第5話 聖騎士現る!!

 さぁ、今週も見てくださいねー!じゃんけん!


 ドゴォ!


「ごへあっ!?」


 唐突な猪の頭突きが俺の鳩尾を襲う。


 これぞ本当のってね。あははははははははははは。


「笑い事じゃねぇ……こいつらめっちゃ強い……。」


 とりあえず山の中腹まで下りて、森の深い所までやってきたんだけど、さっそく困難に遭遇しております。


 何となくね!わかってましたよ!獰猛な霊山バーサーク・マウンテンとか言うぐらいだしさ!そりゃ序盤のモンスターも鬼つよな訳ですよ!


 今どういう状況かって?モン○ンで例えるならポ○ポ100匹に囲まれて順番に突進されてますけど?。回復薬もマッハっすよ。最初から一個もないけど。


「ちくしょう……どうすりゃいいんだ……。」


 困り果てた新人ハンターはどう餌食にされるのか!?こうご期待!!


 ……どこにも生きてる未来がありませんねぇ。

 

「【一閃・壊斬】!!」


 全ての望みを捨てたその時、凛々しい女の人の声とともに、とんでもない爆風が俺の体とイノシシたちを巻き上げる。


「うぎゃああああああああああっっ!!」


 あ、これ俺にもダメージ来ますか!?こういうのって普通ダメージないやつじゃありません!?


 それはそうとこのまま落ちたら死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


「……ん?誰かいるのか?」


「ああああああああああああああああああああああああもうむりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 無様な断末魔を上げて肉塊になろうとしたその時だった。


「【ライズ】!!」


 凛々しい叫び声と共に、一瞬だけ体がふわりと浮き上がって、そのままどさりと平穏に地面に激突した。


「……あ、あれ?生きてる?」


「すまない。怪我はないか?」


 振り向くと、手が差し出されていた。


 兜をつけていないが、重厚なミスリルの鎧は軽やかさを見せながらも堅牢そうで、しかし露出した腹筋の割れた腹部や、膝を出したミニスカートになっている鎧という、どこか女の子らしさも感じさせるその姿。極めつけはセミロングの金髪をうなじの辺りでまとめた奥ゆかしさに、負けず劣らずの日本人寄りな美貌……。


 すいません、ちょっと結婚してもらっていいですか?


「あ、はい。大丈夫です……。」


 俺が彼女の手を取ると、彼女はきょとんとした様子で俺をじっと見つめてくる。


「あ、あのぉ……?」


「あぁ、すまない。まさか人がいるとは思わなかった。何しろここは、鍛え上げられた戦士でも震え上がるような土地だからね。」


 そうなんですかー。俺そんなやべぇ所に100歳超えのジジババと暮らしてたんですかー。


「私の名はミレイ。イースタン王国の守護騎士で、僭越ながら「聖騎士」の称号を授かっている者だ。」


「へー、そうなんですか。どうりでお強い……。」


 ん?あれ?「聖騎士」?


 あれぇ?それどっかでやべぇって教わった気が……。


【お姫様には直属の部下、「聖騎士」がいる。こいつが強い。マジで強い。出会ったら速攻逃げろ。いいな?】


 おほーっ、開始早々寿命が来たようですよおおおおおおおおおおリンネおばあちゃまああああああ。


「……どうかしたのかい?」


「いやいやいやなんでもないッス!!自分「リーフ」って言いまッス!よろしくオネシャス!!」


 全身から吹き出る液体が何なのかもわからないまま、俺は全力でパイセンへの挨拶をキメた。


 逃げよう!まず逃げよう!何よりも先にまず逃げよう!


「そうか、リーフ君と言うのだな。ここにいるなら相当の腕だろう。今後ともよろしく頼むぞ。」


「はっ、はい!よろしくッス!!」


 聖騎士ことミレイさんは、にこやかに挨拶をしてくれる。


 あ、でももしかしたら、うまいことこの場をやり過ごせるんじゃない?


「ところでリーフ君、?」


「あー……すいません、ないっすねー。」


「そうか。……それは残念だな。」


 聖騎士さまは、それは酷くがっかりしたご様子でした。あーよかった、なんとかなりそー。


 そう思った刹那、俺の鼻緒からぴしっと、謎の血飛沫が上がる。


 直後に、焼けつくような痛み。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 咄嗟に尻餅をついて後ずさった。聖騎士さまの表情は無へ豹変し、構えた大剣から醸し出される凄味で気絶しそう!!


「……次はその顔ごとだ。もう一度聞く、?」


「クニクニクニクニクニクニクニクニクニ国ですっ!!なんかいきなりバーッて光って現れたと思ったら、またバーッて光ってお国に帰りました!!」


「戯言を……言うなっ!!」


 激おこぷんぷん丸な聖騎士さまが、携えた大剣を振り上げる。


 ズゴゴゴゴゴという地鳴りと共に、斬撃が地面を抉っている。


「アカンアカンアカンアカン!!」


 目の前に迫る一撃。そこでふと、俺はあるものを思い出した。


「そっか!リンネちゃんの短剣!」


 俺は腰に下げた短剣の封印を解き、見様見真似の素人の構えで立ち向かう。


「おりゃああああああああっっ!!」


 衝撃と短剣がぶつかり合う。


 その瞬間、パキンと言う音が響いた。


「アカンアカンアカンアカン!!」


 咄嗟に俺は飛びのいて衝撃波を躱す。後ろに逸れた一撃は、大岩を一刀両断にした。


「避けたか……すばしっこいやつめ。」


「いや無理でしょ!?戦うとかそれ以前よ!?あんなの飛んできたら逃げる場所ねぇじゃん!!」


 死んでも逃げろっつったって逃げたら死ぬよアレ!!?頼みの綱のリンネちゃんの剣も真っ二つだし!!


「ごちゃごちゃとうるさい奴だ!これで仕留めてくれる!」


 俺が動揺しまくってる隙に、死刑宣告とともに聖騎士さまが目の前に瞬時に現れると、左手を刀身に滑らせるような構えを取る。


「【神剣十二連撃】!!」


 見えるのは、とにかくたくさんの聖騎士さまの凛々しいお姿!!


「あああああああああああああああああああああああああっっ!!」


 ぶおんぶおんという耳鳴りが劈き、俺の体にある隙間と言う隙間を切り裂いてく。そしてちょいちょい肉を削っていく。正直死ぬほど痛い!!


「ッ!!?馬鹿な……これを躱しただと!?」


「あ、あの…………やるなら一思いにやってもらっていいですか?」


 どう考えても死ぬと思って、今の自分がどんな顔してるか想像もつかないが、とにかく涙と鼻水がかっぴかぴにはなってると思う。


「ほう……挑発するか。いいだろう。」


「ひぃっ!?」


 挑発!?してませんよ全然!むしろアンタの方が即死の一撃全部寸止めしてるんだからタチ悪いでしょ!!


「ならばこの一撃で終わらせる!!……【世界断裂ワールド・エンド】!!」


 聖騎士さまの技名発声と共に、大剣の刀身が黒々と輝きを放ち始める。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「ああああああああああああああああああっっ!!?」


 凄まじい突進と共に、切り裂かれた風も刃となって俺に向かってくる。


 いや駄目でしょ!!もう死ぬ!!無理ぽ!!


 ズドォォォォォォォォォォォォォンン!!


「………………あれ?」


 痛みゼロ。嘘ですちょいちょい肉キレてます痛い痛い!!


 って言うか痛い!俺まだ生きてる!!あんだけヤバい死亡フラグ立ってんのに生きてる!?


 ここまでビビらせて殺しませんか!?とんだ悪趣味だな聖騎士さま!?


「バカな……必中の【世界断裂ワールド・エンド】が、外れただと!?」


「………………こっ、」


 意識も半分朦朧とする中、俺は無意識に懐の中へと手を伸ばす。


「殺すならさっさと殺さんかい!!この生命への冒涜者がああああああああ!!」


 そして掴んだものの先端を振りかざしながら、聖騎士さまへ向けて振り下ろした。


 ピッッッッコオオオオオオオオオオオオオン!!


 甲高い音を響かせながら、伝家の宝刀ピコピコハンマーが、聖騎士さまの御頭に振り下ろされた。


「……………なっ、」


「なっ、じゃねぇよ!!何カッコイイ技ぶっ放しといて空振ってんだよ!!こっちは死にそうな思いしてんだぞ!!一思いにやってくれよ礼儀を重んじる騎士様ならサァ!!」


 もうどうせ殺されるからって言いたい放題だ。気分は餌をぶら下げられてお預けされるワンコ。噛みついちゃうよご主人様♡みたいな?ははは、うわキモ。


「このっ!!……だったら避けるな!私だって好きで空振ってるんじゃない「にゃん」!!」


「…………………にゃん?」


 真っ赤な顔で、激昂する聖騎士さま。


 それとは裏腹に、今耳を疑いたくなるようなかわいいキャラ付けが……。


「……あの、すいません。今「にゃん」って?」


「言ってない「にゃん」!!私はそんなこと断じて言ってない「にゃん」!!」


 言っちゃってるにゃああああああん!!全力で否定してるけど二回も言っちゃってるにゃあああああああん!!!


「ど……どういうことだ「にゃん」?なんだこのふざけた語尾は「にゃん」?……くそ!取れない「にゃん」!どんなに意識して止めようとしても取れない「にゃん」!」


 自分の語尾に戸惑い右往左往する聖騎士さま。完全にパニックに陥ってしまっている。


 一体なにがどうなっているんだ?攻撃が当たらないという致命的なステータスを披露したかと思いきや、突然になってやっつけでテコ入れしたような設定ブッ混んできたぞこの聖騎士さま。


「まさかっ!……あいつだ。きっとあいつのせいだ「にゃん」!!」


 愕然としてうずくまる聖騎士さまが何かを思い出したようで、すぐさま立ち上がると俺の方に向けて歩んでくる。

 

 そして、胸ぐらを掴み上げると大剣の先を向けてきた。


「おい貴様、大人しく命を差し出せ「にゃん」。これを見られたからには生かしてはおけぬ「にゃん」。」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」


 めっちゃ物騒なこと言ってるけど、凛々しい声に語尾がにゃんだから全然空気が締まらないいいいいいいいい!!


 ……ボイスチェンジャーがあれば、これをめっちゃ渋い男の人の声にしたら面白いんだろうなぁとか考えてしまう。


「ちょ、ちょっと待って!聖騎士さまは何か心当たりがあるんですね!?その取って付けたような語尾の原因が!」


「取って付けたようなとか言うな「にゃん」!……恐らく、道中出会った変な魔術師のせいだ「にゃん」。「お前無駄に美人でムカつくにゃん!私の苦しみを知れにゃああああ!!」とか言っていたからな。」


 な、なんてクソみたいな言い分なんだ!そして何て地味な嫌がらせなんだ!


「だ、だったら俺も一緒に行きますよ!な、何かの役に立つかもしれませんよ!?」


「貴様が?一緒に来る「にゃん」?」


 あぁどうしよう……ダメなら駄目で、もうちょっと緊張感のある空気で死にたかったなぁ……。


 付いて行って役に立つ自信は無いし、やっぱ斬り殺されちゃうかなぁ……。


「……まぁ、手札は多い方が良いか「にゃん」。その代わり、逃げたら速攻で殺す「にゃん」!」


「え!?いいんですか!やったーぁ!!」


 仮とはいえ聖騎士さまが仲間になった!めっちゃ頼もしい!


「さぁ、今行くぞ魔術師め!我が剣の錆にしてくれる「にゃん」!」


 ……聖騎士さまの後ろに付いて行って、死んでもいいから猫耳つけたいなぁと思う今日この頃でした。

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