第26話 対DB訓練

「では、これより仮想DBの訓練を始める!!」


担当教員の一声と共に、三年生たちは一斉に身構えた。


「これから諸君らに相手してもらうのは、DH協会の技術者たちが作った対DBを仮装した特殊なロボットである。無論、倒すのに遠慮はいらない。異能も他人に害を及ぼさない範囲でならいくらでも使用可能だ。今回の訓練は、種類ごとにランク分けがされており、強いロボットを倒せば倒すほどポイントは上がるし、仮にあまり強くない個体であったとしても、数を倒せば当然ポイントとして加算される」


ここで一拍、教員は間を置いた後言葉を続けた。


「そして、今回の訓練で上位3位以内に入ったチームには、特別ボーナスとして一学期中の単位を自動免除し、DH協会主催の有望な生徒を対象としたセミナーに参加することが出来る。無論、歴代で上位3位に入ったのは殆どが三年生だが、今年は二年生が二人、一年生は五人も参加している。彼らにも上位を目指して存分に頑張ってほしい」


そう言うと、教員は右手を大きく上げた。


「それでは始め! 諸君の健闘を祈る!!」



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茂みの奥から、真っ黒な巨大生物が飛び出す。

一見すれば蜘蛛のようなビジュアルの生物だ。


その瞳は、目の前にいる子供たちを捉えた。

彼らはDB訓練を受けている最中の三年生である。


「は、早く異能を使って⋯⋯⋯」


グロテスクな外見に早くも気圧されたのか、彼らの殆どは早くも足がガクガク震えている。

その中で、少ない勇気を振り絞った一人の少年が、手に魔力を込めると異能を放った。


「電撃烈波!! これで少しは足止めが⋯⋯⋯」


だが、少年の手から発せられたのは余りにも弱々しい火花が一つ。

さながら線香花火の如く弾けて消えたその火花に殺傷能力など微塵もない。


「う、嘘だ!! 練習では上手くできたはずなのに!!」


だが、目の前にいる生物は、勝手にパニックになる少年などお構いなしに前に歩みを進め、その眼が少年を完全に捉えた。


逃げようとする少年。

だが、恐怖に完全に支配されたその足は、少年の言うことを聞かない。

何度も反復練習した回避方法や、対DBのために必死で習得した上級能力も、この状況では使うことなど出来なかった。


「うわあああああああああああああああああ!!!」


響き渡る叫び声。

目の前の怪物が、今まさに少年に向かって襲い掛かろうとして⋯⋯⋯


「⋯⋯⋯あれ?」


いや、怪物は最早少年の方など見ていなかった。

キイキイと、気味の悪い声をあげながら、巨大な体躯がフラフラと不安定に揺れている。


「幻惑術は私も得意なのよ。実戦でも何回も使ってるから」


「いや、幻惑させるのはあまりいい方法じゃないと思うよ。幻を見たDBが異常に暴れることがあるのは有名な話じゃないか。訓練だからいいものを⋯⋯⋯」


「でも最終的には光城君が倒すんだから同じでしょう? 早く倒しましょうよ」


「それもそうだね⋯⋯じゃ、いくよ!!」


現れたのは二人の人影。

目の前のDBを見るその眼は、怯えた様子など微塵もない。


「あまり電気系の大技を使うのは好きじゃないけど、仁王子君に後れを取るのも嫌だからね、『電撃烈波』!!」


突然現れた雅樹がそう唱えると、さながら雷の如く強烈な電流がDBに向かって浴びせられた。

超強力な電撃を浴びせられたDBは、盛大に煙を噴出しながら動きを停止する。


「これで⋯⋯⋯撃破数はいくつかな?」


「12体くらいじゃないかしら。まあ、この程度のDBなら肩慣らしにもならないわね。動きも緩慢だし、最低レベルのDBなのが見え見え。C級クラスじゃないと練習にもならないわ」


物怖じするどころか、むしろこの環境を楽しんでいるようにすら見えるその者たちは、チームに一つ事前に配られたカウンターを余裕綽々で眺めている。


「⋯⋯⋯ブッチギリ過ぎるでしょ。いくらなんでも⋯⋯⋯」


「何を言うんだ、直人君。君ほどの優秀な戦士ならこの程度のDBなんて一捻りのはずなのに、もっと積極的に参加してもいいんじゃないかい?」


「他のチームは多くて5体だぞ? 今頃、他の三年生が泣いちゃってるよ⋯⋯⋯」


「臥龍様の弟子ともあろう人が何をそんな甘いことを。私たちは出来ることをやっているだけなのだから、むしろ手を抜き気味なくらいよ」


チームごとにランキング付けされているのだが、直人、雅樹、摩耶の三人がチームになっている『チーム光城』は、現在撃破数と総獲得ポイントの両方で断トツの二冠状態だ。


「き、君たちって⋯⋯⋯今年入ってきた新入生の⋯⋯⋯」


地面に蹲る男子生徒もここでようやく、現れたのがここ最近山宮学園を大いに賑わせている皇帝こと光城雅樹と、舞姫こと榊原摩耶であることに気づいたようだ。


「ピンチだったようなので助太刀しました、先輩。結果的にポイントを横取りする形になってしまいましたが、ご容赦ください」


「フン、光城君は甘すぎるわよ。その人たちが『失格』になってから倒せば、ライバルも減って丁度いいって言ったのに」


今回の訓練では、DBに事実上の敗北状態となった生徒は『失格』という形で、訓練からの離脱を義務付けられている。

今回は失格となる前に雅樹たちが助けに入ったので失格状態にはならなかったが、どうやら摩耶は敢えて失格にさせてライバルを減らそうと考えていたらしい。


「DHは助け合う精神が大事、仲間のピンチには迅速に対処せよ。と、僕は祖父から教わったからね」


「相変わらず光城家の考えは甘すぎるわね。少なくとも私のお父様は、貴方のお爺様のような甘いことはおっしゃらないわ」


それだけ言って、その場を去ろうとする二人。

すると、三年生の内の一人が雅樹に向けて尋ねた。


「い、今、電撃烈波を使ったのか!? しかも、じ、実戦で!?」


振り返る雅樹。

その顔は「何か変な事でも?」とでも言いたげだ。


「さ、三年生でも電撃烈波を使える人なんてまずいない!! ここに居るトモだって、何年間も電気系能力を練習し続けて、やっと練習で一回だけ使うことが出来たくらいの超大技なのに、それを君はい、一年生で!?」


「練習はしました。このクオリティーになるまでは三日もあれば十分だったと思いますが⋯⋯⋯」


ヘナヘナと力なく地面に崩れ落ちる三年生たち。

圧倒的才覚の差を見せつけられ、これでもかというくらいにメンタルを壊されてしまったようだ。


「何年も練習してやっと出来たのに、それをたったの三日で⋯⋯⋯」


反応に困った様子の雅樹は、何とも言えないような表情を浮かべている。

すると、摩耶が口を開いた。


「一年の『青銅の騎士』こと仁王子烈は、練習はおろか本人もまともに自覚しないまま電撃烈波を実戦で使いました。才能の壁は大きいですね⋯⋯⋯」


「さ、榊原さん!!」


完全にダメ押しになったようで、三年生の顔色は真っ青だ。


「時間が惜しいわ。もっとポイントを稼ぎましょう」


「う、うん⋯⋯そうだね」


自信も、上級生としてのプライドも粉砕された三年生を置き去りにして、二人は新たな獲物を求めて森の奥に歩みを進めていく。


そして、身も心もボロボロの三年生たちが残された。


「クソッ、こんなのありかよ⋯⋯」


「どうせDHになったってアイツらの尻に敷かれるだけなんだろうな⋯⋯」


「強い奴らなんて皆そうなんだよ⋯⋯⋯俺達みたいな才能もない人間じゃ、あんな天才には一生かかっても追いつけない。いや、むしろ離されていくんだよ⋯⋯⋯」


怒りのあまり三年生の一人、電撃烈波に失敗したトモと呼ばれた少年は地面を強く殴りつける。


「何年間頑張ってきたと思ってんだよ⋯⋯⋯来る日も来る日も練習して、やっと出来るようになったのに、それをアイツは三日で、しかも当たり前のように実戦で!」


「実戦でいつもの動きが出来ないのは当たり前です。それを出来るようにするために訓練があるんじゃないですか」


トモは顔を上げる。

目の前には、先程の天才二人とは別の男子生徒がいた。

それは直人である。


「あの人たちは小さい頃から実戦で鍛えられているんです。だから、DBを前にしても余裕を持って動くことが出来ます。実地訓練をしていない先輩がいきなりDBの前で上級能力を使うのは完全に無謀だった⋯⋯⋯」


「君もあの二人の仲間なんだろ? さぞ、可笑しかっただろうな。年上の俺たちが年下の後輩にメンツも何もかも踏み潰される様を見るのは」


グスン、と鼻を啜る音と共に、鼻声のトモの声が聞こえて来た。

だが、直人はゆっくりと首を振る。


「可笑しくなんかありません。むしろ、カッコよかったですよ」


「皮肉かよ。つまんないお世辞は⋯⋯⋯」


「だって先輩だけでしたよ? DBに真っ向から立ち向かったのは」


全員があの時、硬直していた。

初めて見る異形の生物に、戦う前から戦意を喪失していた。


「⋯⋯⋯俺が?」


「そうだよ⋯トモだけだ!」


直人の言葉を聞いた他の三年生たちも、一斉に声を上げる。


全員が戦意を喪失し、何も出来ないほどに心が砕かれた。

だがその中で、トモだけが真っ先に動いた。


「先輩は立派なDHです。DHとして飛躍するための翼はもうあるんです」


「俺は⋯⋯⋯俺は⋯⋯⋯」


「弱くなんかありません。これから強くなればいいんです。必ず道が開けますから大丈夫、僕が保証します」


年下とは思えない、直人の力強い言葉。

途轍もない厚みを感じさせる言葉は、乾ききった三年生たちの心を潤していく。

大粒の涙を流しながら、トモは直人の言葉を受け止めた。


「有難う、君の言葉に救われたよ。俺は3ー1クラスの前田まえだ友則とものりだ。皆からはトモって呼ばれてる。君の言葉を糧にして、一から頑張るよ。君の名前も教えてくれないか?」


「1-5の葉島直人です。これからも宜しくお願いしますね、先輩」


「レベル1クラスなのか!? いや、今年の一年は凄いな⋯⋯⋯」


それを聞いた三年生は驚きの表情だ。

だが、それを理由に虐げるような様子は微塵もない。


「クラスを理由に差別する奴らも一定数いるけど、俺たちは違う。これからお互い助け合っていこう。宜しくな、直人」


こうして、また直人に前田友則という新たな友が増えた。


「ところで、レベル1クラスからは三人来てるって聞いたけど、あの二人はレベル5クラスなんだろ? じゃあ、残りの二人はどうしたんだ?」


「そういえば⋯⋯⋯二年生の先輩たちと組んでいるのかな⋯⋯」


「二年で参加してるのは、元木と海野だろ? 確か海野は体調不良で休んでるって聞いたから、元木と組んでるんじゃないか?」


三年生たちの一人が、グループとリアルタイムのデータを見て確認する。


「ええっと⋯⋯⋯⋯おい、ちょっと待て!! 何だこのチーム!? 物凄い勢いで撃破数を伸ばしてるぞ!?」


一斉に直人も含めた三年生たちが、機械を覗き込んだ。


「何だこのチーム⋯⋯⋯『チーム若山』だって!?」


「若山って、最近話題の1-5クラスにいるヤバい女だよな?」


間違いない。『チーム若山』のメンバー表には、若山夏美、そして中村健吾の名前もあった。


「チーム若山の最後の一人は⋯⋯⋯元木じゃない!! 誰だコイツ!?」


最後に記されていたその名前。

直人は横からその表を覗き込んだ。


『チーム若山』メンバー表


若山夏美

中村健吾

仁王子烈


(マジかよ⋯⋯⋯)


直人は心の中でそう呟いた。

唯我独尊を地で行く凶悪男女コンビの登場は朗報か、はたまた悲報なのだろうか。

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