第3話 俺は廃課金者(せんし)です。不審者ではありません。
「向こうに行って、状況次第では数年こちらに帰ってこれないかもしれませんが、彼女を助けることが出来たら、召喚した時点まで遡って送還することが出来ますので安心してください。」
そう言って猫耳女は消えていった。俺もそろそろ目が覚めそうだ…
「んんーっ!」
目が覚めたので背伸びをしていると、スマフォにメールが入っていた。差出人は山田だ。【山田 太郎】ありふれていそうでありふれていない名だが、前話冒頭で俺に突っ込んでいた数少ない友人だ。もちろん読者(あなた方)の想像通り作者の後付けだ。
『今日もPGのマルチやらねぇ?』
時間を見てみると、7時30分だ。メールを見ると5時10分だった。2時間経ってるし多分寝落ちしてるだろうが、夢の中のゴブリン山田を思い出してムカムカしてきたので、
『日曜だっていうのにこんな時間に出てきやがって、どんだけ俺に会いたいんだよ!ゴブリンかテメェ!!』
と送ってやった。後悔はしていない、大体こういうやり取りをしているから次はあいつのツッコミのメールが入ると確信している。知らない人にはやりませんよ?気心知れてる仲だからこそ出来るんですからね?昼過ぎには山田に合流し、ファミレスで駄弁りながらゲームをする。ふと、ひいばあちゃんの形見の指輪のことが思い出された。生きてるときに、
「あなたは運が悪いから、お守りにこの指輪をあげる。大切に身に着けておくのよ?」
確かに、この指輪を持っているときには良いことが起こることが多い。マリアたんを当てた時にもこの指輪をしていた。この指輪を持ってこいと言っていたな。そういえば今日と明日はマリアたんグッズの当選結果がわかる日だ。夢で出てきたのもこの暗示だったのかもしれないな。
マリアたんグッズとは、公式で製作された〈新入生巫女マリア〉のリアル学生服と、〈皇国の巫女姫マリア〉の抱き枕のことである。5周年記念で製作されたそれらのグッズはハガキ応募にて抽選で、それぞれ5名に当たる。当選者は商品の発送をもって知らされる。その予定日が今日か明日なのである。帰ったら早速指輪を着けることにするか。
「山田、ということで帰る。」
「ホントいつも唐突だなお前!事故には気を着けて帰れよ。」
たまにこいつは「おかんか!」と思ってしまうが、このように他人に気を配ることのできる奴なのである。自慢のツレだ。
家に帰って早速クローゼットの中にある指輪を探す。するともしも災害が起きた時の用の災害袋も目に入った。なんとなくクローゼットから出す。そして指輪を取り出し、右手中指にはめる。そして俺は玄関の前で座布団を引いて正座をし、呼吸を整え精神を集中する。これは『共世』と呼ばれる呼吸法だ。死んだひいじいちゃんから我が家に伝わる護身術の基本で、自分の中にある気を整え、心を無にすることで、世界と自分の境をなくし、同調させることが出来るようになるらしい。それをもって思い通りの結果に繋げることが出来ると言われる。
「……………………」
何時間経ったのだろう、少し回りが薄暗くなっているので、朝の5時あたりか?正座したままいつの間にか眠っていたようだ。足の感覚が無くなっているな、大学の講義は昼からなので、もう少しこのままいくか。
「……………………」
さらに何時間か経ち、意識が無くなりそうになってきた頃、このアパートの階段から誰か昇ってくる音が聞こえた。時間は10時、足音はこの階を移動している。そして、この部屋の方向に向かっている?
「……………………」
部屋の前で足音は止まり、チャイムが鳴った。俺の部屋に訪ねてくる者はいない、あるとすれば懸賞の配達員くらいしか思いつかない。
「いつもありがとうございます。郵便局です。相沢さんに荷物が2つ届いています。」
まさか本当に当たったのか?俺はしびれた足を無理やり動かし玄関に向かう。
「こんにちは相沢さん、受け取りのサインをいただけますか?」
「はい。」
俺は荷物お受け取り、送り主を確認する。【ピクニックへGO!運営事務局】と2つともなっている。
「まさか…本当に当たったのか?」
2月前を思い出す。公式サイトで、5周年感謝祭ということで出来たこの企画。それもわざわざハガキで応募という前時代的な応募方法で、最初はやり方が古いと思っていたが、1アカウントで1件しか応募できないのではなく、自分の努力次第で当選確率をあげられることに気づいた俺は、ハガキを抱き枕と、学生服に3000枚ずつ出したのだ。あれは地獄だった。4000枚を超えたあたりで、右手が腱鞘炎で動かなくなってしまったので、左手で書くはめになり、慣れない作業に4日間ほどかかってしまった。おかげで両利きになったので結果オーライ?その日はそれ以上は段ボールに触れなかった。
次の日、目が覚めて懸賞が夢でないことを確認する。
「ぃよっしゃあああああ!」
小声で叫ぶというよくわからない位の高いテンションで、自分に舞い降りてきた幸運に身もだえした。ホントに嬉しい時にはなかなか声が出ませんね!決して最近人と喋って無いからじゃないよ!ここ学生マンションだから周りに迷惑掛けられないだけだからねっ!大学であった山田が言うには、朝から常にニヤニヤしっぱなしで気持ち悪かったらしい。でも今は怒らないよ?ゴブリンに何言われてもこの嬉しさの前には記憶に残らないし。
「いやだから、この前からゴブリンって何?!」
そしてその夜、完全に一人の時間、俺は抱き枕と制服を見てはニヤニヤし、触ってはまたニヤニヤするというのを繰り返していた。今夜は満月の夜、しかし俺は夢の内容をすっかり忘れていた。こんな時に限って自分の中の悪魔が囁いてくる。
「この制服着ちゃえよ。マリアちゃんと一緒に新入生気分を味わえるぜ?」
それに待ったお掛ける俺の天使
「いやダメだろ!それすると人間として大切な何かを無くすことになるぞ!」
「確かにそこまでするのはちょっと…」
俺の中の良識も抵抗する。しかし、
「よく考えろ?ここにはお前以外に誰がいる?この服はお前の物だぜ?誰が咎めるんだ?それにマリアちゃんとの繋がりは現実世界ではこの制服しかないんだぜ?自分に正直になって誰に迷惑をかけるんだ?もう一度言うぜ、此処にはお前以外に誰がいる?」
そういいながら悪魔が天使のマウントを取って殴りながら俺に話しかける。
「駄目だ!目を覚ませ俺!」
「うるせぇ!」
天使の意識が無くなってしまった。
「でも…やっぱり…」
それでも俺の良識は揺れながらも抵抗する。しかし、この時知らぬ間に午前を回っていてかなり眠気を感じていた。そんな俺の耳元に、
「お前を見ている者はいない、それにこの制服はお前の物だ。誰にお迷惑をかけないし、誰もお前を責めないよ?さぁ、自分に正直になるんだ。」
そんな優しい言葉に俺は抵抗する気もおきず…
そこから先はあまり覚えてない。しかし、マリアたんの制服に包まれ、抱き枕を抱いていると、とても安心して眠っていられる。そんな夢うつつの間で、
「トーヤさんに呼び掛けていますが応答がありません。どうやら眠っているようですね。」
「彼にはきちんと迎えに行く日を伝えたのだろう?こちらからは見えないが、きちんと指輪も身に着けているようだし、支度もしているようだ。カトリーナに先に伝えて、部屋と服を用意してもらおう。今はとりあえず着ている服と何か袋を抱いているようだし、準備は万端みたいだしね。」
という声が聞こえた気がしたが、そこで俺の意識は深く潜っていった。
「カトリーナには私から連絡しよう。君はトーヤをあちらに送るための時空のトンネルを作ってくれ。」
「分かりました。」
いかに神と言えども、時空を超えることは容易ではない。それが自分ではなく他人を超えさせるのはなおさら難しい、であるからこうなるのは必然であった。もし冬也が、悪魔の誘惑に勝っていれば…眠ってさえいなければ…あんな事にはならなかったであろう。
「さぁ、時間ですよトーヤ、あの娘のことをよろしくお願いしま…キャアアアアッーーー!」
「どうした!ホーリーィィィイイイイ??!」
目の前に女学生の服を着て何もはいてない下半身を抱き枕に打ち付けながら、笑って寝ている男を見ることになった。当然神様もビックリである。
「ああ!時空が乱れている。落ち着けホーリー!」
「駄目です止まらない!このまま止めるとトーヤに何が起こるかわかりません!このままトンネルを通過させます。」
「私も急いでカトリーナに連絡を取る!…駄目だっ!カトリーナも寝ている!」
しかし、いくら神と言えども、やはりこんな精神状態では満足に力を行使できず…
「行ってしまいました…」
「ああ…そうだな…もうなるようになるしか…」
そこには呆然と立ち尽くす2柱の神がいた。
それは突然やってきた。
「キャーーーーーーーーーーー!!!!!」 ドゴッ!
何かがアバラに当たりものすごい衝撃が体を襲った。やべぇ、息が出来ない。全く状況がつかめない中、何人もの人間が近づいてくる音が聞こえる。さらに…
「やっぱり、もう一発殴らせてください♪#」バチーン!
「はうあっ!」
何がやっぱりなのか…尻にも強烈な一撃を受け、俺の意識は暗闇に吸い込まれた。
「お嬢様?!」
早朝に私がお仕えするカトリーナお嬢様の悲鳴が屋敷に響きました。私や、周りにいた衛兵が急いでお嬢様の元に向かいます。ドゴッ!バチーン!そうしている間に、すさまじい衝撃音も耳に届きます。
「リーナ!?」
「早く行くぞっ!」
「旦那様、先行します!」
お嬢様の母君であられるティア様と、この館の主アイギス様、その護衛兼執事長のベルガも合流しました。油断しました。早朝とはいえ、この館にはすでに多くの人間が行きかっています。これを誰にも気づかれずにスリ抜け、お嬢様を襲うとは…、あと数分速くお嬢様のお部屋に行っていれば…お嬢様に万が一のことがあれば、この命をもって償うしかありません。
(お嬢様、どうかご無事で!)
これほど1秒が長く感じたのは初めてです。永遠にも思える時間がすぎ、お嬢様のお部屋が見えます。緊急事態にやむお得ずドアを蹴破り、
「お嬢様無事ですか?!」
即座に部屋を見まわしお嬢様と襲撃者を確認します。すると襲撃者は、ベットの上で下半身を出したまま動きません。私たちはみな瞬時にこの強姦魔を消すことにしました。
「死ね!下郎」
先頭の心得のあるものは瞬時に殺気を漲らせ、強姦魔に突撃しようと
「待ちなさいっ!」
なんとお嬢様が手を広げて強姦魔を庇います。そんな突然の行動に我々は驚き、動きを止めてしまいました。
「マリー、この方が今日訪ねて来られる予定のトーヤ様です。不幸な行き違いがあり、はしたない声を上げてしまいましたが、私の大事なお客様ですので、至急部屋の用意をお願いします。」
お嬢様は顔を俯かせ、肩を震わせながらそう仰られます。何故その男を庇うのか?もしかするとこの男に何か弱みでも握られ、不本意ながらも庇う以外出来ず悲しんでいるのか。もしそうならやはりこの男を生かしてはおけない。ここは命令に背いてでも男を攻撃しようとし、
「部屋が用意できれば、私の許可が有るまで何人たりとも入室を禁止します。」
そういって顔を上げたお嬢様は眼の光が消えた、見る者に寒気をもたらす凄惨な笑みを浮かべていました。私は、態々我々が手を下さずとも、この男が想像もしたくないような目に合うであろうことを本能的に確信しました。
「しかしリーナそ「何か問題でも?お父様?」」
「いや、s「しつこいですわね?お父様?」
今のお嬢様には絶対逆らってはいけない、そこにいる全員がそう思いました。
「リーナが…まるで大物貴族のような威圧感を持つとは…いつの間にこんな成長して…父は嬉しいぞっ!」
もう御屋形様は手遅れだと、そこにいる全員がそう思いました。
「…………」バシッ!
「お嬢様!!?」
お嬢様はなんと無言で男を睨みながらさらに臀部を叩きました。いけません、すぐにお手を洗って消毒しないと!
それからすぐ客室に迎える用意をし、気絶しているトーヤ様をベットに寝かせ、部屋を去ります。お嬢様はベッドの横に椅子を移動させ、そこで座ってトーヤ様が起きるのを待っています。本当はこの男と二人きりにさせたくはないのですが、命令ですので仕方ありません。何かあればすぐ駆けつけらるよう、扉の横に控えておくことにします。
「うわぁああああああ!」
俺は飛び起きた。ひどい夢を見ていた気がする。暴れる心臓をそのままにあたりを見回す。ここは俺の内…
「じゃねぇ?!」
え?何?ここ何処?俺んちが行方不明??俺は混乱の極みにあった。確か俺はマリアたんの制服を身に着け、抱き枕を抱いて寝たはず。それなのにここは俺の家じゃない?まさか…あの姿を誰かに見られた?!
「お目覚めですか?」
「うひょうおおおおおぃ!」
人生で初めてこんな声を出した。声のした方を見ると女の子が一人こちらを見ていた。
「お初にお目にかかります。私カトリーナ・フォーチャー・トレーターと申します。」
「あぁ、はい初めまして、相沢冬也です。ここは一体・・・あれ?服が変わってる?!」
「ここはトレーター家の屋敷です。トーヤ様は、私が発見した時には意識がありませんでしたので、この客室でお休み頂きました。服は失礼ながらこちらで用意させていただきました。」
「あの…来ていた服と枕は…?」
そう尋ねると少女の瞳から光が無くなり、
「あちらに畳んであります。しかし、上着しか身に着けておられず、下は…」
いいいいいいぃぃやああああああああああ!!!!!見られてた?!?!誰もいないって言ってたのに!誰も咎めないって言ってたのに!
「ご安心ください。服を着替えさせたのは男性の使用人です。」
複数人に見られてた?!
「あの…俺はどこで意識を失っていました?」
「……私の部屋です。私の目が覚めた時にはすでに…」
…10歳くらいの女の子の部屋に→下半身に何もつけてない抱き枕を抱いた男が→朝起きたらいた。…お巡りさんこっちです。これはまさに<ジアン×ト×ヘンタイ>警察に
「This way,Follow me」
されてボられてもおかしくない。
「殺さないでください。」
速攻で土下座した。
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