伝説の3Dプリンター 編

現世と同様「複製権」があるのに、中世ファンタジー世界? しかも3Dプリンターまで生まれた!

01. 盾と剣



 『案の定』とは、こういう事を言う。



 我が王国は、魔物の侵入を許していた。

 戦も災厄も現実も、こちらの準備を待ってなどくれない。


 伝説の剣、盾、鎧を集めに言った、くだんの勇者一行も戻って来ないまま、城下町近くまで攻め込まれている。


 フィエロ国王である余も、鎧に身を固め、本陣にて指揮を行っていた。右手に盾、左手に剣を携えて。


 王国兵は善戦していた。

『平時に乱を忘れず』の原則ドクトリンをしっかり守っている。

 兵の訓練を怠ってはいなかったのだ。


 報告によると、侵入している魔物は獣タイプ。

 短い4本足を持ち、人より少し大きい獣で、「マ”ー! マ”ー!」と、しゃがれた声を発していた。


「まるで、ヲットのようだな」

 余は言った。


「御意に」

 戦いには向かない、麻の服を着た書記官が、かしずいて言った。


 王国内には、『ヲット』という、ツノ付きの小動物が生息しているのだが、それを巨大化させ、角を1本から3本に増やしたかのような、そのような魔物。


 報告された特徴に基づき、この3本角元ネタの魔物を、『スリーヲット分かるかな?』と名付けた。



「王国兵6名を1組として、スリーヲット1体に対処させます」

 白銀の、シャープな鎧を華麗に着こなし、そう報告するトライク公爵は、『三白眼の貴公子』とあだ名される余の側近であった。戦時には参謀ともなる、思考のキレに定評のある男だった。


 ――神経質であるという欠点も、有してはいたが。



 国防を王国兵に任せて、城で安穏あんのんとする行為は、余の趣味ではない。危機には自ら出陣し、共に戦うのが、国王のあるべき姿であろう。それが、亡き我が父、アルク大公から受け継いだ精神。


 緩やかな斜面を呈する、高台にある本陣から、遠見筒を使って、前線の戦況を確認する。


 1体のスリーヲットを、複数の王国兵で包囲し、で殴っている。特に「はがねの盾」が効いているようだ。


 魔物スリーヲットは、3本角の突撃と、前脚攻撃とを行って来ていた。


 しかし……魔物の数が多い。

 そして、どの魔物も、似通った容姿であった。

 角が、どの方向から見ても3本に見える。そして、糸目。


「個体差の無い魔物ですな……我が君」

「うむ。まるで1匹の魔物を、3Dプリンターで複製したかのようだな」

「だとすると、その複製行為に、創作性がありませんな。新たな著作物とはいえないでしょう」


 またも、貴公子トライクの著作権バカが始まった。

 そもそも、モンスターを著作物に入れて良いのか?


 人間と魔物の身体能力の差は歴然。

 前脚攻撃を受けた王国兵は吹き飛ばされた。


 しかし王国兵は、訓練が行き届いていた。

 スリーヲットの攻撃を、を使って上手くいなし、受け流している。


 盾で攻撃。剣で防御。

 日頃の訓練の賜物たまものである。


「勇壮な戦いぶりだ、我が兵は」



 しかし――戦況に変化が訪れる。



 より大型の、2本足の魔物が現れたのだ。

 「ボエエエエ!」と咆哮も大きい。

 その大きさから、余はこの2本足の魔物を『ジャイマンティ』と名付けた。


 王国兵が数人がかりで対峙たいじしても、その侵攻を全く止められない。


「緩やかに後退! ジャイマンティの力を受け流せ! 遠距離魔法部隊の前面までおびき寄せて、十字砲火だ!」

 そう指示を出す。

 

 我が兵団は良く機動した。

 四方から、炎の魔法が放物線を描き、ジャイマンティへと降り注ぐ。


 ドドドオ!


 しかし――。


「ばかな!」

「直撃のはずだ!」


 ジャイマンティには、鱗があるようだった。

 降り注ぐ炎は、その装甲を貫通することができない。


 ジャイマンティの進撃が止まらない。

 配備しておいた、数々の投石器が飛ばした大岩も、直撃してもびくともしない。


「うわーーーー!」

「ひぎゃあああ!」

「ひぃぃぃぃ! 助けてくれ!」


 ある兵は引きちぎられ。

 ある兵は踏みつぶされ。


 明らかに冷静さと士気を失った兵達の悲鳴が、波のように戦場を伝搬――。


 まずい……。


 城下町まで侵入を許してはだめだ。女子供も暮らしているんだぞ。


「何としても、ここで食い止めろ!」

 そうげきを飛ばすが、それを実現する「策」がない。

 思わずギリリと歯軋はぎしりをしてしまう。


「我が君。ジャイマンティの群れがこの本陣まで参ります。城までお逃げ下さい」

 トライク公爵が青ざめた顔で進言する。


「馬鹿者が! 余が逃げたら、総崩れとなるのは必定ひつじょう。食い止めねばならん」

「しかし、どうしようもありません。ご覧ください、あの惨状を!」


 トライク公爵の指差す方。

 2本足のジャイマンティが、兵士達を文字通り「蹴散らし」て出来た血の通路。

 そこを通って、4本足の魔物、スリーヲットもまた、本陣へとにじり寄っていた。


「くっ……」

 余は、右手の盾を、強く握る。

 手持ち戦力ではどうすることも出来ないことは、もはや明らか。


 全軍撤退……?

 遠征軍ならばそれでいいだろう。逃げ延びて再起を図れば良い。

 しかし我々は、国防軍なのだ。




 ここで引くことは、国の滅亡を意味していた。



 あの魔物の群れが、大挙して城下町へとなだれ込む光景を想像し、余の背中を、冷たい滴がタラリと伝った。



 ――その時だった。



 戦局を変える風が、吹いたのは。

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