長門有希が静止する日

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、メル・ギブソンがいたら、私のところに来なさい。以上」

 というわけでまさかハルヒが本当にメル・ギブソンを連れてくるとは思っていなかった俺であったので、まさかメルが『マッド・マックス サンダードーム』の冒頭の姿で転校生としてやって来た時には随分驚いたものだが、人間というのは環境に適応する生き物であるので、何変わることなく俺たちは普通の学園生活を送っている。メル・ギブソンにだって人並みの学生時代はあったはずなので、メルがいるから非日常である、などと言われたら、メル・ギブソンもとんだ迷惑だろう。


 というわけで俺は、宇宙人の長門有希、未来から来た猫型ロボットのドラえもん、『マッド・マックス サンダードーム』冒頭のメル・ギブソンに囲まれて、それなりに楽しい学園生活を謳歌しているのである。


「見た目に騙されてはいけない」と時折ドラえもんはいう、メル・ギブソンは「あなたは私の心をお読みになった!」と言って平身低頭ドラえもんを慕う。これも言うなれば、ありがちな青春ドラマであって、一般的な高校生であれば、誰だって一度はそういう場面に遭遇したことがあるだろう。でも、誰がどう見たって、ドラえもんはタヌキのロボットだ。猫型である、というのは、あいつ流のジョークのようなものなんだろう。俺の家にいるシャミセンと見比べてもどうしたってあいつが猫型とは思えないのだ。似てるところはヒゲくらいのものだが、それこそヒゲなんて、タヌキにだって、サルバドール・ダリにだって生えている。


『午後七時、陽光園駅前公園にて待つ』と書かれた栞を長門が手裏剣のように何枚も俺に向かって投げつけて来た。どうやら俺が随分と借りた本を読まないので業を煮やしたように思える。


 これで長門がいなかったら笑ってやるが、どうやら笑わずに済んだようだ。

「ひょっとして、毎日待っていたとか」

と長門が言った。

どういう意味だ、それは

「…今のは腹話術」

それは随分先に出てくるセリフだぞ、長門よ。


 しかしまあ、結局のところ。

最初に話すことは決まっているのだ。

そう、まず——。

宇宙人と未来人とメル・ギブソンについて話してやろうと俺は思っている。


「長門有希が静止する日」完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る