陳粋華、尉遅維に出会う。
文人が
一も二にも文、なり。これを以て伝え、伝ひ知識を得、溢れんが如しまさ黄海、東海、南海の三大海のよふ。
文人、蛇蝎の如し策略を持って、先に汎原を制し武と大きさで秀でたる巨人を圧しこれ尽く一切駆逐す。蛇蝎のごとし策略以上の良策は無し。
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ごとごと、ゴトゴト。ごろごろ。
驢馬車を引くのは、驢馬二頭。戦で何があるかわからないので、名前をつけるのはやめた。
人殺しの
食べなければ、いけないときもくるから、、と。
御者は、
夏侯禄は、風焼けした肌に武官らしい鷲鼻を持つ。ものすごい痩せぎすで、禿げていて、
もう、季節は秋である。
確か、
陳粋華だって、最低の官位だ。
がたごとがたごと。
最初の二三日は、マジで驢馬車に酔った。吐いた。夏侯禄に気の毒がられ、羅梅鳳は昼と夕方に黒馬に乗って見に来ては、笑った。
そして又、酔った。吐いた。気の毒がられ、羅梅鳳に日に二度笑われた。この周期を三、四回経た。
最初は、首だけ驢馬車からだして、やりすごしていたが、
で、歩き疲れたら、驢馬車に乗ることにした。すると酔わなかった。
すると、羅梅鳳が、
「おまえは、どこぞの、後宮の公主様(後宮の第二夫人あたり)か、王侯貴族か」
とからかう周期が完成してしまったので、今はそちらの対処に閉口している。
今は、なんとか、羅梅鳳からわからない位置で行軍する方法を日夜研究中である。
これが恐ろしく難題なのだ。なにせ、相手は、
なにせ、十万の大軍である。街道いっぱいに先頭から最後尾までものすごい距離と幅で北伐軍は行軍中である。常に先頭の軽装騎馬部隊が見えないか、最後尾の輜重隊が見えないか、どちらかである。
そして、軍自身の数の多さで渋滞が生じたり、訪れた街に卒が全員入りきれなかったりする。
卒の連中は
十万といえば、中規模の城塞都市の市民の数に匹敵する。街ごと移動しているといってもよい。すくなくとも、この十万に紛れていれば、死ぬことはなさそうだ。
驢馬車の中は、文具四宝はあまり場所を取らない。大量の最先端の記録媒体。雑布、羊皮、牛皮。もちろん清書用の、竹簡に木簡。
竹簡の青さの為、正史を音が同じ”青史”とよんだりする。それにどんな水分にも強い
陳粋華は、この北伐軍の正式な右筆、記録員なのだ。当然である。
陳粋華は驢馬車酔いにも慣れ、一人、愉悦に入っている。
司史所では、雑布にすら結局一文字も墨と筆で記すことすら許されなかったのに、今は筆はおろか、微細刀ですら竹簡に書き放題である。
しかし、やっぱり竹簡と木簡はちょっと敷居が高い。雑布に筆で、ちょこちょこ書いては、一人クスクス笑って、
何を書いているかは、秘密。くすくすくす。
しかし、
もちろん、陳粋華の所有物ではない。
『いい香り、、ポワーン(*´ω`*)、、、、。』
と喜びに浸っていたら、夢か、幻か、更に良きものが、御者の夏侯禄の隣をさーっと動いていった。
駆けていったのだ。
『まさに、美そのもの、めっちゃ、イケメン!!(*^_^*)、、、、、』
この北伐軍の軍師、参謀、
乗っている馬も背毛だけ灰色の白馬、確か馬の名前が
人殺しの羅梅鳳の馬まで目つきの悪い黒馬とは偉い違いだ。
軍師は弟子を連れた、文官である。武官ではない。一応、戦場に赴くため
この北伐軍の軍紀が高く維持されているのも、総大将の李鐸、軍師の尉遅維の存在あってのことである。
『ほえーっ』
並足で軽く、騎馬三騎で駆けてった、騎乗の尉遅維を思わず陳粋華は驢馬車から降りて、追いかけていってしまった。
「
思わず夏侯禄が声をかけたが、年頃の娘に老人の声などイケメンの前では無力だ。
陳粋華はこの世のものとは、思えない魅力に惹かれて、三騎の騎馬の後をほぼ醜男ばかりの
「お待ちを尉遅維様、、、、尉遅維様、、、、」
自身で声を発しているか、発していないかも定かでない。
できれば、
季節は、秋。
街道の両脇は、金色に実りに実った背丈やそれ以上の高さの畑や田んぼである。
黄金の中を白馬に乗って、軽々と駆けてゆく、イケメン。
これを、美といわずして、この汎華大陸でなにを美と呼べばいいのだ。
陳粋華は、尉遅維に気を取られるばかりに、目の前の大男の卒の背にぶつかって尻もちをついてしまった。
「なんだ、驢馬車の
大男の卒がそう言うと、どわわわ、、、と複数の小さな笑いが、近くの卒の間でおこった。
しかし、そんな嘲笑は一切陳粋華には聴こえていない。
尉遅維との距離がさらに大きくなってしまった。
追いつこうと焦ったら、尉遅維三騎が止まり、全員下馬した。そして、両脇が黄金の広い街道から、心地よい風のふく中、三人が
尉遅維が連れていた弟子の
尉遅維がもうひとりの弟子である
これ又イケメンの淳于寧が
『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!、詩作するのか!!!!』
陳粋華は、この隙きに尉遅維との距離を詰めた。で、ちょこっとかくれんぼのような様相で
陳粋華の耳は、西方の灰色の巨獣
「弱き涼風、
けっ、女を都に残してきてるのか、、そのラブソングか、、、といきなり、ケチが付いた。
が、
『スゲ-さすが、
しかも、
”君”とは、天子様のことかも、しれないし、これまた恐らくイケメンの都においてきた同僚のことかもしれない。
クンがどっちもなし、で二重にかかっているのだ。
ゲスにして、邪念が多すぎるのは、陳粋華のほうだ。
屈んだ、陳粋華から、黄金の実った稲穂から見える尉遅維の
尉遅維は、薄くて細い詩作用の木簡にサラサラと細筆で記していく。
「
えーっ、昼間に月なんか、、、、。
出とるっ!!!。思いっきり出とるじゃないか!!。感情が高ぶると、田舎の
確かに出ている。午後の
そして、白昼の白い半月が恐らく、雲の白とかかるのでは、、、。
なんちゅー、、、。
『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!、、、、なんちゅー
これが、
尉遅維が
「此れ、安んじるは、豊穣の金の
尉遅維はさらさら、細筆で書いていく。
うんっ!?。
陳粋華は怪訝な表情を麦畑に屈み浮かべた。どっかで聞いたことあるぞ、これ。 安んじるは、北伐ならびにそれに従軍する尉遅維自身を詠んでるとして、金もわかる、麦畑だ。だけど、金の
はてって、こっちの
これって、斉の国の
『えええええええぇぇぇぇ(´・ω・`)』
程桓さんの「総詩篇集」なんて、士大夫にすれば、基礎中の基礎で二番目か三番目に習う詩集なのに、こんなミスは無いでしょ。
ちょっと二人のお弟子さん、ただちに直して差し上げねば、、、、。
淳于寧に呂樺は全く動く気配がない。
陳粋華は、一年目の
圧巻や状元たるや、このあと王朝の官僚組織でどれほど出世するかわからない、末は、大臣か丞相であろう。みなが褒めそやかし で、そのちやほやされた挙げ句に課挙登第以降にくるくるぱーになってしまう人が多いことを、、、、。
イケメンだからこそ、直して差し上げねば、、、。
陳粋華は
が、いかんせん、童と背丈の変わらぬちんちくりんのチビである。かろうじて、首から上が麦の実った稲穂の上で出たぐらいでしかなかった。
そして、尉遅維とモロに対峙した。
『あれ、ウッチーって、そんなにイケメンじゃないじゃん』
人の印象とは恐ろしい、たった一回の詩の盗作紛いを見聞きしただけで、これほど印象が悪化するものだろうか。
尉遅維も弟子の二人もいきなり、人がいるはずのない麦畑からニョキっと地黒の年齢不詳の女子が立ち上がったものだから、驚愕の表情のまま、声がない。
陳粋華は拳に掌を合わせ言った。
「天子様の
しかし、言葉が続かない。間違っているとか、嫌いだとか、嫌だとか、思ってはいても中々面と向かってしかも自分より上の身分の人物にすぱっと言うことは出来ないものだ。
陳粋華はごもごも、尉遅維と淳于寧と呂樺はぽかーん。奇妙な間があった。
しかし、尉遅維の詩作は続く。
「
『チチチッチって、そんな詩あんの?(´・ω・`)?』
しかし、何かわからぬ色黒のものが生えてきたことは確かだ。それは陳粋華も認めざるを得ない。
尉遅維は驚きの表情のまま、文具四宝を操り、詩作用の木片にさらさらと書き留める。
「この詩を
『あれー、あたし、ちちちっちって
陳粋華は嬉しいような、贋作に嵌め込まれ悲しいような、、。
十万と号する北伐軍の隊列は街道をそんな四人を置いててくてく進んでいく。
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陳粋華の男性レポ。
イケメン度 在 不在
衝突した卒の大男 二十一 不在
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