さもなくば海は長門有希でいっぱいに

 野球場というのはとても広い。広すぎてもうなにがなんだかわからないくらいだ。


 そしてハルヒを除く俺たちSOS団の面々はいま、マウンドに立ち、野球に興じている訳である。何が何だかわからんが、どうやらこれは夢ではないらしい。対戦相手はダイエーホークス、迎え撃つは長門有希アオアシカツオドリズこと、俺たちだ。

王貞治の采配の元、7番の大道がバッターとして出て来た。

サードコーチャーの古泉は俺の方を見て右のきんたまを2度、左のきんたまを一度握った。

 これは『ジョン・レノン対火星人』のサインだ。俺は1塁を守るバルタン星人とレフトを守る朝比奈さんに同時に目配せを送った。2人は頷くとさらに隣の選手に目配せを送る。どうやらマイケル・ジャクソンとアンディ・ウォーホルにも伝わったようだった。

 ベンチから戦況を見守る長門とビオランテはそんな俺たちを見守りながら『チェコ・スロヴァキア併合』を行うとビオランテは隣にいるガメラをバットで滅多打ちにし始めた。ホークスの大道はその様子に困惑することなくしっかりと俺の右手の中に握られたボールに標準を合わせている。

 アンディウォーホルが二塁ベースでハンバーガーを食べ始めると、それを合図とする様に、一塁を守る『19世紀後半の印象派風絵画』と赤瀬川源平の『宇宙の蟹缶』は手と手を握りあい、チェ・ゲバラと共に『共産主義の為の大祖国戦争』の作戦会議を始めたのだった。

 チェ・ゲバラを慕って集まったゲリラは200人を超えていた。そいつらがグランドに立っているし、マリリン・モンローの扇情的なダンスもあったものだから観客席の人々は理性を失ってどんどんグランドに降りてきて収集がつかなくなりつつあった。

 ゲリラは暴徒と化したファンに向かって発砲し、スペイン国粋派のフランシス・フランコ・イ・バアモンデ将軍はスペイン共和派に対して戦術爆撃機による空爆を始めたのだった。バルタン星人は巨大化し、地球防衛軍はホームベースから出撃したミレニアム・ファルコンに搭乗するハン・ソロの対応で後手に回っている。

 球場の上の制空権の確保は困難を極めていた。

 そして、アンディ・ウォーホルはハンバーガーを食べ終え、今度はシャカシャカチキンの袋を開けようとしている。

 俺は焦っていた。なぜなら、これはもう野球と言えるのか怪しくなってきたぞ、と思ったからだ。

 ヤケクソになって策もまとまらないまま内角やや低めに投球すると、大道はバットを大きく振って高らかにボールを打ち返したのだった。どこまでも伸びるそのボールはナイター照明を背に受けて輝き、広がる銀河の星々の中へと吸い込まれて一つの星になるのではないかとでも思わせる様なホームランとなった。そうしてホークスは2回表にして2点の先制点を得たのだった。


 その日、球場にいた1人の少女は『自分が1億2000万人の中のちっぽけな1人』であることを知ったのであるが、それはまた別の機会に本人の口から語られるべきことだろう。俺は4年後のお前の言葉を覚えている。


『未来で待ってる』そう呟くと、キャップをかぶりなおし、次の投球のためにボールをしっかりと握るのだった。


『或いは長門有希でいっぱいの海』完

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