地球の長い長門有希

 カレー食べ放題の店があるという話を谷口から聞いたので、なんとなく長門に話を振ってみたら、

「今日涼宮ハルヒが死ぬということが確定していたとしても、いくべき」

 と物騒なことを言ったので俺たちは今、そのカレーが食べ放題であるという店の前に来ている。

 どちらかといえばそこまで大量に食べる方ではないので食べ放題というものを倦厭していた俺だが、あの長門の頼みとなれば、たまにはこんな冒険をしてみるのもいいのではないかと思ったのだ。食べ放題の料金は1700円とやや割高だったが、日頃俺が長門から受けている恩恵を考えれば安いものだと自分に言い聞かせた。5種類のカレーのどの種類でもおかわり自由という形式のようで、メニューを食い入るように見る長門の目は、テスラコイルの放電もかくやと言わんばかりにキラキラと輝いている。

「これとこれとこれがいい」

 と長門が言う、

「注文は一つずつにしなさい」

 なんだかこんな時、俺はまるで長門の父親であるかのような錯覚を覚える。

 長門は夕食を取り上げられた犬のようにしょんぼりとした様子を示すので(といってもわずかに眉を下げただけだったが)

「じゃあ、俺はこれを頼むから、長門はもう二つの中から、先に食べたいのを頼めばいいだろ」

 そう言うと、長門は輝かんばかりの笑顔で(これもやはり、口元が少し上に上がっただけだったが)和風明太子カレーなる品を指差した。

「それにおかわり自由だから、他に食べたいものも、後からおかわりすればいい」

 なんだか微笑ましい光景じゃないか、などとこの時は思っていた、まさかあんなことになるとは思っていなかったんだ。


 結果を言えば、長門が際限なくカレーを食べ続けたことによって世界は大規模な食糧難に見舞われてしまった。そしてSOS団の仲間たちは、今日もまた食料を求めて荒廃した砂漠の上をあてどなく歩いている。

 ここにはかつて東京があったのだ。今ではもう、その名残さえ見ることは叶わない。

 かつてここには文明があったのだ。しかし文明とはやはり、食うものがあってこそだ。衣食たりて、なんとやらとはよく言ったものだ。

そうして俺たちは、ハルヒの足にかじりつきながら、食料を求めて西へ西へと足を進めていった。

 地球は今や、繁栄の時期を終え、長い午睡のまどろみに落ちようとしていた。

豊かな緑も、人類の文明の足跡も、もう見つけることの方が難しいだろう。

それでも、地球は午睡のまどろみの中で、夢を見るのだ。


 そして時折俺は考える。その夢こそが俺たちなのではないだろうか、と。


「地球の長い長門有希」完

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