第4話 入学初日 その3

これは、入学式が始まる少し前の話。


入学式が行われている講堂の横にあるステージの控室には、一人の少女と少年がいた。その少し離れたところには、姿は見えないが何人か人がいるようだ。


「もうそろそろ始まるのに、一体何をしていたんだい?」


頭一つ抜けた高身長に、恐ろしさを感じるほど整った顔立ち、仕草の一つ一つに格式の高さすら感じる少年だ。優しく語りかけるその声には魔性にも近い力があり、性別を問わない魅力がある。

だが少年の目の前にいる少女は、そんな少年の一挙一動に眉一つ動かさない。


「光城君には関係ないわ。ちょっと・・・練習してただけよ」

「へッ! 天下の舞姫が練習だってよ! そりゃあオレたちも練習しなきゃな!! オイ、皆で外行こうぜ!! やってやろうじゃねーの練習ってやつをよ!」

「汚らわしい・・・摩耶様の御前でそのような口を利くなど、万死に値しますわ」


少女の発言を茶化すような声が控室の外から聞こえてきたが、どうやらそれが気に入らなかったらしく、その横からさらに辛辣な声が飛ぶ。


「まあまあ、榊原さんも遅れたくて遅れたわけじゃないし・・・むしろギリギリまで練習をしていたなんて素晴らしい心掛けじゃないか! 僕らが力を合わせれば最高の舞台になるはずさ!」


若干不穏な空気になってきた舞台裏の空気を察した少年は、慌てて仲介するように大きな声を上げる。

だが、先ほどの声の主はどうにも少年が気に入らないらしい。


「ケッ、皇帝様はこれだから困るっての。どのみちその女は遅刻したんだぜ!少しは平等に裁けって。真面な皇帝になりたきゃ、少しその偽善面をどうにかして・・・」

「貴様、雅樹様まで愚弄するか!!」


途端に、ドシンバタンとやかましい破壊音と共に、周りから諫めるような声が飛び交い始めた。少年の仲介も全く意味を成さなかったらしい。

むしろ、突如発生した喧嘩に興醒めしたとでも言うように少女が座っていた椅子から立ち上がる。それを見た少年も同様に椅子から立ち上がった。

すると、ここで少女があることを少年に尋ねる。


「そういえば・・・私たちのクラスに『ハジマ』っていう人はいたかしら」

「ハジマ? 知らないなあ・・・君の知り合いかい?」

「いえ違うけど・・・少し気になっただけよ」

「今年は完全な成績順じゃなくて、極力実力が均等になるように振り分けられているらしいからね。もしかしたら別のクラスになってるかもよ。でも、君が誰かを気にするなんて珍しいなあ」


「オッ! かの有名な舞姫も色気付いてきたかよ! これはスクープだな!!」

「黙れゴミが!! 摩耶様、心配には及びません!! 必ずやこの愚か者は私が責任をもって病院に送らせていただきます!!」


舞台裏の騒ぎもそろそろ看過出来ない激しさになってきたようだ。少女は手に拳骨を作ると、ツカツカと舞台裏に向かう。そして暫くすると、ゴン!という音と共に痛みに呻くような声が二人分聞こえてきた。


「時間よ。私たちの力を見せつけるにはちょうどいいわ・・・一人いないけど」

「仁王子はいない・・・・来るわけない・・・・」


一人人数が足りないことに気づいた少女の言葉に反応したのは、舞台裏の隅っこで縮こまるように体育座りをしている少女だ。ようやく聞き取れるくらいの小声に、ただでさえ小さい体をさらに縮めているその様子は、小動物のような印象を感じさせる。


「アイツは何かを壊すことしかしか興味ない・・・むしろ来なくて正解・・・・」

「ま、まあいいじゃないか。もうステージに出る時間だしね」


少女の言葉を遮ったのは少年の声だ。ただでさえ面倒くさい状況なのをこれ以上ややこしくされたくないと考えたのかもしれない。

講堂の舞台からはパフォーマンス開始を知らせるコールと共に、大きな歓声が聞こえてくる。時間が来たようだ。

少年も、近くに置いてあったマイクを手に取ると舞台裏に向かう。先ほどまでの大騒ぎがウソのように、舞台裏では少年以外の8人が綺麗に整列していた。二名ほど武力行使をされたようだが、若干頭を擦ってはいるものの落ち付いているようだ。


「行こう。これからは僕たちの時代だ」


そして、舞台に9人が上がる。

その先頭にいるのは、魅力的なオーラを放つ少年。その横にはこちらも負けず劣らずのオーラを放つ美しい少女だ。


少年の名前は光城こうじょう雅樹まさき

天才揃いの山宮学園126回生の中でも最高の実力を誇り、『皇帝』の異名を持つ。現18歳以下の異能戦闘力ランキングでは堂々の一位であり、複数による討伐ではあるが、B級BHを撃破したことで第5級朱雀賞の実績も持つ、次世代のスター候補筆頭だ。


さらにその横にいる少女の名前は榊原さかきばら摩耶まや

日本有数の名家榊原家の長女であり、その芸術的な戦闘スタイルから『舞姫』の異名を持つ。同ランキングでは4位に位置し、同年代では雅樹に次いで二番目の実力者だ。サポート系能力では右に出るものはなく、視覚に関する異能に関してはB級BHにも通用するとの評価を得ているこちらも文句なしの鬼才である。


異能に出会ったその瞬間から常にトップを走り続けてきたこの二人だが、彼らはまだ知る由もない。

無名のとある一人の少年が、二人の運命を大きく変えることを・・・

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