第5話 水鶏奈と俺。

「なぁ、水鶏奈くいな。俺の部屋に来て思う事があるか?」


 俺は水鶏奈くいなが心配だったせいか彼女に話しかけ様子を伺った。

 しかし、当然ながら彼女は頭がないので話す事が出来ない。

 けれど、手話にのり凄く素直に丁寧に話してくれるから俺は彼女が本当に俺の事を心配しているとつくづく感じた。


 頭では素直になれない事も身体だけだと素直に取る行動が女性では特に多い話を聞いた事があるが、まさに彼女は手話や身体の行動から優しくて素直な性格に俺は共感できた。


水鶏奈くいな…。」


 俺がいくら声をかけても、あいつの頭がないから喋る事はない。


 しかし…、


―――大丈夫だよ。耕哉君…。


 俺には水鶏奈くいなの天の声が聞こえて来たのだ。

 頭で喋る事が出来なくても、身体からは確かに心臓の鼓動がしていて、丸で彼女の身体には死を拒む力がある。


 そして彼女のお腹に耳を当てると腸が物凄く活性化している鼓動を感じ、俺は凄くドキドキした。


水鶏奈くいな。お前の身体はこんなに温かくて、命を感じる…。頭が、ないのにどうしてだよ…。」


 部屋に戻った俺は、自身と水鶏奈くいなだけがいる状態でアイツの胴体と俺の2人きりになったからこそ、何か言いたかった。

しかし、それは天の声だけだと思うと少しガッカリする…。


 何より水鶏奈くいなの胴体には生の波動を感じてくるが、頭にはそれが感じられない。

 だから、俺は彼女がどんなに身体の鼓動や波動を強く感じても彼女の声は頭がない以上、聞き取る事が出来ないなと思うと気が落ち込むのも無理もなかった。


「耕哉。悪いけどちょっと、水鶏奈くいなと共に診察室まで来てくれない?」


「うん、母ちゃん。分かった。今から行く…。」


 俺は母ちゃんのお願いから水鶏奈くいなの胴体と共に診療室で彼女の胴体を改めて診察してもらう事にした。


「耕哉。水鶏奈くいなの身体を調べてみたよ。そしたら身体の方は何事もなく、心臓も腸も生きているときと変わらないね。」


「母ちゃん。それは良い事か?」


「いや、首がないから誰だって不自然な事だと私は思うぞ。」


「そうだな…。」


 俺は何を期待しているのだろうか?

 もう、水鶏奈くいなの頭部は二度と蘇らないのに蘇ると思っている俺がどれだけアホなんだろうなと思いつつ、これから母ちゃんの話を聞いて彼女の状況を改善するしかなかった。


「ただ、心臓や腸は頭がある頃より生命力は寧ろ強くなっているから、健康な身体を維持してるのは確かだ。」


「そうか。つまり、胴体少女は身体だけは永遠の命を与えられると言うようなものだな。」


「そうだ。だから、癌細胞が出来ると高熱を出して、癌細胞を逆に死滅させる上、健康体なら胴体少女の方が私達より遥かに治癒力が高い。」


「つまり、胴体少女の生命力は普通の人間よりも格段に生命力が強い事になるんだな。」


「その通りだ。だが、頭を亡くした事で彼女達は口で言葉が言えなくなるからあらゆる面で、永遠の奴隷として生かされる危険性もあるからな。」


「奴隷…。」


 俺は母ちゃんが胴体少女についてかなり研究されていたが、まさか胴体少女は奴隷になる可能性があるとは俺も思わなかった。


「そうだ。胴体少女は頭がない分、身体で物を言わないと通じないから車とかの刃物で傷つく事はなくても心が非常に傷つく可能性が高い。」


「つまり、大事にしないと彼女達の心が傷つくと…。」


「そうだ。だから、耕哉には水鶏奈くいなの身体を守り大事にして欲しい。そうすればこいつの頭も喜ぶだろうな。」


「あぁ、俺は水鶏奈くいなを護ってやりたい。例え頭を失っても不利な社会を変えて見せる。」


 俺は水鶏奈くいなの頭を失ったからこそ、彼女の身体を救ってやりたい気持ちが強くなっていた。

 何故なら、頭を失っても身体があれば何度でもやりたい事を叶えるチャンスがある。

それに、彼女達は俺達よりずっと強い生命体や波動を感じるからこそ尚更、そう思ってしまうんだ。

 だからこそ、俺は彼女を大事にして後悔させたくないと思った。


水鶏奈くいな…。」


―――耕哉君…。大丈夫だよ。私は例え、頭を失っても身体があればずっと助けてあげられるから、心配しないで。


「あぁ、俺だけしか聞こえないアンタの天の声を確かに聴きとった。無理はしないけど、何かあったら手話で伝えてくれ。」


―――うん、ありがとう。耕哉君。


 俺は確かに彼女の天の声を聞き取り、なんとか彼女を大事にしながら助けてやりたかった。

 水鶏奈くいなは胴体少女になった為、病気や死、そして閉経などを奪われ、例え過酷な環境でもずっと生きなければならない。


つまり、彼女達の胴体は死ぬ事が出来ない上、胴体姿は永遠に残る事を表す。


 銃弾や刃物で彼女を攻撃すれば、防衛能力から逆に銃弾や刃物を蒸発させてしまう。

 そして、動物が食人しても彼女達胴体少女にはそれが通じないし、逆に食べた動物が殺される事もあり得る。


 そう思いながら、彼女達の生命力や回復力が異様に強くなった反面、死や老いなどを奪われた彼女達は例え、辛い状況でも、俺が例え死んだとしても、ずっとこの世で生きなければならない辛さを改めて感じ取る事が出来た。


「ごめん…。水鶏奈くいな。俺がちゃんとしていればお前の頭を生かす事が出来たのに…。」


 俺は泣いて悔やみながらもこれからの行いが大事になると感じた。

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