第4話 俺の両親と水鶏奈の胴体。

 水鶏奈くいなの頭部の遺骨はこれから専用の箱に入れられ、大事に保管される一方、胴体は未だに生きている為、俺の両親にどう説得すれば良いのか俺は悩んでいた。


 俺の兄貴はモスクワ大学でそういった研究をしているので、詳しい事情を聞けるのだが、俺は電子構文作成プログラミング専攻で、マイクロチップ以外の細胞の研究についてあまり考えた事がなかったので、どう対処するか分からなかった。


水鶏奈くいな…。」


 俺は水鶏奈くいなに優しく喋りかけるが、彼女の頭部がないので当然、返事が帰ってこない。

 けど、声で返事が来なくても手話で返答してくれるだろうと感じた。


「なる程、お前は凄く手話が上手いな。俺は、お前の胴体に触れると何か、心臓の鼓動、腸の動きなどを聞いて一安心する。」


 俺は彼女に詳しい事情が言えないけれど、それでも心臓や腸等の動きを聞いていると頭は死んでも身体の方は未だに生きている鼓動がして、一安心出来た。


 でも、今の彼女を見ていると頭がないのに身体はそれぞれの臓器が独立して役割分担をはたしている事になる。

 そうすると、脳の影響が無くなった事で却って身体が生き生きして凄く優しい鼓動になっていると思うと、はたして俺は頭があっても幸せなのかと感じる可能性すら生まれた。


 だから…、


水鶏奈くいな。俺の家へ行こうよ。」


 俺は兄が不在ながらも両親がいるから俺の家で詳しい話を聞きながら俺の家に寝泊まりさせようとした。

 **********

 そして俺の家辿り着き…、


水鶏奈くいな。俺の家のインターホンを押せるか。」


「…。」


 当然、水鶏奈くいなは頭がないから喋る事が出来ない。

 しかし、そんな状況だからこそ俺は彼女の身体を優しく撫で、彼女の右腕を使って俺の家のインターホンを押した。


…ピーンポーン。


「はい。どちらでしょうか。」


「母さん。俺と水鶏奈くいなだ。」


「耕哉。別に自宅のインターホンを押す必要性がないのに何故、押すの?」


「いやぁ。頭を亡くした水鶏奈くいなにインターホンを押して覚えさせる為だよ。」


「そうか。アンタは水鶏奈くいなの事を良く思っているんだな。」


「あぁ。でも、アイツの頭が死んだから喋る事が出来ないんだ。」


「そうか。分かったよ。水鶏奈くいなも一緒に入りな。」


 俺はそうやって俺の母ちゃんが喜んだせいか、俺と水鶏奈くいなは俺の家に入る事にした。


水鶏奈くいなちゃん。こんにちは。」


「…。」


 そうか、アンタは頭がないから喋れないんだね。

 俺の母ちゃんも水鶏奈くいなの頭部のない死体を見て始めはがっかりしたが、次第に母ちゃんは客間に来て、彼女のお腹を優しく撫でた。


水鶏奈くいなちゃん。私は医者だから少し、お腹の調子を確認するから我慢してね。」


水鶏奈くいな。嫌だと思うが、少し我慢するすれば、大丈夫だ。俺も優しく手を握るから安心して。」


 俺の母ちゃんは自宅で医者を兼用している。


 今日は日曜日なので母ちゃんは休診しているが、そのお陰で水鶏奈くいなの様子を確認する事が出来るだろうなと思うと母さんは逆に嬉しいと感じるのも無理もない。


 俺の母ちゃんは大学病院が嫌いで開業医として働いている。

 恐らく、大学病院の派閥争いが嫌だからこうして個人医としてやっている方が気楽なのだと感じた。


 そして、母さんの場合、極力、薬使わずに処方する様にしているので近所からは評判が良い。

 故に働く人や女性の事を考えた医者なのだと俺は思った。

 その影響からか中でも特に、女子学生やサラリーマンには非常に人気がある医者なのも大体、理解出来る。


 そして俺の父さんは医療機器メーカーの取締役だから、家に帰る日は意外と少ない。

 それ故にロシアの家とここで互いに行き来して休んでいる様だ。


 だから、普段は俺と医者である母ちゃんだけの環境で、しかも癌細胞は熱で死ぬ事、癌細胞増殖は脳のストレスが原因だと知っている優秀な母ちゃんだと思うと俺は凄く嬉しかった。


 かくいう俺は父さんに似ていて、兄貴が母ちゃんに似ている。

 だから、俺の兄ちゃんは細胞研究し、俺が電子構文プログラミング関連の勉強をしている。

 母ちゃん、水鶏奈くいなを診察してどんな様子なんだ?

 と俺は母ちゃんの顔を見ながら俺は水鶏奈くいなの身体も確認した。


「うん、水鶏奈くいなの身体は何も異常がない。寧ろ、頭のストレスが無くなった影響で寧ろ身体は凄く健康的だ。」


「頭がないから逆に健康的になっているんだ。」


「そう。胃癌や大腸癌の原因は脳のストレスが原因なんだ。だから、大腸も胃も脳から独立すれば癌になる確率は劇的に低くなる。」


「そうなんだな。母ちゃん。」


「あぁ、耕哉は本当に父さんに似ている。父さんもあんたも同じ情報欲の強さがより医療問題を解決しているんだよ。」


「俺や父さんの情報欲が医療問題を解決しているんだな。」


 確かに、母ちゃんは医者だが、特定の分野以外には非常に疎い部分がある。

 だから、俺や父さんが非常に大事な情報を得る様になるのは何となくわかる気がした。


 そして俺は母さんの診察を考慮して家に帰ったら母さんの手伝いや掃除や料理をしているのも母さんに負担をかけさせない事で良い医療をさせる為だと思った。

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