量子長門有希

 たぬきは人を化かすという。しかし、落ち着いて考えてみれば長門も人を化かすのである。

 あれは寛永6年のことであったが、たぬきときつねの化かし合戦に長門が参加し、長門はイガグリから毘沙門天、果ては宇宙そのものにまで化けて見せ、もののけたちを大いに震え上がらせたものである。

 宇宙そのものになった長門は、片手で天を、片手で地を指し「天上天下唯我独尊」と唱えたのだった。


 明治150年に長門は棘の長いハリセンボンであった。そのトゲトゲはチクチクと痛いので、俺は随分難儀していた。しかし、腕のないハリセンボンでは本は読みにくいので、長門は困ってハリネズミに変化した。ハリネズミになった長門はよちよちと短い腕で本をめくって文字に向かって鼻をヒクヒク動かすのだった。

 ハルヒは七変化を見せる長門を見ても、

「今日は暑いから、有希もハリセンボンやハリネズミにもなるわよね」

といつも通り不思議なことを認めない姿勢であった。


 朝比奈さんは今日も美味しいお茶を淹れている。今日はカニの甲羅の粉末とアスパラガスの乾燥粉末を煮出し、湯飲みにチョコモナカジャンボを突き刺してそこに煮出した汁を注ぎ込むのだった。


「みなさん、お茶が入りましたよ」

朝比奈さんがチョコモナカジャンボの突き刺さった湯飲みを俺たちに順に配っていき、最後にハルヒの頭の上に湯飲みを載せるのだった。



 古泉は俺とオセロに興じている。今日は珍しく古泉優勢で、古泉はすでにオセロの駒を34枚完食している。オセロの駒をバリバリ食べながら、俺はオレオを二つに分け、クリーム側を下にして盤面に叩きつけた。

「4、7歩ですか…」

と古泉が言った。それは将棋だろ。


「こんなに暇なのに、何もしないなんてのはSOS団の沽券にかかわるわ! 何かするわよ!」

とハルヒは熱湯に浸ったチョコモナカジャンボから垂れてきたバニラアイスで顔をべちゃべちゃにしながら叫び、立ち上がった勢いで頭の上の湯飲みが倒れ、カニとアスパラの出汁を顔面に被り「うあっちぃ!!!」と叫ぶのだった。

その出汁のあまりの熱さに、ハルヒは頭からどろどろと溶けていき、紫色のスライム状生物になってしまった。

「参ったわね…」

とハルヒは言ったのだった。


「量子長門有希」完

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