第3話 正拳突き、始めようと思いました。
ドラゴンさんの巣穴ってのは、どうも話を聞く限り山頂付近の洞窟らしくてですね。布切れ一枚しか身に纏ってなくても温かで過ごしやすいんですよ。
おまけに洞窟の広間……広間? まぁ、広間の天井からは日の光が差し込んで綺麗な空が拝めるわけですな。私とドラゴンさんは大体その広間で日向ぼっこしながら、供物の食事を頂いて食っちゃ寝してるわけです。
いつだったか、文明レベルが下がると生きるモチベが下がると言ったな?
すまん、あれは嘘だった。めっちゃ充実してます。
本やゲームといった娯楽もないですけど、ドラゴンさんの念話によってこの世界の様々な知識が、音声有りの動画有りの字幕までついた臨場感溢れる演出が脳内に展開されるので退屈しません。
五歳になった今でも、念話にはお世話になっています。
なにより、動かずとも多種多様の知見を得られるというのが良い。実に良い。
これってある意味、21世紀でも体験し得なかった高度な文明なのでは?
「そうは思われませんかね?」
「知らん。そんなことより少しは動け。運動しろ」
「めんどいです」
「……」
ドラゴンさんの有無を言わさぬ眼光に脅され、近頃になって運動を開始しました。
いや、違うな。私が自分から運動したかったに違いないですね。動かないでいると、ほら、こう……暇ですし。
いやいや、暇も嫌いじゃないんですけどね。でもほら、異世界転生したからには、強い肉体や魔法に憧れるじゃないですか。
念話でそういった知識をも得ている私ですが、五歳児の子どもに魔法の実行はまだ早いというドラゴンさんの言いつけを破れるはずもなく、じゃあ肉体でも鍛えっかねということになったわけです。
で、この世界の知識での鍛え方というものはどれもこれも、ある程度の肉体的な成長を必要としたものばかりでありまして、参考にならなかったわけでありまして……率直に言って困りました。
そこで、某狩人の漫画で有名な感謝の正拳突きを日課としようと閃いた私です。
ほら、両手を合わせて祈って、拳を前に出すだけでしょ? 軽い軽い。ゆっくりやれば余裕でしょ。祈る時間が増えたって書いてましたし。
とは思ったものの、異世界でも現実の壁というものは非常にシビアでありまして、
「運動が不足しているからそうなる」
「ですよね……」
で、準備運動でもするかとやってみたラジオ体操で、全身の筋肉がくたびれてしまったという体たらく……。
しばらくはラジオ体操の第一と第二を完走することを目標としつつ、正拳突きをしていきたいなーとか思っている所存です。
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