第5話
先生には彼女がいて、私のことは子供だとしか思っていないと分かっていても。
先生を好きな気持ちは変わらず、今まで通り生物準備室に通い続けた。
「先生」
「んー?あ、野田さんやん。」
「今日はどしたん?」なんて言いながら、隣の理科室から丸椅子を引っ張ってきてくれる。
「今日もオールバックからかわれてましたね。」
「もお、めちゃくちゃ言われたわ。『背え低いのにそんなん似合わん』とか言うねんで。」
酷いでほんま、と口を尖らせる先生がかわいらしくて思わずふふっと笑ってしまった。
「あ、野田さんも似合えへんて思てんねやろ!」
そんなわけない。
めちゃくちゃかっこいいよ、先生。
「私好きですよ、その髪型。かっこいいです。」
すごくいいと思ってる、そう伝えたくて素直に漏れたストレートな言葉。
その言葉を聞いた先生が私を見つめたまま、ピタリと止まった。
ほんの何秒か、のはずなのに。
私にはそれがとてつもなく長く感じた。
目を逸らすことが出来ない。
ズレた眼鏡の奥にある綺麗な目に見つめられたままでいると、先生はふふっと優しく笑った。
「ほんま全然めげへんなあ· · ·野田さん。」
「ほら、早よ教室戻り?授業始まんで?」
ぽんと私の頭に手を乗せ、くしゃっと髪に触れられる。
一瞬何が起こったのかわからなくて、動けなかった。
バクバクと物凄いスピードで心臓が動いて、呼吸することさえ忘れていた。
春先生が、私に触れた?
今までには無かった展開に頭が混乱する。
「ほら、はよ行かな」
先生に急かされて、フラフラと立ち上がると、入り口へ向かう。
「し、失礼しました· · ·」
「はいはい〜」
準備室から出る時、ちらっと先生の方をみるといつも通りで。
ふんわり笑って手を振ってくれた。
あれから、先生の態度は少し変わった。
話も前より聞いてくれるようになったような気がするし、自分のことも少し話してくれるようになった。
授業前の少しの時間、休み時間に、少しでもふたりきりで話せることがすごく嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます