第24話 ミスター臥龍

事態は刻一刻と進みつつあった。


「その情報は本当か?」

「うん、間違いない話。迂闊に手を出さないで正解だったね」


ここはとある山の中。

正確には、山宮学園所有の別荘がある山の中腹部だ。


そこに見えるのは二つの人影。

筋骨隆々の大男一人と、ハイヒールを履いた金髪の美女が一人。

女の手には蛍光色に光るハンドガンのようなものが握られ、大男の手には銀色のトンファーが握られている。


「明後日から、ここでガキどもがハンターの真似事をするのは知ってるな?」

「あら、ガキとは随分と礼に欠けた表現だけど。アンタみたいなゴリラでも赤ん坊ベイビーの時代はあったはずでしょ?」


ジッと女を見つめる大男。

ハア、と溜息をつくと言葉を続ける。


「例の犯罪集団が動き出しているのは紛れもない事実だ。奴らの計画の全容は分からんが、あの気が違った集団のやることは大抵ロクなことではない」

「というか、いつものアレでしょ? 自称ビーストブリーダーなんだから」

「⋯⋯まあ、そうだな」


手に持ったハンドガンをカチャカチャ鳴らしながら、物憂げに女は言った。


「強力なDBを引き連れて、アタシたちをアニマル軍団の餌にするっていういつものパターンじゃない。問題なのは、『どれほど強いDBが来るか』だけでしょ」

「だが、今回の奴らは本気だ。連れてくるのは恐らくB級、いやA級かもしれん」

「厄介ね⋯⋯、工藤さんと波動さんに話はしたの?」

「いや、していない。工藤は兎も角、波動に話すのは少々リスクがあるからな」

「⋯⋯成程ね」


何かを察した女は、遠くに見える山宮学園の宿舎を見上げる。


「でも、このまま放置しておくわけにはいかないんじゃないかしら? 相手はDB、しかも特に危険な上位クラスの可能性が高いとなると、生徒ベイビー達も巻き込まれる可能性は高いと思うわよ?」

「それが非常に厄介な問題だ。特に、光城家の御子息に何かがあれば我々のクビが飛びかねん⋯⋯無論、榊原の令嬢は掠り傷一つでもアウトだ」

「クビはイヤね。アタシこの仕事気に入ってるし」

「被害は最小限に、かつ最上級の隠密性をキープしながらこの任務は遂行されなければならん。そのためには、やはり彼の協力が必須だろうな⋯⋯」


「ええ⋯⋯」とイヤそうな表情を浮かべる女。

だが、それを完全に無視して大男は言葉を続けた。


「電脳次元の魔女には既に連絡を送ってある。今回の事件の因果関係も含めれば、恐らく断られることはないだろうな」

「そりゃそうね。だって、「ターゲット」なんだから。てか、あの怪物をあんな性悪女がプロモートしてるなんて、虫唾が走る話だわ」


皮肉っぽく「ターゲット」の部分を強調する女だが、よく見ると手に握られているハンドガンが僅かに震えている。


「⋯⋯怖いか?」

「何がよ?」

「強がるな。お前の過去を知っている人間なら、誰もが納得している話だろう」


チッ、と舌打ちする音が聞こえた。

乱暴に女は地面に腰を下ろす。

盛大に足を広げると、女はそのまま倒れ込んだ。


「⋯⋯怖いよ。アタシはアイツに一度シメられてるから」

「だが、それがあって今があるんだろう? ゴミの掃き溜めで腐り堕ちていくだけだったお前が、今では金のエンブレムを背負っているんだからな」


大男は、胸から一枚のカードを取り出した。

金色に輝くシリアルコード入りのカード。そこにはNO5と描かれている。

そしてカードの真ん中には、放射線状に線が広がっていくような独特の形をしたエンブレムが刻まれていた。


「お前も持っているはずだ、NO4」

「⋯⋯忘れて来たよ、バカ」

「知っている。その収納スペース皆無の格好を見ればバカでも分かるがな」


女は、パーティ帰りのような黒いドレスを着ている。

ハンドガンのほかは何も持っていないようで、その様子からしてかなり粗野な女性だ。


「伝説と呼ばれるには相応の理由があるということだ。首輪の外れた狂犬と化していたお前を力で押さえつけたのだからな⋯⋯⋯」


鋭い眼光をドレスを着た女に向ける男。


「そして、武勇伝がまた一つ増えたと⋯⋯⋯ミスター臥龍のね」


指先でチョンチョン銃をいじりながら、口先を尖らせて皮肉を込めて女は言った。


「ねえ、本当にアイツは来るの?」

「今更何を言っているんだ。来るように仕向けたのは、お前だろう。まあ、状況がそうさせたと言っても過言ではないが⋯⋯」

「アタシはイヤだって言ったじゃん。メチャクチャ大変だったんだから⋯⋯アイツは絶対に何かを隠してる、間違いない」

「それは、明後日分かることだ。これ以上語ることは何もないだろう」


すると女は立ち上がり、近くの道に停められた車に向かって歩いていく。


「じゃあ取り敢えず帰ろっか。下見は終わったし、もう後は本番を待つだけでしょ」

「⋯⋯そうだな。長居しても仕方ないだろう」


二人は車に乗り込むと、運転席に座った男がエンジンキーを回した。

すると、エンジンがかかると同時に男が口を開く。


「⋯⋯⋯お前、せめて恥じらいの概念くらいは持ったらどうだ」

「? 何が?」


男は、チョンチョンと女の下腹部周辺を指さす。


「いや、お前の座り方が随分雑だったんでな⋯⋯⋯⋯」


途端に、女はスカートの裾をグイっと下に引っ張った。

顔は真っ赤に染まっている。


「⋯⋯見た?」

「黒いドレスとの対比が凄かったぞ。まあ、お前のことだからドレスの色に合わせてるのかと思ったが、まさか白とは⋯⋯⋯」


パアン!!という強烈な音が山中に響き渡った。


その後、山道沿いの民家の住民が、猛スピードで危なっかしい運転をしながら山道を駆け下りていく車を見かけたようだが、その後の車の行方は不明である。



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こうして、様々な人間の様々な思惑を抱えながら、

前期DH育成合宿は、幕を開けた。

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