長門有希からのホットライン

ミネルヴァと地球が最も接近した時だって 、一億五千万ないし一億六千万マイルは離れているんだよ 。ビームがその距離を越えて目標に達するのに約十三分 、さらに命中の報が月面に届くのに十三分 。つまり 、ミネルヴァが最も地球に近い位置にあったとしても 、少なくとも報告までには二十六分の時間がかかるはずなんだ 。

–ジェイムス・P・ホーガン「星を継ぐもの」



 長門が分厚い電話帳を読むのをやめて、窓際で週刊少年サンデーを1ページずつむしゃむしゃと食べている姿を見ると、もう秋も深まってきたんだな、とすこし感傷的な気分になる。外の景色は、すっかり秋色に染まっていた。


 古泉は超能力でオセロの駒をふわふわと浮遊させたり、100円玉を500円玉に変えたりして見せて日本のインフレの加速を助長したりしている。


 朝比奈さんはお茶を入れながらも、2分先の未来に行ったと思ったら、5分前の過去に戻ってきたりして、消えたり、時折2人に増えたり、同一時刻の同一座標上に時間移動してきてしまって重なり合った物質の時間的な衝突によって現在の物理学理論では起こりえないような異常な熱力学的反応を引き起こして大爆発したりしていた。


 ハルヒはいつもの調子で、

「どうして不思議なことってなかなか見つからないのかしら」

 と呟いた。


「朝比奈さんが昔言っていたが船が水に浮かぶとか、そういうのは不思議じゃないのか?」

 と俺が言うと、


「別に、船は水に浮かぶものじゃない」

 と、不機嫌そうに顔をしかめた。それを聞いた俺は、そうか、船は水に浮くんだ、なんでそんな当たり前のことに、今まで気づかなかったんだろう、と思ったりしていた訳である。


 古泉は超能力が使えるタイプの人なんだと考えれば、別に何も不思議じゃないし、長門が電話帳や週刊少年サンデーを食べるのも、紙はもともと植物だということを考えれば、ちょっと形の変わったサラダを食べているようなものだし、読み終わった教科書を食べるなんていう暗記法が流行った時代もあったのだから、やはり本は読み物というより食べ物なのだろう。

 朝比奈さんが時間旅行をすることができるのも、例えば、数千年経てば、人類はタイムマシンを発明するだろうし、テレビが携帯電話で見れるくらいに小さくなったことを考えれば、タイムマシンだって目に見えないくらい小さくなることもあり得るだろう。何も不思議じゃない。


 そんな考え事をしていると、長門が少年サンデーを食べ終えたのか、俺たちのところにやってきて、

「これを見てほしい」

 と言って、手に持ったボールペンを手のひらから落とすと、そのボールペンはカシャンと音を立てて床にぶつかり、コロコロとすこし転がって、そして止まった。


「なにこれ!?すごい不思議じゃない!?」

 とハルヒは大変驚いたのだった。


「長門有希からのホットライン」完

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