ヒッチハイカーズ・ガイド・トゥ・長門有希

 涼宮ハルヒという女は、なんと言っても不思議な女である。やれ「士農工商って、お金を持ってる商人がそんなに身分が低いわけがないじゃない」などと言いだして歴史を改変し、教科書を書き換えさせたり、「鎌倉幕府がいい国って、じゃあ他の国はどうなんのよ!」とヒステリーを起こしてまた教科書を書き換えさせたり、宇宙旅行をするためには現状のニュートン物理学に支配された世界だけでは不十分であることを知り、アインシュタインに相対性理論を発見させたりした。近い将来、相対性理論では光速を超えることができないという事実に不満を持ち、また教科書は書き換えられることになるだろう。


 このようなことができるのも、やはりあいつが『願望実現能力』というとんでもない能力を持っているからで、なんでも願望で済まされるなら、今ここで生きている俺の意思というのは本当に存在するのだろうか、などと疑いたくもなるが、その件については考え始めるとキリがないので、この辺りで思考を置くことにする。そういえば先日久しぶりに出会った中学の同級生の佐々木のことを、俺はどうやら高校に入学以来すっかり忘れていたようだが、これは果たして本当にそんなことが起こりうるのだろうか。古泉は世界5分前仮説などというたわけたことを言っていたが、なんだか俺もその辺りを信じてみてもいい気がする。

 何は無くとも、俺たちの世界では東西冷戦は未だに続いているし、ベトナムではアメリカが勝ったし、キューバ危機でアメリカ全土の7割と、ソビエト全土の6割が消失している、というのは動かしがたい事実である。

「ちょっとキョン聞いてるの!?」

 ハルヒが大きな声で俺を呼んだ。

「いや、すまん聞いてなかった」

 渋々俺は謝る、なぜならハルヒの機嫌を損ねてその場で爆発四散した人間を俺は何人も見てきたからである。


「明日の不思議探索は、エアコンの室外機を見に行くわよ!」




「ヒッチハイカーズ・ガイド・トゥ・長門有希」完

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