第2話
主神は困った。強い世界が生き残ることは喜ばしいが、圧倒的に邪神が足りない。滅びた世界から回収はしているが、それでもまだまだ数が不足し過ぎている。自分も育ててはいるが、他にも仕事がありそれだけに構ってはいられない。
というか、一体作るのにも早くて百年の間育てなければならないのだ。そんな手間隙かけて育てた邪神だが、下手をするとぱっとでの勇者に数年で倒されるので、じっくりと調整して簡単には倒せないように仕上げなければならない。妥協や油断は御法度の正に真剣勝負。他の仕事をこなしながら、邪神育成に全力を注ぐその苦労は計り知れない。
だが、やはりずっとそんなことを続ける事はできないわけで。
そろそろ本格的に、切実に、世界の試練である邪神の育成をする専門の者が必要だった。
だが、事は今最重要機密課題であり、もし失敗した際の後始末の事も考えると、簡単に誰彼構わずに依頼する事も出来ない。下手な存在を育てさせる訳にはいかないのだ。
制御出来ない巨大な力を持った存在の後始末に付き合わされるなど、忙しい主神としては勘弁願いたい。
力は勿論、技術、信仰、知識や知恵などの必要とする強大な悪の力を授けられ、しかしその存在に対してしっかりと制御することができ、そしてきちんと邪神と言う世界の試練の役目を果たせる存在を最後まで育てられる者――。
…そんな人物、簡単に見つけられるわけがない。簡単に見つけられるなら、こんなに困ったことになんぞ最初からなっていない。
そんなこんなで、ここ最近はこの問題の事ばかり考えてしまい、主神は頭を悩ませていた。
「何かいい者はいないものか…ん?」
「ニャァ」
ふと目に留まったのは、自らの膝に飛び乗ってきた聖獣だった。真っ白な見事な毛並みにクリクリと愛らしい瞳。膝の上でゴロゴロ甘える姿は正に猫そのものだ。
その名を『クレアチアス』といい、最上位の猫の聖獣であり、主神のボディーガードでもある。
「おお、よしよし。わしを慰めてくれるのか。ほんに、可愛い奴よのぅ」
まるで慰めているかのように、愛らしく頭をすり付けてくるクレアチアスの姿に、思わず主神の顔も綻ぶ。
これで主神の、一番のボディーガードなのだから信じられない。
こんなに愛らしい姿故に騙されやすいが、本来はとても気性が荒く、まず側に近寄らせないし、こんな風に触るなどとてもではないが出来ない。それでも無理に近寄ると、牙を剥き出しにして派手に威嚇し、次いで有無を言わさぬ攻撃で相手を殲滅する恐ろしい聖獣なのだ。
今までも数多くの神が愛らしい見た目のこいつを従えようと挑戦し、その命を冗談抜きで散らしてきた。
そしてついた渾名が
偶然でも遭遇すれば、気紛れを祈れとも言われ恐れられるそんな存在だが、今膝の上で甘えている姿はどう見ても只の猫そのものである。この姿を見て、警戒する方が可笑しいだろう。
ああ、でも…最初にこやつを見たときは、主神である自分でも思わず逃げようとしたくらいだったな。
クレアチアスを知っているからこそ、若干の恐れを抱きながら受け取った日の事を、今でも鮮明に思い出せる。…あれは、相等怖かった。
今ではお互いに信頼関係も築け、こうして気楽に撫でることも出来るが、当時は謀反を疑ったものだ。
そんなクレアチアスを撫でながら、そういえばと主神は思った。
そんな、ある意味最凶の聖獣を手懐け、見事主神のボディーガードにまで育て上げた若き神の事を。
『大事にしてくださいね』と優しく、それでいて芯の篭った目で聖獣を渡してきた彼の神。
その事を思い出した時、主神は思い付いた。
「…ふむ。あやつなら出来るかもしれぬな」
小さく呟き、主神は彼に会いに行くことにした。
後に
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