爆竹の町

11/2  inノーンカイ 


 三度目の長距離バスの移動はひじょうに快適だ。慣れたのもあり、時間があっという間に過ぎる。途中の休憩場所で串焼きを買い、近くのベンチに座り一人で食べていると、一人の日本人女性と目があう。


 あやこさんという人で年齢は自分といっしょだ。しゃべりかけられる時、日本語をうまく話せていない。大丈夫かな。


 少し変わった女の子と楽しくお話をする。レオの缶ビールを二人で飲み、旅行話を聞く。25カ国ぐらいまわっているとのこと。それも、日本にはほとんど帰っておらず、シンガポールで働いたり、外見とは裏腹にとっても行動的だ。ニュージーランドにワーホリ(ワーキングホリデー)で一年間いたらしく、海外のことを色々と知っている。それなのに見た目は弱そうで、みていて心配になる。人は見かけじゃないな。


 これからタイで働きたいらしく、ラオスには60日間のビザを取りに行くらしい。その後は、タイの学校に通う予定だそうだ。そういえば、さなさんの相方のなおきも、アパートを見つけてタイの学校に通うと言っていた。みんなすごいなと感心してしまう。二人ともワーホリで海外にきたので、そこのとこも関係があるのかもしれない。「自分は二人と同じことができるか?」と考えると、別にしたくない。ただ、それだけだ。


 ワーホリでフランスへ行ける話を聞き、日本に帰ってからの行動に幅がひろがる。働いてからペグちゃんと海外へ行こう。どこで? どのくらい? 何をしてから、どこの国へ行って? なにをするか? 日本に帰るころにはほぼ決まっているだろう。海外にいる人の話は、日本にいる人たちの話に比べて刺激になる。


 会話をしていると出発の時間になる。バスに乗り、考えごとをしていると寝てしまう。


 途中、バスは急に停まり、エンジンがかからなくなる。眠っていたのでほとんど気にならなかったが、1~2時間して再び発進する。


 朝方にノーンカイに到着する。降りる人間は自分だけなので少しさびしさを感じる。変な女の子、あやちゃんとお別れして、町まで歩いていく。バスを降りた後はみょうに歩きたくなるのはなぜだろう。


 30分ぐらいして市街地に着く。宿を探し、一泊100Bでまあまあの宿に決める。いつもどおり町を散歩する。歩いていて疑問に思ったけど、店の人達はどうやって生活しているのかと不思議になる。けど、日本の田舎町と比べると不思議じゃなくなる。


 歩いていると、前からパレードがやってくる。昔の中国人っぽい服装をした少年や青年、少女が太鼓のけたたましい音ともに歩いてくる。最初は「しょぼいな」と思っていたが、木の棒を両手に持ち、太鼓のリズムに合わせて踊る青年たちはりりしく、顔の化粧と衣装がよく似合っている。特に“猪八戒”の服装のおでぶの青年は笑えるぐらい似合っている。格好よくきめているのに、靴はスニーカーというのが、なんともいえないあどけなさを感じる。


 ネットカフェでメールチェックをしてから、急いで宿に戻る。巻いてあるジョイントで一服入れ、ぶりぶり(大麻でくらくらの状態)になってから外に出る。海外にいるだけで充分にとばされる。


 そんな状態でパレードを追いかけると、さっきとは違った大迫力にさらにとばされる。なにがすごいって、人の数に圧倒される。全員合わせて500人以上はいそうだ。列は一キロ以上つづいてそうで、6部隊ぐらいにわかれている。各部隊が個性ある古い中国の服装を身にまとい、化粧をほどこし、それぞれ楽器を鳴らし、踊りを舞いながら民家に出入りする。そして派手な踊りを繰り返す。その時に、事前の交渉で了解を得ている民家の前に用意されている、二メートルはある大量のぶら下がった爆竹に火をつける。「爆竹の量がいかれている!」くるったように爆竹ははじけとぶ。近くにいると鼓膜がやぶれそうになる。ぶりった状態でこの刺激は最高にたまらない。なんて楽しいパレードなのだ!


 しつこくパレードについていき、各部隊を一通り見てからGHに戻る。青年達の太鼓に合わせた踊りが一番迫力があって格好がよい。青年たちが爆竹の被害でやけどしているところに根性を感じる。しかし、だらだら歩く男達も大勢いて、それらの姿がより一層味を出している。


 昼寝をして夜に起きる。特にやることもないので、外をぶらぶらと歩いていると、まだパレードが続いている。近くにある広い寺院がお祭りになっていて、たくさんの屋台がでている。ちいさな観覧車があったりとてもにぎやかだ。日本と同じような射的の店もある。


 食べ歩きをしてからGHにもどり、一服してのんびりしているとそのまま眠ってしまう。


 お金のかかっていないパレードだけれど、凝っていて最高に楽しいパレードだった。日本でみる“ディズニーランド”のパレードはとても美しいけど、あれはプロの仕事だ。素人の幼稚園ぐらいの子供から高校生ぐらいの青年達の圧倒的な数に、やる気のある子とない子、中途半端な化粧に見えるけど意外にきれいに統一された身なり、だけど、足元はスニーカーを履いている。統一されているようで、されていないところがなんともいえない良さを感じる。


 けど、いちばん惹かれるのはとんでもないバクチクの量と、あきらかに害のある爆発音だ。そんな爆竹にひるまずに果敢に踊る子供達は、ディズニーのパレードにはない陽気さと気合がある。名古屋万博で見たしょぼいパレードとは比較にならない。


 それにしてもあのバクチクの量は狂っている。

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