猿たちは全てが長門有希なんだと思っていた
涼宮ハルヒは全ての人間をジャガイモとしてしか認識できないのであるが、よくよく考えたらそれはひどく孤独なことであると思う。
いつだかハルヒが親父さんに連れられて野球場に行った話を聞いたが、つまりそこでハルヒは5万個のジャガイモと芋洗い状態だったわけである。それだけの数のジャガイモの皮をピーラーで剥く手間を考えると、なんだかゾッとしてしまう。
ハルヒは入学早々、「この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら私のところに来なさい、以上」と言っていたが、つまり、ハルヒはジャガイモではない人間を本気で求めていたのだ。
というわけでSOS団には今やハルヒ以外に宇宙人、未来人、超能力者が勢揃いし、なぜだか恐らく普通の人間であるがゆえに、ジャガイモとして認識されているであろう俺もまた、その末席に名を連ねている訳である。
惜しむらくは、揃いも揃った異質な存在であるSOS団団員諸氏が、ハルヒにそれぞれの思惑を悟られないためにジャガイモとして擬態をしている点にある。長門に至ってはもはや完璧にジャガイモである。ひょっとしたら最初の日から、椅子の上に本とジャガイモが置いてあっただけなのかもしれない。
俺がジャガイモにナイフを突きつけられ、あわや一巻の終わりかと思われた時も、天井からジャガイモが落下して来て事なきを得、一巻はそこで終わらなかった訳である。もっと言えば続刊も出た。
という訳で俺は今日もジャガイモさんの入れてくれたお茶を飲みながら、ジャガイモとオセロに興じ、休日にはジャガイモと図書館に行ったり、七夕にはジャガイモさんと過去へ行ったり、ジャガイモの家で三年寝太郎になったり、夏休みにはジャガイモ達と終わらない夏休みに興じたり、冬にはジャガイモの存在しない世界で4つのジャガイモを文芸部室に集めてキーボードのエンターキーを押し、その後ジャガイモにナイフで刺されたり、大小二種類のジャガイモさんに心配されたり、久々に会った中学の同級生が3つのジャガイモを引き連れてきたり、といろいろなことがあったのだ。
ある日、学校に来ると、ハルヒの顔面がジャガイモになっていたのでたいそう驚いてホームルームをボイコットして長門に相談に行った。長門は
「そもそも、狂っていたのはあなた」
と言ったのだった。
そして、そこには一冊の本とジャガイモが転がっているだけであった。
「猿たちはすべてが長門有希なんだと思っていた。」完
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