
「今回お話を伺うのは、DBの襲撃にも恐れることなく仲間たちを勇敢に救出された、こちらの生徒さんです」
そういうのは朝のニュース番組の顔として有名な、おはようTVの佐藤リポーターだ。そしてカメラの前には、余裕綽々でVサインをしているチャラめの男子生徒と、今にも吐きそうなくらいに緊張している男子生徒がいた。
「ではまず、生徒連合団の団員をされているこちらの生徒さんにお話を伺いましょう。DBの大量発生にも動じず、見事な活躍でしたね」
「いやあ、全部ケンちゃんのファインプレイっすよ。ケンちゃんが外に出て「皆を救おう! DBと戦うんだ!」って言ってたおかげで、俺も勇気が湧きました!」
「か、か、海野先輩! 僕そんなこと一度も⋯⋯」
おお⋯⋯という声が取材陣から漏れる。
カリカリというメモをするような音と、最先端映像描写カメラで顔を撮られまくるのに耐えきれなくなっているのか、健吾の顔はみるみる赤くなっていく。
それに対して、修也の方は超が付くほどの饒舌でベラベラと話しまくる。
「一年生ですよ一年生! マジで凄いっすよね! 流石、生徒会次期団員!」
「!!?? 海野先輩!? な、なな、何を言って⋯⋯」
「ケンちゃんは、もう連合団の団員になるのが決定してるんすよ。ほらほら記者の皆さんももっとケンちゃんの顔を撮って撮って! 次の山宮学園の将来を担うリーダーですよお」
それを聞くや、カメラのフラッシュが今までの倍以上に増える。
対して健吾の顔は赤から青に変わっていく。ウプッと声を漏らした後⋯⋯
「ゲロゲロゲロゲロゲロ!!」
「ケンちゃーん!! それだけはダメだって!!」
プレッシャーに遂に耐えきれなくなったか、健吾は盛大に吐いてしまった。
記者もリポーターたちも大パニックになった会見会場から少し離れたところで、これらの大騒ぎをフフッと笑みを浮かべながら見る人影が二人。
「八重樫君には、『星野は賛成していた』と伝えておいて。ちょっと頼りなさげな所もあるけど、確かに今までにないタイプの人ね」
「⋯⋯まだ思う所はありますが、私も一先ず賛成します。彼がいなければ、光城さんと榊原さんも帰ってこなかったかもしれないですし、私も彼に救われたのは事実ですから」
会見会場の隅で話し合っていたのは元木桃子と、非常事態発生の報を受けて急遽やってきた生徒連合団副団長の星野アンナだ。彼女らは、生徒会入りが議論されていた健吾についての最終判断をしていた。そして結果は『合格』だったようだ。
「海野君がテレビの前であんなこと言っちゃったから、どの道彼を選ぶしかないじゃないですか。下手なメディア戦略みたいで私は好きじゃないです⋯⋯」
「でも、彼らが注意を引いてくれたから今回の件がむしろ美談で終わるんじゃない? 海野君と中村君が頑張ってくれたから、生徒会にも責任が来ずに終わったんだから。DH育成校である山宮学園の生徒がDBの襲撃に対応できなかったなんてマスコミに言われたら、それこそ大変だったわよ?」
桃子のそんな言葉を嗜めるように、アンナが言う。
実際に、あの後の彼らの働きは確かにファインプレイだったのだ。
森に繰り出した健吾と修也は、森の奥深くで気を失っていた雅樹と摩耶を見つけだした後、二人を担いで帰ってくることに何とか成功した。
なお帰還する途中で、彼ら同様に気を失った俊彦を肩に担いだ烈に出会ったのだが、「俺は問題ねえ!」と言い張る烈を何とか救急車に乗せるために、桃子が一時間ほど烈の説得に駆り出されたのはここだけの話である。
「少なくとも、仁王子君の生徒会入りは絶対にないと私は思いました。予想通りではありますが、私はあんな粗雑な人に生徒会には入ってほしくないです!」
「まあまあ落ち着いてモモちゃん。席は三つしかないし、その三人も決まったのだから仁王子君が生徒会入りすることはないわよ?」
「でも志納さんが、彼を代理補佐にするとか⋯⋯」
「そこは八重樫君ともいろいろ考えましょう。確か代理補佐には目黒君も候補に挙がっているし、彼らは案外いいコンビに見えるわよ?」
ええ⋯⋯と露骨に嫌そうな様子の桃子だが、アンナは軽く笑って言う。
「今年の一年生は面白そうじゃない。八重樫君も彼らのポテンシャルを見越してるでしょうし、心配することないわよ」
そう言ってアンナは、踵を返す。
少し離れた場所には、山宮学園本校舎に帰るためのバスが止まっている。
桃子とアンナはそのバスに乗り込むと、小さく息を吐いた。
「合宿もこれ以上は続けられないでしょうし、全員明日には帰ることになるでしょうね。そうなると、来週からはいよいよ生徒会の団員を決めることになるかしら」
顔を背ける桃子は、何処か不安げな様子だ。
結局、今年の新団員は雅樹、摩耶、そして健吾の三人で最終調整することになってはいたが、恐らく健吾に関しては相当な反発が予想される。
「中村君が今回の件で大きく株を上げたのは事実ですけど、それでも反対派の声を完全に封じることは難しいです。生徒たち以外に、先生方からもある程度の反発はあるかもしれないですし⋯⋯」
「先生方に関しては、八重樫君が説得したわ。問題は寧ろ、他の生徒たちよ」
ゆっくりとバスが動き始める。
窓の向こうでは、掃除用具を持って必死に自らの汚物を掃除している健吾と、健吾そっちのけで佐藤リポーターのメルアドをゲットしようと奮闘する修也が見えた。
「志納さんは賛成してくれると思いますか?」
ふと、そうアンナに言うのは桃子だ。
それに対してアンナはゆっくりと首を横に振る。
「あり得ないわね。どんな理由があれど、彼の下位クラスを見下すスタイルは変わらないでしょうし、賛成するビジョンすら見えないわ」
うう⋯⋯と頭を抱える桃子。
遠ざかっていく山宮学園別荘を眺めながら、アンナは溜息をついた。
3年生であるアンナは、あともう少しで生徒連合団から卒団することになる。
そんな彼女もまた、団長である八重樫と同様に、山宮学園のレベル5クラスの徹底優遇方針に疑問を持つ生徒の一人でもあった。
生徒たちのトップである生徒連に入るにもレベル5であることが前提視され、実際に彼らもレベル5の中でも特に優秀な成績であることが理由で入団している。
だがその一方で、下位クラス、特にレベル1の待遇の悪さは目も当てられない。
年々増加する除名者に、卒業後も確約されているとは言い難い進路。最近の山宮学園上層部がこの傾向をむしろ奨励し、かつ煽っているのは明白だった。
「このままではダメだと八重樫君も思っているのでしょうね。それを証明する意味でも、中村君は何としても入団させたいと思っているに違いないわ」
この問題を巡って、恐らく相当な混乱と反発が予想される。
だが彼女は、もうここまで来たらやるしかないと心に決めていた。
そして同時に、それを成し遂げるには超が付くほどのレベル5至上主義者でもある、生徒連合団の広報委員長を説得する必要があることも分かっていた。
「⋯⋯中村君には後でこう伝えておいて」
するとアンナは桃子に近づくと、耳元で軽く耳打ちする。
「⋯⋯分かりました」
そう返し、コクリと頷く桃子。
その内容が何だったのかは、今はまだ二人だけの秘密である。
だがしかし、それを聞く桃子の顔は非常に深刻そうな様子だ。
「これくらいしなきゃダメよ。志納君は何でもしちゃう困った子だから」
そう呟くアンナもまた、この先の展開を憂いているようであった。
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