サヨナラパンガンライフ

10/21  パンガン→バンコク 


 午前中に目が覚める。外に出ると大雨が降っていて、昨日同様に今日も何もできなさそうだ。考えていた島の写真を撮りに行くこともできず、移動することは考えずに部屋でくつろいでいると、「コンコン」とドアをノックする音がする。扉を開けると、二つ隣の部屋に泊まっているミッキーさんが立っている。今日、タオ島へ行くので、あいさつに来たらしい。こんな雨でも出発するの? すごい! 短い間だったけど、のほほんとした素朴なミッキーさんが、この島で会った人のなかで一番好きだ。ミッキーさんと静かにお別れする。


 部屋に入ると急にあせってくる。一日中雨で、明日も雨だったら、、、

バンコクに戻る決心をする。一服入れて、大急ぎで荷造りして、出発の準備を整える。近くの雑貨屋でビニール素材の安っぽいカッパを手に入れ、いざ出発! 船の出発予定時刻はとっくに過ぎている。けど大丈夫、何とかなるはず!

 

 バス停がわりの空き地に着くと、ちょうどよく港行きの車にそうぐうし、乗せてもらう。


 港に到着してタクシーの料金を払おうとすると、なんと100B! またやられた! 来るときは15Bだったのに、、、 乗る前に交渉しなかったのでしかたなく支払う。


 島は雨期にはいったのだろうか、降りしきる雨の中、一時間ぐらい港で待つ。その間、パーティーで会った日本人たちと話しをする。一人の男の人は宿に荷物を置いていたら、パーティーの朝、部屋へ戻ると窓ガラスが割られていて、バッグが消えていたらしい。黒いビニール袋で少ない荷物を持つ姿は悲惨だ。かわいそうだけど笑ってしまう。運が悪いとしか言いようがない。


 到着したボートに乗り、船首へ移動し、ボートは発進する。雨が降っているのでボートの甲板にはほとんど人がいない。いやー、誰もいないので気持ち良い! なんて考えていたら、しだいに雨は止み、欧米人が大量に外に出てくる。タバコが吸いたくてしかたがないらしい。が、また雨が降り始める。今度は先ほどよりも強いので船内に入ることにする。


 人、人、人! 人が多すぎる! 身動き取れないほどの満員の船内だ。長袖のT-シャツは雨で濡れていて、エアコンのかぜをまともにうけて冷える。


 ボートが楽しいのは最初の一時間だけ。四時間ほど狭い船内で我慢し、行きと同じ船着場へ到着する。雨に濡れて無造作に汚れたグレゴリ-のリュックを探し出し、用意されたバスに乗り、帰りのチケットを買った小さな事務所へ移動する。


 「あとはバスでのんびりとバンコクへ向かうだけだ」と、事務所の隣のレストランでカップラーメンをすすりながらのんきにしていると、突然、チケットを売ってくれたおっちゃんに事務所の中へ呼ばれる。おっちゃんはバスがないと教えてくれる。帰りのバスがないだと! うさん臭いオープンチケットに感謝しようとしていた矢先にこれだ。どうやら列車で帰らなきゃいけないらしい。まあ、戻れるからいいとしよう。


 ライトエースのようなワゴン車の助手席にすわり、駅へ向かう。隣のタイ人男性の運転を眺める。ぼろぼろのオーディオからは、英語で“ヤングマン”が音の悪いスピーカーからながれていて、日本にいるような錯覚におちいるが、隣をみると現実に引き戻してくれる。


 駅に到着すると、ドライバーのタイ人から列車のチケットを渡される。値段を見ると180B。安い!ぼったくられている。誠意を感じない。まあ、いいとして、初めての列車だ。楽しみだ!


 古びた貨物列車のような列車が到着し、なかに乗り込むと人であふれかえっている。船も人だらけ、列車も人だらけだ。居場所が見つからないので、車両の連結部分に腰をおろし、日本から持ってきた“カーネギーの本”を読むがまわりがうるさい。16~18歳ぐらいの若いタイ人の男達が酒を飲んで騒いでいる。「よくやるなー」と感心してみていると、目が合い、ウィスキーを渡される。


 結局、そのタイ人達と一時間ぐらい一緒に飲む。言葉が通じなくても笑ってごまかす。さすがに速いペースで飲みすぎたせいで、酔いがまわり寝てしまう。


 途中、タイ人の青年軍団が降り、座るスペースができたので移動して寝る。


 夜中の二時ぐらいに一度目が覚める。まわりを見渡すと、「ひどい!」ほとんどの人が眠っているけど、新聞を床にひいている人がいれば、なにもひかずにうずくまっている人もいる。日本じゃ考えられないくらい大胆だ。すこし寝してしまったので目がさえて眠くない。しかたなくひたすら妄想にふけ、普段じゃ思い出さないような過去のことを思い出す。


 気がついたら四時、時間が経つのが遅い。「早く着かないかな」と、少しイライラしながら妄想を続けていると、いつの間に寝てしまう。


 ハードな列車の移動だ。

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