第144話 愛

 愛とは何だろうか。


 誰かをいつくしむのも愛。

 情欲に溺れるのも愛。


 愛の定義など人によって異なる。

 辞書を引いたところで、真の意味では理解はできないだろう。


 慈愛。

 仁愛。

 博愛。

 親愛。

 敬愛。

 隣人愛。


 そんな愛の中でも、これらの言葉には、比較的綺麗な、前向きなイメージがあるのではないだろうか。


 愛は美しい。

 愛は等しく尊いもの。


 そんなことを言う者もいる。


 だが、果たしてそうだろうか。


 溺愛。

 偏愛。

 情愛。

 寵愛。


 これらの言葉から想像するのは、必ずしもプラスのイメージばかりではないだろう。


 ……ただ。


 溺れていても。

 偏っていても。

 情欲が含まれていても。

 立場を利用してかこっていても。


 それは。

 それだけでは。


 必ずしも悪いことではないかもしれない。


 絶対に誰かに迷惑をかけるかと言われたら、そうでないこともあるだろう。


 だが……。


 ーー狂愛。


 狂ってしまうほどの愛は?

 誰かを愛し過ぎて狂ってしまった者は?


 ……誰かを好きになった経験があるかと聞かれたら、多くの人がイエスと答えるだろう。


 誰かを愛したことがあるかと聞かれても、それなりの人がイエスと答えるかもしれない。


 でも、誰かを狂ってしまうほど愛したことがあるかと聞かれたら?


 ……自分の全てを犠牲にしてでも、誰かを愛する者はいるだろう。

 そしてその者は、称賛されてもいいに違いない。


 では、周りの全てを犠牲にしてでも、誰かを愛する者は?


 周りの人からするといい迷惑だが、大部分の人にとって人ごとに過ぎないだろう。


 ……だが。


 周りだけではなく、世界の全てを犠牲にしてでも、誰かを愛する者は?







 愛する者のためなら、世界を滅ぼすことさえ厭わない。


 なぜならその人のことだけを愛しているから。

 愛する人のいない世界などどうでもいいから。


 ……愛する人さえいれば世界など。


 頭の中は愛する人のことだけ。

 それ以外のことなどどうでもいい。


 だから愛して欲しい。


 自分のことも同じように愛して欲しい。

 自分のことだけを愛して欲しい。


 無償の愛?

 無私の愛?


 そんなものに興味はない。

 そんなものに意味もない。


 愛する人と結ばれてこそ愛だから。


 ……愛する人と結ばれないのならば世界など。





 愛のために全てを尽くす。


 それが彼女だ。


 何をしてでも。

 誰かを犠牲にしてでも。

 愛する人以外、全てを犠牲にしてでも。


 愛する人と結ばれるためならば、全てを尽くす。


 彼女にはもはや愛する人以外見えていない。


 たとえそれが醜くても。

 褒められることでなかったとしても。


 彼女は止まらない。

 ……そして止めることもできない。


 たとえ神でもそれは止められない。


 世界を犠牲にしてでも。

 神に背いてでも。

 彼女は愛を優先する。


 それが。

 それだけが。


 彼女の生きる意味だから。

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