長門有希は長門有希の長門有希を長門有希か?
「全ての道はパチンコに通ずる」と言う、かつての偉大なローマの偉人の言葉がある。
全くこの言葉の通りで、時間の経過によって忘れ去られつつある作品たちは、みんなパチンコに吸い寄せられるかのように集まっていき、やがてステンレスの球を吐き出したり、チューリップを開閉させたり、暁美ほむらの演出から美樹さやかの『私ってほんとバカ』に移行して遊戯者をキレさせたりするのである。
あの尊大な涼宮ハルヒもこの例外にもれず、俺は奴が物言わぬ鉄の箱となって、パトランプをピカピカ光らせたり、スピーカーからかつてのハルヒを思い出させるセリフを再生したり、下の口からステンレス玉を吐き出している姿を見て、えも言えぬ郷愁に襲われたものである。
10月も半ばに入り、やや肌寒くなってきた頃のことだ。
俺はいつものように谷口のナンパの誘いをなあなあに断ったり、国木田のキョンは変な女が好きと言う話題を適当にあしらったり、ワックスを塗ったり取ったりしてカラテの訓練をしたりと言う、いつも通りの日常を送っていたのである。そうです私が変な女です、と志村けんの声真似で話題に乱入してきた長門の延髄に流れるような手刀を叩き込んで黙らせたりと言うのも、言うなればありきたりな青春の一ページといった具合だ。
朝倉が俺の席の後ろに座ったので、何のことはない、また“消失”だな、と決めつけて、ダラダラと始まったホームルームの内容を小耳に挟みながら俺はこの騒がしい青春から一時期逃れるためにまどろみに沈むのだった。
目を覚ますとどうやらもう放課後らしい、何の事は無く俺は今日の授業時間を全て睡眠に譲り渡し、今目覚めた、と言うだけのことだった。
「遅いよ」
朝倉涼子が俺に笑いかけていた。
「お前か…」
と俺は答えた。
「人間はさあ、よく『板垣死すとも自由は死せず』って言うよね、これ、どう思う?」
それは板垣退助しか言っていないのではないだろうか。
「『ブルータス、お前もか』だったかしら」
それもユリウス・カエサルしか言っていないのではないだろうか。
「それを言うなら、『やはりエジプトか……いつ出発する? わたしも同行する』」
それも花京院典明しか言ってない。何だ長門、いつもより早かったな。
「じゃあ『あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る』だったかしら」
それはもうちょっと後のセリフだろ。
結局その日はセリフを思い出せず、帰りにコンビニで肉まんを買って、たわいのない談笑をした後、明日こそ文芸部でプルーストの『失われた時を求めて』を読破しよう、と三人で約束して、俺達は帰途についたのだった。
「長門有希は長門有希の長門有希を長門有希か?」完
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