シリアスパート2
第10話 タリアの慟哭 1/4
ここからはタリアサイドのシリアスパートです。話が進むごとにタリアに不幸が起こります。
ひどい目に遭うタリアを見たくないという方が居れば、25日にダイジェストを掲載しますので、そちらを読んで下さい。
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わたしの名はタリア・フォーチャーです。フォーチャー家の2なん1じょ?のすえのいもうとです。ことし3才になりました。きょうわたしはおかあさまといっしょにトレーター家にきてます。おかあさまとてぃあさまは、がくえん?のせんぱいこうはいで、なかがいいみたいです。そして、ここにはかわいい女の子がいます!おなまえはカトリーナちゃんです。このまえはじめて「たーねー」っていわれました。ほんとにかわいいこです!ずっとギュっとしていたいです!
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私の名はタリア・フォーチャーと申します。今年8歳になりました。今日もトレーター家に来ています。何故ならリーナと一緒に勉強するためにですわ。この子は本当に凄い優秀な子なのです!この年ですでに魔力を体外に出せるのですわ!私?それはまぁ…話を戻しますが、彼女は勉学も優秀です。そしてその日の勉強の成果が良ければティア様が絵物語を読んで下さいます。
この時ばかりはリーナも年相応にものすごく嬉しそうにしています。普段は7歳にしては、少しクールすぎてお姉さんは心配ですが、こういうキラキラした顔を見るとそのギャップでより一層魅力的に見えるものですわ!私が殿方なら絶対嫁にしてます!
ただ、本の中身が「聖剣の英雄」や「ダンタリアン物語」など、少々女の子向けではないものが好みのようですわ…もしリーナが殿方なら、何が何でも私が正妻の座に着きますのに!数代前の大叔母様のように!
私は殿方向けの英雄譚よりも「人魚の美姫」や「クリスとリアン」のような恋愛ものが好きですわ。
「人魚の美姫」は人魚の姫が人間の王子に恋をする物語です。しかし、王子に惚れていたのは彼女だけではなく、幼馴染の令嬢も王子への恋心を募らせていました。そこで姫は何とか王子を射止めようとしたのですが、王子や令嬢と接するうちに、王子は令嬢に心惹かれていることを悟ります。そして、令嬢も素晴らしい人格者であり、徐々に彼らの恋敵から応援者になっていき、最後は二人を祝福して、自分も彼らのように本当の恋を見つけてみせる。という結末です。
「クリスとリアン」は平民ですが優秀な魔法使いのクリスと、貴族の令嬢のリアンとの悲恋を扱った物語です。二人は出会ったときから深く愛し合っていたのですが、周りの人間は身分差を理由に二人の仲を切り裂こうとします。そんな身分差に悩んでいる時に、クリスの前に可愛らしい精霊が現れます。彼はその精霊に現在の悩みを相談しました。すると精霊が、
「なんでそんなことを悩むの?君たちの気持ちが一番だよ!周りが邪魔するならここから逃げればいいじゃん!アタシにも恋人がいたけど…人間と一緒になれないって…今でも一緒に逃げればよかったって後悔してるんだよ…」
なんと彼女も種族を超えた愛を育んでいたのですが、周りは彼女達を許しませんでした。そして二人は引き裂かれ、何百年も経ったいまではもう彼は生きていない、2度と会うことは出来ないと彼に自らの過ちを告げ、自分の気持ちに従えと助言を与えました。
そして二人は、駆け落ちするのですが、行く先々でモンスターの反乱や、大規模な戦争などが起き、その度にクリスは奮闘します。が、魔法使いであるクリスを周りの人間は徐々に化け物扱いし、次第に人里には近寄れなくなります。
そして、ある時不幸にもリアンが病に倒れます。街に居れば、薬などが手に入り治る病気ですが、人のいない森の奥で、薬は手に入りません。そして徐々に悪くなってしまう病状にクリスはとうとう街に行く決意をします。当然リアンは反対しますが、彼女の命には代えられないとクリスは彼女を背負って街までいきます。街に着いた時にはもう喋ることも難しいほどリアンは衰弱していましたが、何とか薬を手に入れ、リアンは回復していきます。
しかし、その間に情報を手にいれたリアンの父が兵を出し、クリスとリアンの元に辿り着きます。そして、クリスはリアンの治療を条件に大人しく捕まり、貴族令嬢誘拐の罪で死罪にされました。意識が回復したリアンはひどく悲しみ、彼の後を追うつもりでしたが、彼の子を既に身籠っていました。さすがに自分の孫を手にかけるのは気が引けたのか、リアンの父はその孫のために生きろと彼女を諭し、彼女は息子を育てます。そして時が流れ今際の際にクリスが迎えに来て、彼女はやっと笑顔になれたという物語です。
このような悲恋の物語はいいようのない感動を私にもたらします。いつか私とリーナは他家に嫁ぎ、今のような関係ではいられなくなるでしょう。もしかすると無意識に私自身を物語の彼女たちと重ねているのかもしれませんわね。でも、リーナが笑顔でいられるなら、私はなんとしても彼女を守って見せます!絶対いい婿を探してあげますわ!
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お久しぶりですわ!タリア・フォーチャーです。ただいま私は屋敷を抜け出し、愛しいリーナの元へ向かっています。一人での習い事がつまらないので、ついつい脱出してしまいましたわ、テヘッ♡
最近はもっと女性らしくしろとお父様やお兄様型が口を酸っぱくして言いますが、私の何処が女性らしくないというのですか?!この肌のハリ、髪の艶、引き締まっていますが女性らしい丸みを帯びたこのボディ!何処をどう見ても女性らしいと言うほかありませんよ!一部引き締まっていますがこれはスレンダーと呼ぶのです!無い訳では無いのです!
ゴホンッ、失礼、当初は屋敷をあまり抜けられなかったのですが、今は習得した魔術と、気配を薄くする技を身に着け、脱出率は8割を超えますの、ただお父様やカリムお兄様が最近かなりマジになっt、失礼、最近私にその道の専門の技術者を付けようとしています。ただ、私も負けていられませんので日々精進し、今では専門家と同等の隠密術を身に着けている自信がありますわ!
私だってわかっています。立場上護衛を付けなければいけないのは、しかし今はリーナと1秒でも長く傍に居たいのですわ!幸いお爺様がすでに街中に衛兵の派出所を設け、衛兵たちが頻繁に行き交うようになりました。おかげで路地裏でも治安がいい街と言われております。そして、暗黙の了解として、屋敷を抜けた後は大通りを通り、衛兵に姿を見せています。私は堂々とトレーター家へ向かいます。
道中は街人と話し情報収集にも余念がありません。きちんと領主一族として、領民の声を聴くことは重要な務めです。ですので、決して習い事をさぼってばかりという訳では無いので、帰ってもあまり怒らないでくださいねお父様、お兄様方、特にお父様とカリムお兄様は最近お仕事が忙しいようでよく胃のあたりを抑えていますからね、お体は大事になさってください。
それはそうと、来月はリーナたちと共に王都で開かれるパーティーに参加することになりました。去年は私と、ジープ子爵家と共に初参加となりました。ジープ子爵家には私と同い年のシリウスが居ますが、私は彼に対して嫌悪感がありあまり会話をしません。
彼は、数年前にたまたま私の家に来ていたリーナに対し、爵位が低いという理由で見下し、いかに自分が優れているかというアピールを私にしていました。高々子爵家の嫡男という理由だけで何故努力家のリーナを貶してまで私にアピールするのか理解できませんでしたわ。私を狙っているのかしら?まぁ、億が一にもないですが、あなたの妻とならねばならないのなら、舌を噛み切ってでも拒否します!
まあリーナは彼を完璧に無視していました。というか視界にも入れていなかった気がします。もしかすると声も聴いてなかったかもしれません。それくらい本に夢中でしたから。
また話が逸れました。王都には私の友人が居ます。ルーティラ侯爵家のメリナとラプス侯爵家のマリアスです。彼らは同じ侯爵家ということで、王都で何度も会う機会がありました。その時に仲良くなった幼馴染という訳です。年に数回しか会えませんが、楽しみです。
王都に早速着きました。私とリーナは王都にあるフォーチャー家の屋敷に来ています。そして今はメリナが遊びに来ていますわ。彼女とリーナは初対面ですので、紹介を終えた後、皆でお茶会を開いています。メリナはお姉さんということで彼女もリーナを可愛がっています。分かりますわ!リーナは可愛いですもの。
「そういえば最近庶民の間で都市伝説というものが流行っているようですわ。」
「メリナ様、都市伝説ってなんですか?」
「奇妙な体験をした人たちの噂ですわ。最近流行っているのは、「口裂け女」や「オレオレ男」、「猫の集会所」です。」
「メリナ、それってどんな噂ですの?」
「そうですね…
「口裂け女」は頬を切り裂かれた女性と会うと、追ってくるという怖い噂ですわ。最近追いかけられたという方たちが何名も立て続けに現れています。もし追いつかれると刃物で切り裂かれるそうです。
物騒な女性が居たものですね。もし私が追いかけられたらどちらが早いでしょうか?これでも護身術の手ほどきは受けておりますので、一般の兵士並みの実力はあると自負していますわ!
「オレオレ男」は若い方を中心とした噂ですが、時間帯を問わず耳元で、「俺だ!俺だよ!」という声が聞こえるというものです。
何ともはた迷惑な…しかし、自己主張の強い殿方?ですね。
「猫の集会所」は夜な夜な猫たちが集まって人の言葉を離しているという噂です。どうやら猫のサロンのようですが、王都では見たこともない広い空間であり、不思議な植物が多く、猫たちがそれに群がりながら会話しているというものです。
何とも可愛らしですわ、想像しただけでほんわかします。しかしなぜ人間の言葉を?
「いろいろな噂があるのですね、他にも何かありますの?」
「そうですね…あとは「徘徊する異形(ジェントルマン)」は今巷を騒がせていますね。」
「メリナ様、それはどのようなものですか?」
「なんでも、仮面と獣耳の付いたカチューシャを付けた半裸にティーバックの男が笑いながら街を走り回っているらしいです。」
「ただの変態じゃありませんか?!さっさと衛兵たちに捕まえて頂きたいですわね!」
さすが王都、世にも奇妙なことが沢山ありますわ。
「そういえば貴方はパーティーに参加できますの?」
メリナは少し体が弱いらしく、よく貧血を起こします。去年のパーティーはみんなで初参加できるとワクワクしていましたが、前日に彼女の体調が思わしくなく、急遽参加を取りやめになり、知り合いは居れど、仲のいい友人がマリアスのみという退屈なものでした。
「ええ、最近は体調が良いので、今年こそ参加します。」
「ようやく彼と踊れるのですね。頑張ってくださいね!」
「~~~っ///」
そう、メリナはマリアスに惚れているのですわ!彼はあまりメリナを意識していないようですが、このパーティーで彼との距離を縮めて恋仲になるよう私も協力を惜しみません!
「メリナ様はそのマリアス様が大好きなんですか?」
「!?!?」
あぁ、いけませんリーナ。引っ込み思案な彼女にそんなハッキリと言ってしまっては!メリナがものすごく挙動不審な動きをしています!
「マリアス様の何処が良いのですか?最初の出会いはどこですか?何故好きになったのですか?!」
リーナも女の子という訳ですわね、恋愛話に興味津々みたいですごく目を輝かせていますわ!嫁にしたいです!ですがそろそろやめなくてはメリナが貴族令嬢としてあるまじき動きをしています。非常に珍しいのでこのまま見ていたいですが、倒れられても困りますのでそろそろ止めます。
「リーナ、その話は無事にパーティーが終わってからでも聞けます。楽しみはパーティーの後にとっておいて、今から皆でドレスを見繕いませんか?」
「うー、分かりましたお姉さま」
ほっぺを膨らませるリーナも素晴らしいです!本当に何故私は女なのでしょう?男ならリーナを嫁に出来たのに。
「パーティーまであと5日あります。今のうちにドレスを決めて、明日小物を買いに街に出ましょう。」
「はい。」
それから衣装を用意するために業者を呼び、皆でワイワイしながらドレスを決めました。お昼前から行動したはずなのに終わったのはディナーがもうすぐ始まるという時間でした。楽しいとつい時間を忘れてしまいます。明日の買い物の予定を決め、メリナは帰っていきました。
「リーナは私と一緒に寝ましょうね?」
「いいのですかお姉さま?」
「トレーター家は元々この屋敷の離れで宿泊予定です。同じ敷地内ですし、許可さえいただければ問題ないです。」
「うふふふ、お泊りですね!」
リーナも喜んでくれて何よりです。明日までずっと抱きしめていきますわ!
翌日、3人で王立百貨店に移動します。2階建てですが、この王都の中でも広大な建物の一つです。中にはいろいろな店舗が並んでおり、ここに来れば欲しいものが必ず見つかると言われるほどの商品が売られています。今の時期はパーティーが開かれる時期であることと、新年学園祭が行われるため、大変賑わっています。
ルバーネット学院もこの時期に入学試験があり、その後卒業式となります。この学院を卒業すると、ほとんどの学生が働きに出るため、卒業式前にこのような催しが行われます。ですので、今は最も王都が賑わう期間という訳です。
つまり、現在百貨店は非常に混雑しており、
「メリナ!リーナが見当たりませんわ!?」
「ここでは見つけることは容易ではありません!待ち合わせ場所に向かいましょう!」
もしもデパート内ではぐれてしまったら、2階の西広場にて落ち合うことになっています。それに、よく迷子が出るためか、要所に案内所が設けられていることと、多くの警備兵も配置されているため、危険は無いと思います。しかし、リーナが心配でなりません。あの子はたまにポヤっとして、ドジを踏むことがありますから…これならずっと手を握っている方が良かったです。どうか無事でいて…
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こんにちはカトリーナと申します。今日はタリアお姉さまとメリナ様と一緒にデパートというところに来ています。物凄く人が一杯いて酔いそうです。そんな状況で、タリアお姉さまとメリナ様は迷子になってしまいました。タリアお姉さまは少しドジなところがあるのですが、建物に入ってすぐ迷子になるなんてとても心配です。
それとしっかり者のメリナ様も迷子になるなんて…王都ってこんなに人が多いのですね。でも、待ち合わせ場所を決めているのでそこでお姉さま達と落ち合うことが出来るはずです。早速向かいましょう。
人が多すぎてどこに行けばいいのか分からなくなりました。周りが人だらけで全然見えません。2階の広場に早く行かなくちゃ!
ぐすっ…ここどこ…?案内所も警備の人も見つからない…
「お姉さま…ぐすっ」
すると声を掛けてくる方が居ました。
「どうかしたのかい?」
「え?」
そこに居たのはきれいな金髪の1つか2つ上の殿方でした。上品な服を召しているので、貴族の方だと思いますが…なぜ声を掛けて頂いたのでしょう?首をかしげていると、
「君が泣きそうだったから、一人でいたから迷子になったのかなと思ってね。」
「…お姉さま達がはぐれてしまって。待ち合わせの場所に向かっています。」
「うん…そうか…待ち合わせの場所はどこだい?」
「2階の西広場です。でも階段も案内所も警備の人も見つからなくて…」
「だったらこっちに階段があるよ。」
その方は私の前を歩き、時々振り返りながら道案内をしてくれました。そして2階へ行きしばらく歩いて、
「あそこに時計台があるだろう?あそこが西広場だよ。」
「あ、ありがとうございます。」
やっと待ち合わせ場所が分かりました。この方のお陰です。
「気にしなくていいよ。じゃぁ私はもう行かなければいけないから。」
「あの…本当にありがとうございました。」
「それじゃあね。」
その方はウインクして去って行きました。いけない、お名前を聞くことも名乗ることも出来ませんでした。反省しなければ…そして時計台の方に行きます。
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「リーナ!」
西広場でしばらく待つと、リーナがこちらに向かって歩いてきます。
「タリアお姉さまっ!」
リーナが私に抱き着いてきました。もう離しませんわ!
「何故迷子になってしまったんですか?!私探しましたよお姉さま!」
「いえ…迷子になったのはあなたです。」
なぜか理不尽に怒られる私ですが、私を膨れっ面で見上げる、涙目のリーナの可愛さにどうでもよくなりました。思いっきり頬ずりをします。
「お姉さま!離してください。」
「あなたが悪いのです!」
こんなに可愛いから!!
「二人とも落ち着いてください。みんな見てますよ…」
そうメリナに言われ、周りを見てみると皆微笑ましげに私たちを見ていました。このデパートは広いのでよく迷子が出ます。皆今の状況でそれを察しているのでしょう。なんだか恥ずかしくなってきました…
「オホンッ、ではあらためて買い物に行きましょうか。」
初志貫徹、さっさと買い物に行きますよ!
無事買い物を終え、帰路に着きます。買い物が楽しく既に日は落ち始めています。3人で買ったものを見せ合い、ワイワイしていると前方で騒ぎが起こっています。いったい何でしょう?
「追えッ~!そっちに行ったぞ!!」
「フォホッホホホホッ、私を捕まえてみるがいい!」
「今日こそあの変態を逃がすなぁ!気合い入れろお前ら!」
いったい何がありましたの?馬車から私たちは顔を出します。するとそこには猫耳を付けた男が衛兵を連れて街中を走っていました…
「あれは…なんですの?」
全く理解できません。何ですかあの悍ましいものは!するとそこへ女性が出てきます。
「ねぇ…私キレイ?」
そういって顔を覆っていたマフラーを外しました。その女性は唇から頬にかけて大きく裂けていました。
「ほう、マドモアゼル。私と美しさを競おうというのですかな?」
なぜか変態が美しさを競おうとしています。ついてきた衛兵も動揺で立ち止まっています。ヘンタイのことが全く理解できませんわ。女性の圧勝ですわ!
「やっと見つけた!俺だ!俺はここに居るぞ!」
今何か聞こえましたが、周りには私たちと、馬車の周りに野次馬が集まっていて誰が言ったのか分かりません。そして目線を戻すと…
「フハハハ!見てください!私の肉体美を!」
変体が何故か上半身をひねり両腕を上に上げたポーズで女性を見ています。そして女性は、
「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!」
と叫びながらその手に持つナイフを振りかぶり男に襲い掛かります。
「ヌルいですぞマドモアゼル!」
変態は気持ち悪い動きで、その攻撃をよけます。衛兵の皆様!早くその変態を捕まえてください!これ以上リーナに来たないモノを見せないで!
「私キレイキレイキレイキレイキレイイイイイ”イ”イ”イ”ッ!!!」
女性の方もどんどんおかしくなってきています。というか都市伝説ってこんな往来で発生するものなのですか?!もう伝説でも何でもなくただの事件ですわ!
「あれは…「口裂け女」と「徘徊する異形(ジェントルマン)」!まさかこんな所で目にするとは!」
メリナも都市伝説を目にして興奮しています。
「あの男の人の体術…お父様と同等です。」
リーナいけません!あんな汚いものを見ては!
「隊長!あの二人に全く近づけません!」
「ええい、なんて動きだ!全くスキがないぞ!?マルコ、お前は増援を要請してくれ!ミルコ、お前は3班を率いて住民に被害が出ないように誘導するんだ!」
衛兵たちも全く手が出せないようです。
「フハハハハ、それでは諸君、ディナーの時間だ!食べ終わったら歯を磨くんだぞ!フハハハハ!」
そう唐突に変態は発言しました。そして建物の窓や壁を足場にどんどん登っていき、やがて屋根を伝ってこの場を離れて行きました。
「ア”アア”アアアアアア”ア”ア”!!!」
その後を口裂け女が追います。急に辺りは静かになりました。
「隊長…今日もダメでした…俺、もう…やっていく自信がありません…」
「諦めるな!我々が諦めれば…住民に被害が出るかもしれないのだぞ!どんなに無力感に襲われても、この王都を守る兵として心だけは負けるな!」
「隊長…次こそは必ず!」
「あぁ、1,2班は奴らを追え、残りの者は見回りを強化しろ!」
私は衛兵たちの決意を聞きつつ、あの二人と速さを競ったらきっと後れを取りますね…と分析していました。
「王都って賑やかなのですね、メリナ様!」
「リーナ、王都は普段もっと平和なのですよ?ホントですよ?多分…」
王都住まいのメリナはだんだん声が小さくなっていきました。きっといろいろな葛藤を抱えているのでしょう。今のがミトリーで起こったなら、私だってショックを受けます。
「帰りましょうか…今日はゆっくり休みましょう。」
変態と口裂け女の勝負の行方は気になりますが、なんだかドッと疲れました。明日はマリアスの家にメリナと共に招待されているので、今日は休みましょう。
今日はお母様達とラプス家に向かっています。カトリーナはティア様と一緒に街に行っていますので今は居ません。ラプス家に着くとメリナ達もちょうど到着したようです。
「ごきげんようサリナ様、メリア。」
挨拶をして共にラプス家の館に行きます。サリナ様はメリアの母君です。お母様とは学生時代の友人で、ラプス家のドリィ様とのお茶会に参加予定です。私とメリナも参加し、マリアスとも会うのが今日の予定です。
お母様達は、普段の侯爵家夫人としてではなく、友人としてこのお茶会を楽しんでいるようです。私も誰かに嫁いだ後、メリナやリーナとこのような関係でずっと居られればいいなと思いました。昔はマリアスも参加していたのですが、年頃なのか最近は恥ずかしがって参加しません。ですので、メリナと途中で退席して、マリアスと幼馴染だけで集まるのが最近の流れです。
「あら?もうこんなに経ったのね。そろそろ息子の所に行ってあげなければあの子が寂しがってしまいますわ。タリアもメリナもあの子に顔を見せて頂けますか?」
「はい分かりました。」
「では失礼します。行きましょうタリア。」
心なしかメリアの頬が赤いです。さっきからソワソワしていたので会いたかったのでしょうね。お母様たちも気づいていたみたいで、微笑みを浮かべながら送り出します。
「マリアスとも1年ぶりですね。成長しているのかしら?」
「マリアス君は最近ますますかっこよくなってきましたよ!同じ王都に居てもなかなか会えないですが、先月会った時にはもう身長も抜かれていました///」
メリナもよほど浮かれているようですね。年頃の男女ですので婚約者でもない限り、こういう時でもないと会うのは難しいですからね。私たちほどの家格となると、恋愛結婚は少なく7割以上は政略結婚となります。中には生まれる前から許嫁になっている家もあるくらいです。もし、私かメリナが男性ならば、女と生まれた方がマリアスと許嫁になっていたかもしれません。その場合私が男性ならばリーナを娶れますのでみんなハッピーなのですけど…
そんな会話をしながら庭に出ました。ここにも庭を眺めながらお茶会を楽しめる席が用意されています。マリアスは既に持て成しの用意を済ませているようでした。
「やあ、久しぶりだね。元気にしてかいお嬢様方。」
「お久しぶりです。お陰様で、あなたもお元気そうで何よりです。」
「お久しぶりですマリアス君、私も変わりありません。」
しばらく会わなかった間のことを離しつつ、旧交を温めます。メリナも嬉しそうです。しかしマリアスも少し浮かれ気味なのかしら?何かいいことが有ったのかしら?まさかメリナと会えてうれしいのでしょうか?!
「今日は二人に相談があるんだ。」
「何かありましたの?」
相談?メリナのことではありませんの?いったい何なのでしょう…
「実は…昨日デパートに行っていたんだ。」
「まぁ、私たちも昨日行きましたよ。もしかしたらすれ違っていたのかもしれませんね。」
「その時にとある娘に出会ってね。名前を聞き忘れてしまったんだが、その…一目惚れしてしまったんだ。」
私たちは固まってしまいました。
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