「普通の長門有希」として存在したくないあなたへ。

 俺たちの住む街に宇宙船が落ちてきて、地球の7分の6が消し炭の変わった時、俺はなにを思っていたのかというと、これで明日のテストの心配をしなくて良くなった、などと不謹慎なことを考えていた訳である。


 長門にあれはお前の仲間かなにかなのか?と尋ねると、長門の返答は一向に要領を得ないものだったので、俺はずいぶん当惑してしまった。


 宇宙船から降りてきた涼宮ハルヒという宇宙人は、地球人類の全面降伏を要求したので、古泉は「これは大変なことになった」と言って窓から飛び出し校庭の赤い染みになり、朝比奈さんは「確認に行ってきます」と言ってドアを開けると突然やってきた10トントラックに跳ねられて8つの部分に分かれた朝比奈さんになった。


 ハルヒが立ち上がって「これは事件だ」と言ったので、俺は多分これは事件なのだろうと思った。

 バルタン星人が「いや、これは言うなればよくあることだよ」と言うと、ハルヒはことの事件性に興味を失い、また別の思考の窪みへ落ち込んでいった。


 俺は朝比奈さんとオセロを始めたのだが、先攻の朝比奈さんは長考をするばかりで一向にオセロの駒を盤面に置くことはなかった。たっぷりと4時間は続いた長考に、俺はとうとう朝比奈さんとオセロをすることを諦め、帰り支度を始めた。


 バルタン星人は窓際で地平線の彼方に今まさに落ちようとする真っ赤な夕日を眺めて、明日太陽がいつも通り再び夕日となって落ちるために登ってくるであろうことに思いを馳せていた。


「普通の長門有希」として存在したくないあなたへ。」完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る