エンジョイデイ

12/20  ホイアン→フエ 


 早朝に目が覚める。時計を見るとまだ六時だ。なぜか体が軽いので、外に出かけることにする。念のため、荷物をすぐにまとめられるよう、片付けてから出かける。


 うすぐらい空は、曇っているが雨は降っていない。チャンス! いつ雨が降り始めるかわからない、今のうちに行動しなきゃ。ホテルから2、3分歩くと、おばちゃんに声をかけられ、チャリを借りる。今まで借りてきたチャリの中でトップクラスのぼろさだ。


 昔の日本人が作ったという橋がある通りに向かうが、なかなかたどり着かない。ホテルを出る前に一服入れたので記憶がとんでしまい、道があっているのかもわからない。


 しばらく走っていると川にたどり着く。ここは違う! 道を間違えた。川沿いとは反対方向に向かって走る。静かな流れの綺麗な川で、朝もやが神秘的な雰囲気だ。川岸の途中でチャリをとめ、残りのジョイントを吸いきる。うーん、きもちいい! 川を見ながら一服入れていると、早起きは気持ちいいなとしみじみ感じる。


 「道はあっているのか?」と、気にしながら先に進むと、周りの景色がこじんまりとしてくる。中華様式の混じった独特な家が立ち並んでいる。岐阜県の郡上に似た雰囲気だ。写真を撮りながらさらに進むと、小さな橋にたどり着く。これが日本人橋か! 一目見ただけで“和”のつくりを感じる。とても小さい橋で寺の臭いがする、ベトナムっぽくない。


 橋をわたりチャリをこいで町並みを見学する。朝早いのでどの店も閉まっている。静かな町並みは美しい。市場にたどり着き、チャリを停めてはいかいする。食材の種類と量には驚かされる。「一体、どうやって運んできて、どうやって陳列するんだ?」ささいな疑問がたくさん浮かんでくる。


 フランスパンを食べながら道を歩いていると、本屋をみつける。品揃えはまあまあだ。ゲバラの本を探す。


 三軒目の本屋をチェックしていると、入り口近くの本棚の上段に、「モーターサイクルダイアリーズ」アルファベットで“Che Guevara”と書かれた表紙には、若い頃のゲバラの写真が。みつけた! やったー! 探しはじめてから約5日、予想よりも早いゲバラ本の発見だ。それも、すこし前に映画化されたばかりの南米旅行の本だ。ちょうど良い本が見つかったと感動にひたる。2ドルでゲバラ本を買う。言語はもちろん英語だ。


 帰りにCDを衝動買いし、部屋に戻ると二人とも起きている、けど眠そうだ。先に荷物をかついでチェックアウトする。近くのネットカフェで時間をつぶして、借りていたチャリを返す。最近ヤフーメールの具合が悪く、なかなかペグメールをチェックできない。ペグメールを見ないと、なんかしっくりこない。


 昼になり、ホテルに戻ると、レセプションの前のテーブルにはあっちゃんとみかちゃん、そして見たことのない男の日本人がいる。30歳ぐらいだろうか、イチローに似ている。みんなでメシを食べに行くらしく、ついていくことにする。


 食事後、再びホテルに戻る。フエ行きのバスが来るまで、けんちゃんという名の日本人と話す。約二年の旅の計画で、世界中の国を見てまわるらしい。三国志とキューバの話で盛り上がる。


 バスが到着し、けんちゃんとお別れする。別れ際にいくらの予算か聞くと、三本指を立てる。かっこいいな! あっちゃんとみかちゃんと一緒にバスに乗り、出発する。


 途中の休けい場所で、英語の達者な、オーストラリア帰りの日本人二人組みと知り合う。同じホテルに泊まっていた人達だ。どことなく、さなさんに似た雰囲気で、いかにもオーストラリア帰りといった印象を感じられる。


 夜の八時ぐらいにフエに到着する。近くのホテルの部屋を三人でシェアする。再び相部屋だ。日本人宿なのか、大勢の日本人がいる。大麻が欲しかったので街を散歩しながらプッシャーを探す。


 フエはけっこう栄えている。たくさんの店があり、どこもクリスマスムードだ。旅行代理店をまわり、道端にいるバイタクやシクローにたずねる。一人のシクローが売ってくれるらしく、2ドルをくれれば20分後に持ってきてくれると言い、あまりの欲しさに2ドルわたす。


 ぶらっとしてから先ほどの場所に戻るが、シクローはいない。他のシクローと話しをして、待っていると急に気がつく。「やられた!」だまされた! 2ドルもらったら、そのまま逃げる方が得だ。2ドルはシクローにとったら大金だ。あまりの欲しさに気がつかなかった。


 それでも、「もしかしたら」と待っていると、ひとりのシクローが話しかけてくる。ただでシクローに乗せてくれるらしい。すこし不安だけど、勢いにまかせ、乗せてもらうことにする。


 霧雨の降るなか、陽気なバンというおっちゃんと街中を見学する。本当に良くしゃべる男で、リアクションがやけにおおきい。ほとんど言葉は通じないが、お互いが一方的に話すのでまるで問題なし。たずねた建物や聞いていない建物もすべて説明してくれる。2000ドンのコーヒーだけで、お金はいらないと何度も同じことを話す。


 うすぐらいコーヒー屋で休憩する。店のおばちゃんと話す。どこもクリスマスソングが流れている。のんびりしたいところだけどすぐに店をでる。


 その後も街をまわり、だまされた現場に到着する。もしかしたらいるかもと、かすかに期待していたが、もちろんいない。ホテルまでバンが見送りをしてくれて、お別れする。だまされた2ドルのおかげで素敵な時間をすごせた。明るくて人当たりの良い男で、「アーユーハッピー?」という言葉がとても印象にのこる。クリスマスは楽しく過ごせそうだ。


 部屋に戻るとみかちゃんはベッドに寝ている。すっかりダウンしている。体調が悪いらしく、見るからにつらそうだ。レセプションで明日のDMZツアーに申し込んでいると、大勢の日本人とヤギ鍋を食べに行ったあっちゃんが戻ってくる。一人の男の人がチラムを見せてくれるらしく、あっちゃんと一緒にうしお君という名の日本人の男の部屋に行く。


 中国→チベット→ネパールと進み、パキスタンでおりかえしてきたらしい。五ヶ月旅をしていて、ノートパソコンにアイポッドを持ち、多少、まささんのようなところがある。パキスタンの話はとても興味深く、より一層中東への思いが強くなる。


 チラムを三人でまわし、パソコンの中にあるファミコンをやったり、しゃべったりする。何十年かぶりに“バンゲリングベイ”をおめにかかった。二度と見ることはないと思っていた。夜遅くなり一度解散する。


 このホテルも無料でパソコンを使える。しかし、メールチェックするがやはりページがひらかない。うーん、部屋に戻り、中途半端にシャワーを浴びる。


 眠気がふっとんでしまったので、うしおくんとあっちゃんを呼び、あっちゃんにわけてもらったジョイントを吸う。けっこう量があったのでガツンときまる。あっちゃんはダウンして部屋に戻り、うしお君と二人で、薄暗い廊下でくだらない会話をする。よくしゃべる男の子なのでついついたくさんしゃべってしまう。


 気がつくと夜中の二時、すっかり遅くなってしまったので部屋に戻る。どうも眠くない、けど、今寝たら明日のツアーの集合時間に起きれなさそうなので本を読む。10分ぐらいしたら眠くなり、やっぱり寝ることにする。


 人とふれあってばかりでとても充実した一日だ。ぶりがきれたからかな、あっちゃんとみかちゃんとも仲良くなれた気がする。自然と人と一緒にいれたので、コミュニケーション不足を少しは解消できたみたいだ。


 人と一緒にいると元気がわいてきて、他人に対して社交的になる。ひとりでこれだけのテンションを出せといわれてもむずかしい。いずれはならないといけないが、人といると楽しいな。はやくペグちゃんに会いたくなってしまう

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