第7話 ダンジョン発生

それは前触れもなく現れた。


皆が寝静まった深夜三時ごろ、山宮学園から少し離れた公園の一角に、突如として黒い霧が現れた。

夜の闇から滲み出るようにして現れた黒い霧は、渦を巻くようにしてまるでドリルのような形に変形する。そしてゆっくりと回転しながら地面に穴を穿ち始めた。


その途端、近くにあった木や草が一斉に萎びたかと思うと、ボロボロに枯れる。

まるで黒い霧にエネルギーを吸い取られていくかのように萎びていくその様子は、何とも言えない禍々しさを感じさせる光景だ。

 

黒い霧は、徐々に体積を増やしうねるような動きに変わり始める。

そして地面にもぐりこんだ部分が徐々に拡張を始めた。

地面を侵食していくように広がっていくその黒い霧は、徐々に実体としてハッキリとした形に変わっていき、まるで奈落に続くかのように底の見えない闇の巣窟を形成し始めた。


それから暫くした頃だろうか。

洞窟の奥から、キイキイと甲高い何かの鳴き声が聞こえて来た。

カサカサ・・・と何かが這いずり回るような音も同時に聞こえてくる。


そんな中、公園から少し離れた辺りに一台のタクシーが止まった。

扉が自動で開き、中からベロベロに酔ったサラリーマンが千鳥足で現れる。


「ああ、ハイハイ二千円ね。んじゃ、お疲れえ」


そんなことを言いながら男はタクシードライバーに金を渡す。

鞄を雑に引っさげてフラフラの足取りで歩くサラリーマンの姿は随分と危なっかしい。


「ああ飲まなきゃやってられねえっつーの。下請けの奴ら、全然仕事してねえじゃねえか・・・・」


仕事の不満だろうか、男はブツブツ文句を言いながら歩いている。

そうとうストレスが溜まっていたようで、足元の小石を足先で蹴飛ばして独り言を漏らしながら、男は手元の時計を見た。


「クソッ、もう三時じゃねえかよ。酒飲んでると時間が経つのが早いぜ・・・・」


そんなことを言いながら、ふと男は公園の方を見た。

暗闇に紛れてよく見えないが、何かが動いたような気がしたからだ。


「何だ? 猫でもいんのかよお」


千鳥足で男は公園内に入った。

当然深夜の三時では公園で遊んでいる人など一人もいない。周りに家もほとんどなく、人もタクシードライバーを除けば全くいない。


「遅いんだから寄り道なんかしないでくださいよ!」

「ったくうるせえな。分かってんよそれくらい」


フラフラのサラリーマンを見かねたタクシードライバーが、道の向こうから声をかけてきた。


「今時物騒ですからねえ。ダンジョンなんか出てきたらアタシら一般人にとっては一堪りもないですよ」

「大丈夫だって。近くにダンジョンハンターのデカい学校があるだろうが、ピンチの時は助けに来てくれんだろ」

「そんな都合の良いモンですかねえ・・・・・」

「ま、アイツらのことなんか一ミリも信用してねえけどな」


そんなことを言いながら、サラリーマンは公園の奥に入っていく。

光もなく、真っ暗な空間には特に人気のようなものはない。


「どうです? 何かいましたか?」


タクシードライバーの声が後ろから聞こえて来た。

だが、サラリーマンはゆっくりと首を振る。


「何もいやしねえよ。しかし変だな・・・何か見えたような気がしたんだが」


その時だった。

闇の向こうから黒い触手が現れると、触手がサラリーマンの腕を掴んだ。

ボキッ、という鈍い音と共に何がが折れる音もする。


「うわあああああああああああああああッ!!」

「な、な、な、これはッ!!」


強烈な痛みと、突然現れた謎の触手にパニック状態に陥ったサラリーマンは、タクシードライバーに助けを求めるが、時は既に遅かった。

シュウウウ・・・という音と共に、サラリーマンの腕から黒い霧が噴出する。

すると、まるで泥人形が崩れ落ちていくかのようにサラリーマンの体が溶けるように崩れ、そして少しずつ黒い霧状の物体に変わっていく。


ダンジョンに対して多少の知識があるタクシードライバーは、この現象が何なのかを知っていた。


「へ、へ、変性吸収かッ!!」


変性吸収、それは他の生物のエネルギーを吸収する際にダンジョンビーストたちにとって無害な形に変性することだ。

言い換えれば、今サラリーマンは闇の向こうにいるダンジョンビーストに食われたのだ。


「い、いしょいで連絡を・・・・・」


する余裕は与えられなかった。

新たな獲物を求めて、黒い触手が今度はタクシードライバーを捉えたのだ。


「助けてくれえええええっ!!!」


その声に答えるものは誰もいない。

断末魔が木霊し、ものの一分もしないうちに彼らの衣服を除いて全ての肉体がダンジョンビーストによって吸収された。


エネルギーを充填したダンジョンは、拡大を開始する。

中のDB達は更に一回り大きくなり、ものの一瞬で更にその数を増やした。


だが、公園の近くに設置されていた監視カメラがようやくその異変を察知する。

AIによって管理された監視システムは、ダンジョンの発生を感知すると同時にけたたましいサイレンを鳴らす。

位置情報が近くのDH達に送られ、最寄りのDHがDB討伐に向かうのだ。


そして、ダンジョン発生から数分もしないうちに、各々の武器を引っさげたDH達が集結し、ダンジョン撃破のために奮闘することとなった。



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後日、地方新聞の一隅に、小型ダンジョンが発生したことと若手新鋭のDHが無事討伐したことが記事になり、地方ニュースでもそれは話題となった。

だが、二人もの犠牲者が出たことについては不自然なほどに誰も話題にすることは無かった。

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