第19話 異能を越える力
異能には、一般的に大きく分けて二つの種類がある。
先天的に備わっている異能力である『固有スキル』と、後天的に教育や異能開発などを受けることで備わる『追加スキル』である。
だが、全人類のほぼ全員が異能力を使えるのに対し、固有スキルを持つ人間は極めて少なく、固有スキルを持つ人間はそれだけで才能に恵まれているとも言えた。
追加スキルと異なり、固有スキルは生まれ持った力であるため体力の消耗なども少なく、ある研究によれば追加スキルのA級
無論その種類も様々ではあるが、固有スキル、特に強力なスキルを先天的に持って生まれてきた人間は、それだけで持たざる人間にとっては何とも埋めがたい差であると言えるだろう。
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仁王子が再び、直人に向かって突進した。
先程とは明らかに威力が違う、当たれば最悪即死の威力である。
「当たらないよ!!」
それを、直人は並外れた跳躍力で回避した・・・・はずだった。
仁王子が、ニヤリと笑いながら跳んだ先の直人をしっかり凝視しているのを見るまでは。
「同じ動きで俺を騙せると思ってんのか!!」
仁王子は腕を伸ばした。
彼は既にこの直人の動きを完璧に見切っていた。どの方向に跳ぶのか、どんな動きをするのか、その全てを仁王子は既に理解していたのだ。
仁王子は、直人の足を掴んだ。
そして、思いきり握りしめる。
「グッ・・・!!」
「アア? テメエの足、随分固えな」
予想以上の直人の体の強度に驚いたのか、一瞬仁王子は手の力を緩める。
それを見逃さず、一瞬のスキをついて直人は腕を振り解いた。
(・・・!! 何て力だよ・・・・)
「ったく、テメエの体はチタンか何かで出来てやがんのか? 俺の力なら、レンガでも握力だけで握り潰せるんだが・・・・」
直人の体は特別性だ。
元々生まれ持ったものに加えて、鍛錬のレベルも規格から違う。
当然、人外レベルの強度を誇り、体の耐久は高い。
が、それはあくまで並の人間が相手の場合だ。
仁王子は並の人間の規格を、百メートルくらいオーバーした人外であり、先程の仁王子のホールドを受けた段階でそれは十分に理解できた。
(これが噂の『青銅の騎士』か。あと0.5秒振り解くのが遅れていたら、俺の足はペチャンコにされていただろうな・・・・)
生まれ持った仁王子のパワーが、『青銅の騎士』を纏うことで更にバカげた力になっている。
それだけでなく、彼の本能的な格闘センスが直人の動きを無意識の内に分析し、さながらスーパーコンピュータの如き状況判断能力で、直人を追い詰めていく。
「彼の本当の恐ろしさは、戦闘に対する学習能力の速さね。異能力も近接的物理攻撃も、彼ならすぐに習得してしまう。加えて、まるで仁王子君のために存在するかのような『青銅の騎士』の優位性。このままでは仁王子君の勝利は決定的ね」
直人からの有効打がないのが分かった時点で、仁王子の攻撃は一方通行と化している。それはつまり、直人が仁王子の攻撃に完全に捕らわれたその瞬間が、直人のゲームオーバーの瞬間というわけだ。
「オラオラオラ!! もう、テメエは終わりなんだよ!!」
拳は壁に穴を穿ち、床は最早傷だらけだ。
加えて、最初は完全に空振りしていた仁王子の攻撃が、徐々に直人を掠めるような攻撃に変わり始めていた。
直人の動きは決して遅れていない。
むしろ、少しづつだが速くなってきている。
だが、それを上回る速度で仁王子が進化しているのだ。
仁王子は、両手を前に突き出すと今度は別の異能を発動させた。
すると彼の腕に強力な電流が流れる。
「
電磁流波、それは相手に電流を流して相手の動きを止める技だ。
発した電流は本来、体を少し痺れさせて動きを鈍くする程度の威力なのだが、
仁王子の規格では、相手の意識が吹き飛ぶほどの威力になってしまう。
「違う! アレは電磁流波じゃない!」
「正確には『威力が違う』ってところね。全く意識せずにあんな
早くもそれに気づいたのは遠くから見ていた雅樹と摩耶だ。
そう、彼の使った能力は電磁流波とは一線を画する力。
つまり彼の使った異能力は正確には電磁流波ではなく、それよりもさらに高度な攻撃技である「
だが、使っている当の本人はそれを全く知らない。
彼の規格外の才能は、電撃烈波の独学取得を可能にしてしまったのだ。
「う、嘘だ・・・電撃烈波はBクラスの高等スキルで・・・」
「電気はアタシの専門だけど、大口叩くだけの力はあるねえ。」
俊彦も凄まじい仁王子の強さに気圧されている。
電気に関しては特に詳しいマキも、その実力は認めたようだ。
そして仁王子は電流を直人に向かって放つ。
流石の直人も、電流を見切ることは出来ず、電流は直人を貫いた。
「ウッ・・・!」
「今更後悔しても、もう遅えよ! 病院の予約はしてあるんだろうなあ!」
仁王子は、拳を強く握りしめる。
その眼は、今まさに倒れようとしている直人を捉えていた。
「仁王子君! 彼はもう戦闘不能だ! 追い打ちをかける必要はない!」
雅樹が仁王子に向かって叫んだ。
直人は現時点で戦闘不能。つまり、もう追い打ちをかける理由はない。
だが、仁王子の耳にはもう誰の声も入らなかった。
「黙れ!! これは俺の戦いだ!!」
時速、70キロは出ているだろう。
恐ろしいスピードで突っ込んでくる仁王子に対して、直人はピクリとも動く気配がない。
「さ、さ、榊原さあん!!」
「マズいわ・・・このままじゃ・・・」
「このままじゃ直人君が殺されてしまう!! 僕たちで止めるんだ!!」
そう言うと雅樹は、両手を仁王子に向けた。
だが、何者かの手がそれを遮る。
「余計なことするんじゃないよ。まだ途中じゃないか」
遮ったのは、直人の危機的状況の中でもなお涼しい顔を崩さないマキだ。
「でも、このままでは彼が・・・・」
「彼が、何だって? 確かに危ないけどねえ」
「!! だったら何で・・・・」
拳はもう直人のすぐそこに迫っている。
青銅の騎士で完全武装した仁王子のパンチが直撃したら一体どうなるか。
「危ないっ!!」
俊彦は思わず目を瞑る。
直人が見るも無残な姿になるのは、到底直視できることではなかった。
仁王子は全身全霊の力を込めて右手を振り上げる。
だが、その時だった。
「ゴメン。やっぱり隙だらけだよ」
それは一瞬だった。
電撃烈波が直撃したはずの、絶対に動くことがないはずの男の右手が動いた。
その右手には軽く握られた拳がある。
「君、気づいてる?タイムオーバーだよ?」
「・・・? 何だと・・・?」
「気付いてないんだね。青銅の騎士が消えてるよ?」
刹那の瞬間、仁王子は自分の姿を視認した。
(!!!! バカな!!!)
仁王子は、自分の目を疑った。
消えている。無敵の最強装甲、『青銅の騎士』が消えている。
深緑色だった色が肌色に戻り、光沢も消え失せている。
だが、それ以上のことを考える猶予は与えられなかった。
「惜しかったとは思うよ。でも、それが今の実力だね」
直人の拳が、仁王子の鳩尾を直撃する。
視界がボヤけ、目の前を白黒の線が通り過ぎ、体から力が抜けていく。
「グハッ・・・!!」
仁王子は片膝をついた。
彼の人生の中で、一対一の戦いで膝をついた経験はない。
残された力を振り絞り、直人の腕を掴もうと彼は手を伸ばす。
だが、それも難なく抑えられると、顎を擦るようにして直人は
パンチを放った。
脳が揺れ、仁王子の巨大な体躯が仰向けに倒れる。
それを見届けた直人は、地に転がる仁王子に対して静かに告げた。
「これで、戦闘不能だね。僕の勝ちだ」
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