第21話 前期DH育成合宿

それは、澄み切った晴天の日のことだった。

学校の廊下に張り出された紙が、1-5クラスの話題をさらった。


『若山夏美、中村健吾、葉島直人、以下三名は前期DH育成合宿への

参加を許可する』


仁王子との決闘を終え、翌日も始業ギリギリに教室に入った直人。

そんな直人の目の前に、こんな知らせが飛び込んできたのだ。


「前期DH育成合宿・・・・?」

「あ、葉島君! これもう見たかい?」


そう言って駆け寄ってきたのは、健吾だ。

どうやら彼も、目の前の知らせについては良く分かっていないらしい。

ただ、前期DH育成合宿がどのような行事なのかについては知っているようだ。


「さっき聞いたけど、これって確か・・・・」

「三年生が受ける実地訓練のことよ。私は兎も角、貴方達が選ばれた理由が全く分からないわね」


後ろから今日も変わらず教科書を読み続けている夏美がそう言った。


「何だよ若山。随分自信あるみたいだけどさ、何やるのか知ってるのか?」


そう言ったのは、直人の前に座っている向井新だ。

新だけでなく、クラスにいる大半が実地訓練なるものについては全く把握していないらしい。

すると、夏美はわざとらしく溜息をつく。


「貴方達、本当に何を考えて山宮に入学したのかしら? その程度のことは、十分に把握していると思ったけど」

「入学パンフレットを見たけど、そんなこと何も書いてなかったぜ? じゃあ若山は何処で聞いたっていうんだよ?」

「私なりの情報ソースがあるのよ。貴方達と一緒にしないでほしいわね」

 

安定の棘のある言い方だが、この一か月でクラス全員は慣れている。

特別腹を立てることもなく、新は言葉を続けた。


「じゃあ言ってみろよ、前期DH育成合宿って何なんだ?」

「DHになるには実地訓練は絶対に欠かせないわ。でも、大した力もないのに突然実戦に入れば、大きな危険が伴う。だから、三年生になるまでは実戦からは離れて座学や研修をするの。その代わり、三年になってからは実戦を多くこなすのよ」

「じゃあ、何で一年のお前らが呼ばれるんだよ?」

「さあ? 知らないけど、実力が認められたんじゃないかしら」


確かに、夏美なら実力で選ばれることも十分にあり得るだろう。

しかし、その場合後の二人が呼ばれた理由が謎すぎる。


「中村君と葉島君は何で呼ばれたの? 賄賂でも送ったのかしら?」

「そ、そんなことしてないよ! 僕たちも何で呼ばれたのか分からないんだから、そうだよね葉島君!?」

「え? あ、ああ・・・・」


これについては、直人も寝耳に水だった。

大した実績もない健吾と直人が何故呼ばれたのか、全くと言ってよいほど分からない。


「ていうことはさ、若山が呼ばれたってことは例の二人も来るのかな?」

「例の二人って?」

「ホラ、1-1の怪物だよ。皇帝と舞姫!!」


直人の心拍数が一気に跳ね上がる。

新と健吾の話す声に、彼は聞き耳をたてた。


「そうなの? 僕、入学式に少し顔を見ただけだからさ」

「普段は別の校舎で訓練を受けているから、見る機会はないよな。でも、一度だけ舞姫の方はみたことあるんだぜ!」

「へえ・・・どんな感じだった?」

「めちゃくちゃ美人だったなあ・・・それで、成績優秀、異能の才能も抜群なんだろ? 神様は不平等すぎるぜ!!」


昨日の悪しき記憶が、直人の中で蘇る。

確かに彼女は異次元の才能と美貌を持っている。

だが昨日の一件も含めて、直人は彼女に謎の恐怖感を抱いていた。


(あの人・・・意外とヤバい人かもな・・・・)


それが、直人の偽らざる本音だ。

超が付くほどの臥龍信者であることは、昨日の段階で脳の底までしっかり刻み込まれてしまっている。


「でも、皇帝の方は良く知らないんだよなあ。健吾は何か知ってるか?」

「皇帝って、光城雅樹のこと? まあ、それはね・・・・・」


ふとここで、健吾の歯切れが悪くなる。


「ん? どうかしたか?」

「いや・・・何でもないよ」


不審に思ったのか、新は健吾に言葉をかけるがそれ以上のことは健吾は何も言わなかった。


「じゃあ、今の所一年生からは五人が参加するのかな?」

「それは分からないわね。でも、一年生から五人も参加したことなんて今まであったかしら・・・」


すると、教室に担任の雪波が入ってきた。


だが、雪波の様子を見た夏美は眉を顰める。


彼女の機嫌は見るからに良くない。

すると、おもむろに何かを取り出すと、彼女はそれを机に置いた。


「色々と言いたいことはあるが、まずはこれを見てもらおうか」


彼女は、クラス全体に見えるようにそれを翳した。

小さい石のようなものだが、よく見ると紫色に何故か光っている。


「先生、何ですかそれ?」


新が、雪波に言う。

すると雪波は鋭い目を光らせながら語気を強めて言った。


「昨日、この教室にこの石が置かれていた。この中に、これが何か分かる者はいるか?」


手を挙げる者は一人もいない。

普段は率先して答える夏美も知らないようで、教科書を片手に珍しく雪波の話を聞いている。


「これは、いわゆる『厄石』というものだ。まあ、習っていないから知らんのも無理はないが、ここにこれがあったというのは恐ろしい意味合いを含んでいる」


一つ間を開けた後、彼女は一息で言い切った。


「こいつは、ダンジョンの核だ。コイツが生命エネルギーを吸収することで、DBを保有するダンジョンへと形を変える。幸い既にDHの手で無害化されているが、それでおいそれと話題を打ち切るわけにはいかん」


それを聞いたクラス一同は騒然となる。

前の方で聞いていた健吾は勿論、夏美も驚いた表情を浮かべた。


「こんな物を普段から持っている人間などいない。つまり、『何者かが』意図的に、1-5教室にダンジョンを作り出そうとした可能性があるということだ」


最早、それ以上の説明は必要無かった。

この中に、ダンジョンを意図的に作ろうとした人がいるかもしれない。

それだけで、事の重大性を語るには十分だ。


「この件は、DH本部にも連絡した。お前たちだけではなく、その他の全クラス、全職員にも本部からのチェックが既に入り始めている。だが、状況的に1-5クラスの生徒と私が一番疑われるのは分かるだろう」

「じゃあ、私達はどうすればいいのかしら?」

「捜査には真摯に答え、それ以外に余計なことはしない。出来ることはそれだけだ。無論言うまでもないかもしれないが・・・・」


その途端、雪波から強い威圧感が発せられる。


「実行犯には、強力な罰が与えられる。退学などではない、即刑務所行きだ!!」


クラスのほぼ全員が息をのむ。

冗談ではなく、間違いなく本気だ。


「話は以上だ。それでは今日も勉学に励むように」


実に短い話ではあったが、それだけでもクラス全体からさざ波のように不安が広がっていくのが見て取れた。


「なあ健吾、お前たちは何時から合宿に行くんだ?」

「ええっと・・・明後日からだね。その間の授業は全部公欠になるみたいだけど・・・」

「でも、本当に行けるのか? 明らかにシャレにならない雰囲気だっただろ」


健吾と新が話しているのを横目に見ている直人。

彼は密かにあることを決意していた。


(・・・例の場所を漁ってみるか。何か見つかるかもしれない)

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