闇に染まりし聖女は無垢なりて
姫宮未調
聖女さま、旅に出る
1
「はぁ・・・結婚しないと、ですね」
村には少し大きな聖堂内。
村人と共に掃除をしていた修道女が溜め息混じりに呟く。
小さな小さな呟き。しかし、場所が場所なだけに反響。
そして、・・・共にいた村人たちは時が止まったかのように、同時に固まった。一瞬後。
「ア、アマーリエさま、結婚するだか?! 」
「まさか! サマンサさんとこの若造と良い仲だったでねぇか。ついに・・・」
「ち、違いますよ! バカ息子はアマーリエさまに不貞を働いて・・・」
パン・・・!
手を叩く小気味良い音に皆、ビクリと口を閉ざした。
「・・・仕方ありませんわ。ダイモンさまに好いた方がいらしただけのこと」
まるで天使のような美麗な笑顔で。
だが、空気が重い。皆が青ざめていた。
「世界は広いのです。運命の出逢いを信じて旅立ちますわ。そうと決まったら準備をしなくては」
箒を放り出し、アマーリエは聖堂の両扉を開け放ち、駆け出した。
「・・・大丈夫か? 」
「お綺麗でも・・・三十路、過ぎてるからねぇ」
「何も知らない男性は群がるでしょうよ。でも、あのことを知ったら・・・蜘蛛の子を散らすように居なくなるのが目に見えて、辛いですよ」
ふいに視界外から悲鳴が上がった。一瞬驚くが、すぐに溜め息に変わる。
「・・・ダイモンか」
「ダイモンだなや」
「・・・また余計なこと言ったんでしょうね。あの子は本当、バカで困ります」
確認もせずに。
2
アマーリエは考えていた。
この村には五年。もうずっと前からいるような優しい村。
長居してはならないと思いながら、随分といてしまったと。
出発するとき、皆が涙ながら様々な心境で送り出してくれた。
結婚したい、は本当。けれど、村を出る理由ではなかった。
「・・・皆さま、大変お世話になりました」
村から程離れた場所。彼女の周りには、彼女の倍近い大きさのモンスターが大量に倒れていた。
見えなくなった村に向かい、深々と会釈する。これで思い残すことはない。
小さな鞄とメイス。それだけを持って旅立った。
3
馬車などの足もなく、一週間掛かって街に到着した。
行商が多いようで、入り口から遥か向こうまで露店が途切れない。行き交う人も多い。
「・・・さて、男性がいるのは酒場でしょうか」
有言実行。しかし。
「あれー? シスターじゃん。超美人! 丁度僧侶探してたんだよ、なぁ」
後ろに向かって叫ぶ若い男性。ぬっと年嵩のある男性が現れる。
「ん? ああ、支援がいると助かる」
騒がしい若い男性と違い、落ち着いた男性。
「あら、わたくしも助かります。一通りこなせますので良しなに。アマーリエと申します」
闇に染まりし聖女は無垢なりて 姫宮未調 @idumi34
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