第22話 秘密の第一研究所

薄暗い森の奥にその研究所はあった。

北西の方向に数キロほど進んだ先にある、奥深い樹海のそのまた向こう。


いまにも崩れ落ちそうなほどにボロボロで、床は傷み切っている。

壁は穴だらけでかび臭く、入ることを躊躇させる要素が余りにも多いこの建物だが、そこに向かって歩く人影が一つあった。


黒いマントで姿を隠しているその人影は、ゆっくりと建物の中に入っていく。

硝子を蹴破り、扉を力ずくでこじ開ける。

中に人影は無く、人目に付く心配がないと見るやその人影はマントを脱いだ。


「ボロボロだな。まあ、誰も近づかないから当然か」


直人だった。

彼は教室に置かれていた厄石について有効な情報を得るべくこの建物に侵入した。

この建物は一見すればただの廃墟なのだが、実はここはとある研究所の名残なのだ。


「旧第一研究所。 少し前なら残ってたのかもしれないけど・・・」


ダンジョンについての情報を集めている極秘施設。

その名も第一研究所だ。


かつてダンジョンについての情報がほとんど存在していなかった時代に、一から手探りで研究を始め、そして多大な貢献をした施設である。

とある事件の影響で今はこのような状況になっているが、かつては数多の天才たちがここに集まって研究をし続けていた迷宮学の元聖地である。


直人は建物の奥に入っていく。

彼は知っているのだ。この部屋が何処に繋がり、そして広がっていくのか。

彼は建物のとある一室に足を踏み入れる。

そこには大量の紙束が乱雑に広げられていた。


「保存状態は最悪だな・・・読めるか分からないよ」


文字は掠れ、読ませる気を微塵も感じさせない最悪のコンディションである。

だがよく見ると、それが名簿のような物であることが分かった。


「これは、研究員の名前かなあ?」


長い年月で風化しかかっている紙を目を凝らして読み進めるが、目が疲れるだけで相変わらずの読みづらさである。

しかし、暫く読んでいくうちにある名前が直人の目に入る。


「これは・・・・もしかして・・・・」


その名前を直人は知っていた。

忘れられない。いや、決して忘れてはならない。


直人の脳裏にあの悪しき記憶が蘇る。


『貴様を必ず殺しに行くぞ!! たとえ我が身がどんなことになろうとも!!」


彼は懐に紙を仕舞うと部屋を出る。

外はポツポツと雨が降り始めてきている。


黒いマントを羽織ると、直人は雨足の強くなってきたその道を駆け足で走り去っていった。

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