あなたの人生の長門有希

 図書館に行きたい、と言われたので、俺はたまの休日をこんな真面目な場所で消化している訳である。長門は俺の隣で黙々と電話帳を読んでいる。なあ長門、それ面白いのか?

「まずまず」

 どうやら長門は俺の心の声を読んで返事をしたらしい、こうなってくると俄然やる気を出して心の声を大にして長門とコミュニケーションをとってみたい、という願望が湧き上がってきた。えーと、なんにするかな、いいお天気ですね、なんてのはどうだ。

「今日は曇りでこれから台風の上陸で荒れることが予想される、おそらく閉館時刻になる頃には、あなたが家に帰れないほどの豪雨になることが予想される」

 そういえば今日は随分とどんよりした雲模様だったことを思い出す。

「そして私は閉館時間まで梃子でもここを動くつもりがない」

 しばらく長門が何を言っているか理解できずにいたが、それは長門が、俺がびしょ濡れになって家に帰れなくなろうが、本を読み続ける、という宣言であることに気づいた。俺の存在価値は今読んでいる電話帳以下なのか、長門よ。

「問題ない、あなたは私の家に来て一晩泊まっていけばいい」


 藪から棒の発言に俺は正直驚いてしまったのである、俺が驚いたということは、この地の文で長門に知れてしまっている訳で、これは大変恥ずかしい。

 なにより長門ぐらいの年頃の女の子が男を家に泊めるなんてことをしてはいかんぞ、そういうのは好き合ってる相手を見つけてしかるべき段階を踏んでからだな…最も過去に俺は3年ほどお前の家で寝たきりになってたことがあるが、あれは朝比奈さんも居たしノーカウントだ!


「問題ない、あなたはおよそ3時間42分後に私の家でシャワーを浴びている」

 一体これから3時間42分の間に俺に何が起こったというんだ。


「それに4時間16分後には家に谷口の家に泊まる、という連絡を入れるし、4時間57分後には私と一緒にレトルトカレーを食べている」

 なぜそこで嘘をつく必要があるんだ、いや、あるか、さすがにおふくろに女の子の家に泊まるとは言えないしな。


「それに8時間23分後には一緒の布団で寝る。」

 やれやれ、あの高名な長門大明神様が言うからには今長門が言ったことは、全部実現しちまうんだろうな。


「それに私はあなたのことを『この短編が始まってからタイトルを除いて句読点、鉤括弧も含めて189文字目』『1061文字目』。だから問題ない。」


 地の文がわからない俺にはそんなことを言われてもちんぷんかんぷんだがな。そう地の文で思うと、長門は少し頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。


 「しかし長門は随分未来のことを知っているな、どれくらいさきのことまでわかるんだ?」


「あなたは今からおよそ18250日後に死ぬ」


そうか、それは教えてくれなくてもいいぞ、長門。




「あなたの人生の長門有希」完

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