第18話 仁王子 烈

「せいぜい、死なねえように頑張ってくれよ。命の保証はしない主義でな」


ポキポキ指を鳴らしながら、仁王子は直人に言った。

もう彼自身は勝利を確信しているようだ。


だが、それに対する直人の反応は特にない。

十分にリラックスすると、いつ始まっても良いように身構える。


仁王子の二つ名は『青銅の騎士』

その言葉は、彼が持つ「固有スキル」から来るものらしい。

だが、現時点では仁王子がどのような力で攻めてくるのかはまるで分からない。


マキが右手を上げる。

それを見るなり、仁王子と直人は同時に臨戦態勢に入った。


「それでは始め!!」


そして、マキの右手が振り下ろされる。


すると、仁王子が猛烈な勢いで直人に突撃してきた。

身長約二メートル、体重は百キロを下らないであろう巨体が

直人を吹き飛ばすべく突進する。


「死ねやあああああアアアアアア!!!」


直人は、身を屈めると仁王子の足元をすり抜けるようにして回避する。

流れるような直人の身のこなしに対応できなかった仁王子は、何と脚力だけで完璧に体勢を整えると、振り向きざまに今度はキックを見舞った。


しかし、これも完璧に見切っていた直人は、今度は大跳躍で仁王子の足を飛び越えるようにして回避した。


「チッ、チョロチョロしやがって・・・・!」

「アンタとまともに打ち合ったら俺の体が持たないんだよ」


そう、空振りしているとはいえ、直人は仁王子が何故強者であるのかの、強さの一端を感じ取っていた。

先程のタックルも、キックも全て、まともに受ければ再起不能は免れないほどの凄まじい威力であり、その証拠に体勢を整えた時の足の踏ん張りのみで、丈夫に作られているはずの室内訓練場の床が僅かにへこんてしまった。


仁王子は、異能だけではなく単純な身体能力までもが常軌を逸しているのだ。


「ひ、ひええええ・・・・あ、あんなの反則ですよお」

「異能抜きでこの強さ。もし固有スキルを使われたら彼の身が危ないわね・・・」


今にも泣きだしてしまいそうな俊彦と、鋭い目つきで戦いの行方を見る摩耶。

異能抜きとは思えない戦いの迫力である。


「オラどうした! 全然攻撃してこねえじゃねえかよお!! ビビってんのか?」


攻撃を躱し続ける直人にしびれを切らしたのか、仁王子が挑発する。

だが、直人は少し離れたところから何も言わずただ仁王子を見つめるのみだ。


「つまんねえな・・・・だったらこうだ!」


すると、唐突に仁王子は右手を空中に高く突き上げた。

その途端、空中に白い霧のようなものが渦巻き、透明な何かが現れる。


「アレは・・・氷!?」

「まさか! 彼はもう氷生成が出来るのか!?」

「そんなモン、独学で何とかしてやったよ!!」


空気中から無数の氷を生成した仁王子は、手を一斉に直人に向けた。


「オラア!! ミンチになっちまえ!!」


その途端、雨嵐の如く無数の氷塊が直人に襲い掛かった。

打ち出される氷塊の速度は、時速80キロ。もし一つでも直撃すれば、

病院送りは確定だ。


(こんなことまで出来るのか!!)


だが直人は、空中回転で器用に氷塊を躱した。

体からわずか数ミリの所を、唸りを上げて氷塊が通過していくのを肌で感じる。


直人の動体視力は常人を遥かに超える。

『色々あった結果』の副産物ではあったが、今回はそれを甘受することにした。

そして、氷塊を何とか全て躱し切ることに成功した。


「す、凄い! 直人さん凄すぎます!!」


俊彦は目の前の直人の超人芸に興奮を隠せないようだ。

そしてそれは、横で見ている二人も同じ。


「まさか、仁王子君があそこまで異能のクオリティを上げているとは思わなかったけど・・・・それを躱す直人君は、一体何者なんだ!?」

「一体そんな異能を使ったのかしら・・・見当がつかないわ」


目の前で繰り広げられる超人たちの宴に、ギャラリーは大興奮だ。

だが、肝心の当事者たちの興奮は少々そのベクトルが異なる。


「クソが・・・俺の氷投げを全て躱すとは・・・」

「正確には『氷の弾丸アイスバレット』だけどね。ちゃんと勉強しなよ」


ビキビキと、頭の血管が浮き出る仁王子。

ちゃんした名前を知らずに異能を使っていたらしく、マキが横から指摘する。


どうやら仁王子は攻撃が全く当たらないことにフラストレーションを溜め込みまくっているようだ。

もし、仁王子が今までに繰り出してきた攻撃を正面からまともに受けていれば、普通の一般人なら30回は死んでいる。

だが、華麗な身のこなしで完璧に攻撃を回避した直人には通じない。

しかしながら、直人からの攻撃がないことがどうも仁王子の癇に障るようだ。


「いつまでも逃げ続けやがって。まさか俺に近づくのが怖いのか?」


見え透いた挑発だ。

攻撃を誘い、近づいてきた所で一撃くらわす魂胆なのだろう。


しかしながら、直人には一つ秘策があった。

だが、それをするには仁王子が持つ『切り札』の中身を知らなければならない。


仁王子が持つ切り札、それは言わずもがな『青銅の騎士』である。

この短時間だけでも分かる。仁王子の格闘センスは明らかに別格だ。

世代最強と謳われる『皇帝』こと光城雅樹や、『舞姫』の二つ名を持つ榊原摩耶がどれ程の力を持っているのかは分からないが、少なくとも仁王子が戦いにおいては世代最強とも言われる所以が直人にはビンビン伝わってくる。


だからこそ、直人は知りたかった。

そんな彼の切り札である、『青銅の騎士』がどれ程の物なのか。

直人は、自分から仕掛けてみることにした。

短気な仁王子のことだ。こう言えば、間違いなく彼は『発動』させるだろう。


「ねえ、引き分けで手を打たないか?」


十分に距離を取った場所から、直人は両手を広げるようなジェスチャーを見せた。

文字通りお手上げだ、とでも言うように。


「・・・何故だ?」

「何故って、アンタの攻撃は見切れるけど、俺がアンタに攻撃する手段がないんだよ。だから、『引き分け』にしようってわけ」

「・・・・テメエが、俺に攻撃する手段が無い?」


明らかに怪しむ仁王子。

ここで直人は、殺し文句を言い放った。


「だって俺、異能使えないもん」


訓練場に静寂が走る。

雅樹も、摩耶も、俊彦も、何を言っているのか分からないと言うような表情を浮かべて困惑している。

よく見ると、陰に隠れるようにしてマキが口を押えて笑いを堪えていたのだが、直人はそれを完全に無視した。


「い、異能が使えない?」


ようやくここで、雅樹が口を開いた。

気味が悪いほどの静寂の中で、その声はよく響く。


「ということは、さっきの動きは純粋な身体能力だったってこと!?」

「・・・・常識の範囲外ね」


摩耶も俊彦も驚きを隠せないようだ。

だが、それも仕方のない話だろう。仁王子のタックルやキックはまだしも、対DBにも有効な攻撃の一つである『氷の弾丸アイスバレット』を身体能力のみで躱すなど正気の沙汰ではない。


だが、仁王子がその言葉で抱いた考えは、他の3人とは少々違ったようだ。


「・・・・テメエは、異能が使えない。なら、ずっと俺のターンが続くってことだよなあ・・・!!」


仁王子は深く息を吐いた。

すると、仁王子を中心として風が巻き始める。

その瞬間、仁王子の考えを一早く察した雅樹が叫んだ。


「まさか!! 仁王子君、それだけは止めるんだ!!!」

「うるせえ!! もうアイツはグチャグチャにしないと気が済まねえんだよ!!」


直人は、腰を下げて更なる攻撃に備えて身構える。

どうやら、直人の作戦は成功したようだ。


「テメエが異能が使えないなんて知ったことじゃねえよ・・・だが、ここまで俺をおちょくったツケは払ってもらうぞ!!」


仁王子の肌が徐々に変色し始めた。

肌色が少しずつ光沢のある緑色に変色していく。


「榊原さん・・・もしかしてあれって・・・・」

「遂に使ったわね。彼の固有スキル、『青銅の騎士』よ」


すると彼はシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になった。

筋骨隆々な体は今や深緑色に変わり、まるで青銅ブロンズで出来ているかのような体に変わっている。

威風堂々たるその姿は、一片の隙も感じさせない。


直人の前に立ちふさがるその男の名は、仁王子じんおうじれつ

山宮学園入学者選抜第三位にして、『青銅の騎士』の二つ名を持つ男。


身長約二メートルの巨体から繰り出されるパワーと瞬発力、そして見境なく全てを破壊する凶暴な性格から、一時は魔導大監獄への一時収監すらあり得たほどの超危険人物にして、次世代有望DH候補の一人。


彼の持つ固有スキル『青銅の騎士』とは、体を文字通り青銅ブロンズのように変え、鉄壁の要塞にしてしまう能力である。

物理攻撃は勿論、多少の熱や冷気は簡単に弾き、加えて彼の身体能力もろとも増加させる驚異的なパワー増幅能力まで付加されているのだ。


つまり今の仁王子は先ほど以上のパワー、スピード、そして万物を跳ね返す鉄壁の防御力を兼ね揃えた、人間要塞と化しているのだ。


仁王子は勝利を確信した笑みを浮かべ、直人に言った。


「遺言は言い終わったか? 第二ラウンドを始めようぜ!」

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