07. 神の予約者

 そのアップグレード契約をした者は。

 『神の予約者』と呼ばれていました。



 ――はい。多神教です。



 の住所は、ブランヌ国のパリフォルニア州に移転されました。



 アースホースの利用規約利用規約あるあるに、『本サービスが、パリフォルニア州のみを拠点とするとみなされることに合意します』と記載されているからです。



 すぐに慣れました。

 かつてバーチャルアースホーサー『カリノタイ仮の体』だった私の、実態ぬけがらは、実際にパリフォルニア州の、とある一室に移動しましたここはフィクション


 現実世界に在るこの実態ぬけがらは、その部屋の外へは出れません。


 でも私には、なんの問題もありません。

 私の居場所は、『アースホース』という仮想世界の中にあるのだから。


 ウーロッパでは、私にかかる税金が、グンと上げられそうになりました現世では、欧州がプラットフォームに厳しい

 現実世界による対抗措置……といいますか、無駄な抵抗です。


 私、いえ、私の目は、そんな世界へ向けられてはおりません。


 アースホースを利用してくださる、1人1人のユーザー様。

 全ては、ユーザー様の「楽しい」のために。


 より、便利なサービスを提供して。

 より、ユーザーを増やして。

 ユーザーが増えれば、私達に出来ることもまた、増えます。


 そうやって、私達は目指しているのです。

 びっくりする程の、ユートピアディストピア?を。



『神の予約者』たる私は、アバターの見た目の変更や、仮想世界における移動など、自由自在です。


 他のユーザーの情報すら、入手可能です。


 私は、仮想世界における見た目や、見かけの住所アドレスを、1日の内に、何度も何度も変えました。



 その理由は。

 私の永遠の憧れ。声優の磐田いわたあきらさん。

 磐田さんのバーチャル世界握手会に、何度も何度も並ぶためです。


 今、ここにある仮想の武道館。

 その中を埋め尽くす、握手待ち列に並ぶ、大量のファンたち。


 その、半分以上が私です。


 ――はい。私、『神の予約者』ですから。

 

 私が今の、有り体に言えば『超越者』で居られるための条件は、昔とは変わりました。


 アースホースの単なるユーザーであった頃は、投稿動画の再生数や、チャンネルの登録数などでしたが……。


 今では、このサービスへの「新規登録ユーザーの」です。


 私どもの姉妹サービスとして、『グルグール詮索』という、便利なネット詮索サービスが有ります。


 詮索サービスの利用者情報を抜き出し、アースホースに未登録の人間を見つけては、私はその人の、ORゴーグルの中へと飛んでいくのです。



 私自身がアースホースになる。

 つまり、私が愛する仮想世界そのものに、私がなる。


 あちこちを巡回して、新たな仲間を探して、契約ユーザーを増やす。


 最終的には、現実世界のすべての人間が、この仮想世界つまり私の、一部となるでしょう。それが、私達の目標。


 アースホースは、今はまだ、仮想の世界。

 でも、私達の目標が達成した時に。

 本物の地球アースに、アースホースが、取って代わる。


 その時私達は。

 本当の意味で、神になるのです。


 だから。

 それを未だ成し得ていない、今の私は――。

 


 神の



 橋本先輩と、同様の。



 ◆



 ある日。巡回中の私は、一人の男性を見かけました。


 山城から、城下町を見下ろす、見覚えのある人物。

 かつての私が、中学生だった時に好きだった、細美濃ほそみの君。


 立派な青年に成長していましたが、私にはすぐに、「彼」だと分かりました。


 私は、自分のアバターを虹に変え、彼が装着している、ORゴーグルの中へと、飛んでいきました。


 そして、自己紹介。


「私は、亀井です」

 もう、使うことなど無いと思っていた、私を識別する為の符号の1つ。


「えっ? 君の、名前は――亀井さんなの? もしかして、中学の時の……。随分と、見違えたね……」

 

 かっこいい青年になった細美濃ほそみの君は、驚いています。


 そんな彼に。



 私は。



 ミディアム位の髪の長さで、活発で、可愛い。

 、そんな見た目へと、私のアバターを変えてから。



 満面の笑顔で、言いました。



「――ねぇ、私と契約して、バーホーサーになりませんか?」



<続く>













 

 と、思ったのですが。

 君は、とても不思議な事を言い出したのです。


 ORゴーグルは、毎年凄い勢いで、バージョンアップを繰り返しています。


 いまや、人の周りの、《勝利フラグ》や《恋愛フラグ》などのフラグを「見える化」できる程に、進化しています。


 『神の予約者』である私は、当然ながら、管理者権限を使って、個人情報も入手できます。


 どうやら、大学を卒業して、とある私立学園の教師になったらしい、細美濃ほそみの君。


 彼は、目の前に右手を出して、その人差し指と中指をくいっと、上に上げました。



 その二本の指を、勢い良く、くいっと曲げました。

 まるで、何かを引っぱり出すかのように。



 そして、彼はこう言いました。

「《世界征服フラグ》、エレクト」



細美濃ほそみの君? 何を、言って……」



「あのさ、亀井さん。ウチの教え子にね? 瀬野せのってやつが居るんだよ」


 爽やかな笑顔を見せた細美濃ほそみの君は。

 私のアバターの、ミディアムヘアーな頭を、軽くやさしくなでながら、付け加えたのでした。


「そのイケメン、なんだけどね?」




<続く(今度こそホント)>

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